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倉秋健人の場合 30


第五十九節


「インターバル中ってことでいいですか?」

「どうぞ」


 倉秋が脱ぎ捨てられたハイヒールを2つとも拾って、カラードレス姿の橋場のところまで持ってくる。

 差し出す。


「靴を置き去りとは…まるでシンデレラですな」

「…うるさい」


 少年口調だけがせめてもの抵抗だ。見た目はカラードレスでお色直し中の二十代女なんだが。


「仕切り直しだから履き直したまえ。分かるな?」

「断る」

「ん?それはありなのかね」

「インターバルは決めがあったからやってるだけだ。これがインターバル無し設定だったら脱げたからって履き直さないだろうが」

「どうなんです?ジャッジ」


 少し考えている綾小路。


「インターバル中に変身後を再現して仕切り直すことは決まってませんから履き直す必要はありません」

「…ほう」

「じゃあ!あたしが預かります!」


 飛んできた真琴がハイヒールを奪って再びギャラリーに戻る。


「…いいでしょう。3点目を取ったので、あと2ポイントで私の勝ちです」


 そうなのだ。せめてハイヒールは脱ぐことが出来たが状況は全く好転していない。「いい試合」にすらなっていない。正に一方的なのだ。


「スカートを抱える戦略は悪くありません。逃げるだけならね」


 花嫁にあるまじき怖い顔で睨んでいる橋場。


「元々この『ドレス』ってのは誰が着ようと恐ろしく動きにくいものでね…本物の花嫁さんにも指導するんですよ。ドレスでの歩き方」

「…」


 そっちの業界からレンタル業に引き抜かれたって経歴なんだろう。こいつの業界知識ひけらかしに付き合ってやる必要はないが、何かヒントがあるかもしれない。


「前方に向かって思い切りスカートの内側を蹴って跳ね上げる様にしつつ、一歩前に出て、次にその位置にもう片方の足を合わせる…これを繰り返して前進するんですよ」

「じゃあ、お嫁さんって一歩ずつしか歩けないんだ」真琴。

「ま、そういうことになります」


 なんてこった…そもそもスカートを手で手繰らないと女だろうがまともにスタスタ歩くことすら出来ない衣装なのか…それをハイヒールも履いたままバトルするなんてありえない。

 …何て能力だ。

 確かに能力そのものこそ接触式の基本だが、これは恐ろしく強いんじゃないのか?



第六十節


「あと…もうお気づきでしょう。THDの意味が」

「…っ!?」

「そう、相手に掛けると有利になるメタモルファイト三要素の頭文字。Tはタイトスカート、Hはハイヒール…Dは「ドレス」です」


 そうだったのか…言われてみれば確かにその通りだ。

 自らの身体を見下ろす橋場。

 きゅっと引き締まったウェストから大きく広がるスカート生地のど真ん中に自分の上半身が生えている様な気になってくる。

 この巨大なスカートが運動能力を阻害しない訳が無い。

 しかもハイヒールも併用だ。

 正に最悪の組み合わせだ…食らう側には。


「それから…お分かりでしょうが、私の能力は「お色直しのカラードレス」です。残念ながら白…純白のウェディングドレス…には対応してないんですが」

「ほう…」


 すると少なくともこの場で…真琴の目の前で…純白のウェディングドレス姿をさらす心配はない訳だ。…もう余り関係ない気もするが。


「…ちょっと待て。カラードレス…って言ったか」

「ええ」

「赤と黒のドレスって訳じゃないのか?」


 にやりとする倉秋。


「流石に察しが速くていらっしゃる。今のところ確認しているだけで3種類が可能なんです」

「はぁ!?」


 背後でまた女子高生姿の斎賀が立ちあがった。


「先ほど脱いだハイヒールを履くことを拒否されましたね…?そういう“おいた”はご遠慮願いたい」


「っ!?」


 真琴の手にあったハイヒールがひとりでに動き、空中を飛んで橋場のスカートの下から中に入り込んだ。


「うわ…うわああっ!」


 ぐん!と橋場の頭…身体全体の位置が高くなる。無理やりまたハイヒールを装着させられたのだ!



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