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倉秋健人の場合 29


第五十七節


 全くお話にならなかった。


 メタモルファイターの能力は後転的に身体を鍛えたりすることでは有為な差が付かない。だからこそ体格が全く同じで、お互いに全く鍛えることをしなかった二人のメタモルファイターが戦った場合、基本的には条件は同じになる。

 そこにあるのは「コツ」である。決して腕力ではない。


 ただし、裸の肉体でぶつかり合ってこそ条件が同じであっても、メタモルファイター同士の戦いともなれば後は「些細な条件」がモロにそのまま出る。

 だからこそ先日の「リクルートスーツ対セーラー服」といった条件マッチにてリクルートスーツの方が相対的に不利…という状況も出現しえたのだ。


 そういう意味で言うと、正に今の状況は絶望的そのものだった。


 およそあらゆる女物の衣装の中で、これほど動きにくい服はあるまい。キツく拘束された胴回りに、何しろスカートが重いのである。

 身体をその場で180度回転させても、スカート全体が合わせて回ってくれるまでにはかなりのタイムラグがある…どころではなく、重い生地で地面に接触しているので掴んで持ち上げなくては動かない。


「健全な男子高校生なら知らんだろうから教えてあげよう。現場で働く大人の心遣いに感謝するんだな」


 突然倉秋が語り始めた。


「その大きなスカートの中にはチュールと呼ばれる素材が満載になってる」

「…?」

「さっきからざらざら言ってるだろ。それだ。スカートを広がって見せる様に膨らませてる素材のことだよ」


 そうか!そういうことだったのか!


「蚊を防ぐ“網戸あみど”は知ってるな?素材としてはそれと全く同じだ。網戸を刻んでぐしゃぐしゃにして丸めて膨らませたものがそのスカートの内側に詰まってる」


 そんなんじゃ重い訳だ。そもそもこの赤と黒のカラードレスとやらの表面はまるで炬燵こたつ布団みたいな素材だ。これだけでも相当に重いだろう。

 倉秋は変身すらしていない。

 これじゃこっちだけが恐ろしく重く、持ちにくく、扱いにくい形状の「おもり」を抱えてバトルしているみたいなものだ。


 何より絶望的なのが、「規定回数接触すれば勝ち」ルールだ。

 こんなでかいものをぶら下げてるこちらは不利なんてもんじゃない。向こうが手を伸ばして地面を引きずっているスカートの裾に触れられる距離まで来ても、こちらはあと1メートルは踏み出さないと手も届かないだろう。


「汚ねえ…」

「説明は全てしたよ?可能性を読み切れなかった君の落ち度だ」


 そうなのだ。

 確かにそれはそうなのだ。

 女装させられるにしても、リクルートスーツみたいな動きにくさの方向性は考えてもこっち方面はノーマークだった。「タッチで決着」というのはこいつの口車だった…。


「質問いいですか!」

 女子高生姿になっている斎賀が聞いた。



第五十八節


「試合継続中ですが…よろしいですか?」倉秋に促す綾小路。

「…どうぞ」

「倉秋さんはこのバトルに勝った後何を要求する積りですか?」

「…別に、最初に取り決めた通りです。ただ…」


 あごをさすって赤と黒のドレスの披露宴花嫁を眺める倉秋。


「折角ですから、今車に詰まってる新作シーズンのドレスの試着モデルにでもなって頂きましょうか。そちらのチーム全員に」

「なっ!」


 赤と黒花嫁の橋場の目が見開かれる。


「当然こちらの男二人はそのままエスコートいたしますよお嬢さん方…」


 冗談じゃない。栗原とかいうエセ色男はOL姿にした武林にすらセクハラをしようとした性欲魔王だ。目の前の倉秋なんぞ、まだ男だってんのにキスを迫ってきた…例えそれが作戦だったとしても…ド変態である。


 そんな連中相手に男女ペア状態でドレスモデルなんぞやらされた日には腰に手を回されるくらいならともかく、背中の開いたドレスを着せられてその背中部分を撫でまわされたり、尻を揉まれたりするに違いない。

 こいつらと花嫁の立場でツーショット写真なんぞ冗談じゃない。


「じゃ…続きをやりましょうか。ジャッジ?」

「…では」


 どうにか絶望的な状況下であっても起死回生のアイデアは無いかと思いを巡らせるが出てこない。

 それこそ相手にしてみればどうやって負けるビジョンが描けるか分からないほど圧倒的なシチュエーションだ。ラウンドを分けたのもじわじわいたぶるためではないかとすら思えてくる。


「行きます…試合…スタート!」


 考えた末、開始と同時に橋場は抱え込むようにスカートを鷲掴みにすると同時にハイヒールを蹴り飛ばしてストッキング状態となり、そのまま走り出した!


「ほうほう…そう来ましたか」


 きゅっと引き締まったウェストに細い腕でドレスを抱えて走るその姿は完全に「花嫁さん」である。

 だが、両手からずるずるとこぼれ落ちて行くスカートの生地に耐えられず、どんどん速度は落ちていく。


「はい!接触です」


 橋場の背後で声がした。


 振り返るカラードレス姿の橋場。


 綾小路が視線を合わせて頷く。「確認した」と言う意味なのだろう。

 服の一部なので触られたことなど分からないが、大きな大きなドレスのスカートの背中側の裾…きっとずるずる地面を引きずっていたことだろう…に触れられたに違いない。


 …駄目だ。もうどうにもならん。

 まさかこの巨大なドレスのスカート全部を抱えて走れる訳が無い。


 それに…思い出した!このバトルは相手の攻撃…いや腕による接触は腕によるガード、ブロックで防いでもいいのだ…しかし、スカートを抱えることで腕の動きが封じられてしまっている!


 観念した橋場はスカートから手を離す。

 ふぁさり…と落下するスカート。


「3点目だ」


 不敵な表情で見下ろして来る倉秋。実際あちらの方が少し背が高いので、見上げる格好となってしまう…。

 相手を精神的に屈服させるメタモル能力の面目躍如というところか。



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