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倉秋健人の場合 28


第五十五節


「…っ!?」


 余りにも急展開だった。

 条件が付いているとはいえメタモルファイトであることには変わりがない。相手に接触するのが基本となる。


 その場合、相手を突き離したりパンチやキックといった打撃を叩きつけに行ったりするのが基本だ。相手を掴みに行くことも全く無いとは言わないが、掴んでいる側は掴むことに集中しなくてはならないのに相手は打撃…いや、接触で構わないので大きく隙を晒すことになる。

 寝技ありの総合格闘技でも、立った状態でいきなり関節技に行ったりはしない。

 首相撲でこかしたり、投げるために組むことはあるかもしれないが、それはごく普通の格闘戦の話であって、下手に相手に接触すれば「性転換&女装」が待っているメタモルファイトでは危険極まりない。


 心理的に全く予想していない攻撃が来たため、橋場は大いに面食らった。

 バランスを崩して前方につんのめってしまう。


 だが、これだけだったならば最低でも相打ちには持ち込めただろう。

 飛田にインスパイアされた「意識配分」バトルを仲間内で散々に研究してきたのだ。


 しかし、倉秋が次に放った攻撃は余りにも想像の斜め上を行っていた。


「…!?!?!」


 がばり!と橋場を抱きしめに来たのだ!

 しかも、ただ単に両手を背中に回すのみならず、目の前に顔を近づけてきている。


 こ、このおっさん!まだ男同士だってのにいきなりキスをおおっ!?!


 必死に両手を前方に“ドン!”と突き出す。

 両手に強い感覚があった。


 怪力で鳴らすメタモルファイターの全力の突き押しを…少なくとも全くコントロールが効いていない状態で…くらってホールド体制を維持するのは不可能だ。


 突き飛ばされた倉秋は、そのまま軽やかにバックステップして距離を取る。


「1ポイント目先取だ。良く似合ってるよ?」

「な、何考えてんだテメエ!…っ!?」


 何かおかしい。

 声が甲高い女のものになっているのは…こう言っちゃ何だが毎度のことではある。

 だが、違和感がいつものレベルではないのだ。


「…ひで…ちゃん…」

「橋場さん…」

「何だよお前ら…ってあああああっ!?」


 試合開始直後の不意打ちで完全に心理の虚を突かれた橋場は相手のメタモル能力をほぼフルに食らってしまっていた。


「そんな…これは…」

「あと4点」


 鮮やかな赤と黒のコントラスト。大きく開いた胸元にアップのヘアスタイル。掛け布団を思わせる高級感のある素材の生地が豪華な刺繍とデザインで流れ落ちている。

 半径で一メートルはありそうな巨大なスカートだった。


「お気に召したかね?結婚式の披露宴で花嫁が着るお色直し用のカラー・ドレスさ」


 そこにはすっかりお色直しを終えた花嫁…にしか見えない橋場…だった美女の艶姿があった。



第五十六節


「あ…あ…」


 余りにも予想外の展開だった。

 首回りがすっかり寂しくなっており、独特の形の胸当て…になるのかな…が肩の高さでぐるりと一周している。

 赤と黒できりりと引き締まった体型の出る上半身。

 そしてそれよりも何よりも目を引くのが、完全に床に到達し、ずるずると引きずられる長さを持ち、大きく広がったドレスのスカートである。


 橋場は腰をひねってみた。

 細くきゅっと引き締まったウェストから広がるスカートが「ざざざざざああ~っ」と何やら色んなものを引きずる様な音を立てて波打つように動く。

 腰から冬場の掛け布団をぶら下げ、中に何枚も重ねているみたいな“ずっしり”とした重さだ。


「ドレスは初めてかなストリートチャンプ?…いや、新米花嫁さん?」

「…」


 思わず鏡の方を見てしまう。


「っ!?」


 メタモルファイターなんだが、実はファイト中にまじまじと鏡を見る機会がしょっちゅうある訳じゃない。だから自分の変身後の姿をじっくり見たのも先日部屋で真琴のトラップをくらった時が初めてだった。

 だからこそ鏡の中の自分に仰天した。


 そこには綺麗に「△」(三角)の形に広がるスカートのシルエットを持つドレス姿の美女がいたのだ。

 少し動いてみる。


「!?っ!」


 物凄く動きにくい…前につんのめりそう…ってこれはハイヒールだぁっ!


「折角だから解説してあげよう。今の君は完全に披露宴のお色直し仕様にコーディネートされてる。無論、花嫁の方のだ」

「き…さま…」

「おやおや、口の悪い花嫁もいたもんだ。ともかく、ドレスってのはハイヒールありきの前提でスタイルが設計されてる。ハイヒールを履かないコーディネートはありえないんだ。例え外からは全く見えなくてもね」


「ひでちゃん…」


 流石の真琴も彼氏の花嫁姿…お色直し後だが…を見せつけられているとなると複雑…なのだろうか。


「そろそろ第2ラウンドだ。ジャッジ、合図を」

「…はい」


 一息つくと綾小路が言った。


「ではよーい…始め!」


 勝負は一瞬だった。

 メタモルファイターならではのスピードで瞬時に近寄った倉秋は、大きく広く丸く広がった橋場のドレスのスカートの裾をしゃがみこんで「ひゅっ!」と触れるとすぐに距離を取る。


「2ポイント目だ」

「な…」

「衣装も身体の一部扱いすると言ったろ?その大きなスカート全部がタッチ可能なんだよ」



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