倉秋健人の場合 26
第五十一節
「で?決着の方法は?」
「そうですねえ…相手にタッチするというのはどうでしょう?」
「タッチ?」
「ええ。手で相手に触れるんです」
「…良く分からん。攻防してりゃ普通に触るだろ」
ちっちっち、と指を振る倉秋。
「ブロックやガードはありです。要するに相手の「手」以外の場所に手で触れることが出来たら1ポイント」
「ポイント…」
「1回で決まってしまったんではつまらないでしょ?相手に5回触れられれば勝ちです」
「アマチュアボクシングの試合みたいなものですね」
綾小路が口を挟んだ。
オリンピックなどで行われているアマチュアボクシングは、あくまでも「スポーツ」であるという建前から相手にどれだけの数の有効打を入れたかどうかで「判定」される。相手へのダメージや「ダウン」ですらポイントとしては全く同じなのだ。
その点、「格闘技」であるプロボクシングは何発打たれようと相手を倒してしまえばいい。判定の方がオマケ扱いなのが最大の違いだ。
「ま、そんな感じです」
「それは、メタモル能力はいつ掛けるんだ?」
「お好きなタイミングで。メタモルファイトでもあるんですから」
「相手の手の攻撃を手で防げば「ポイント」は入らないんだよな」
「ええ」
「しかし、接触してることには変わりないからメタモル能力を掛けることは出来るが、それは構わないのか?」
「どうぞご自由に。ただし、相手を変身させ切ってもポイントで勝負自体は判定されますがそれはお分かりですね?」
「…まあ」
この間「相撲決着」戦を行った。
あれはメタモル能力の進行度合い…女にされ、女装させられている度合…と全く関係なく「足の裏以外」が地面についたら負けというシンプルなものだった。
ただ、あれは変身後も格闘戦が続くと言う過酷なもので、リクルートスーツ…タイトなミニスカートにハイヒールという甚だ激しい運動には向かない格好をさせられて辛くも敗北してしまった。
「さ、どうします?」
第五十二節
まだ考えている橋場。
相手にタッチというのがイメージが湧かない。
そんなことを勝利条件とするメタモルファイトをやった記憶が無いからだ。
手で手以外の場所に一方的にタッチ?
「一回タッチしたら相手の身体から…そうですねえ。最低でも一度三メートルは離れることにしましょうか」
「三メートル?」
「ええ。続けざまに指をタタタン!とやっても5回タッチなのか?ってそういう訳にはいかないでしょ」
「相手の腕以外を触るんだよな?」
「ええ」
「相打ちは?」
「片方のタッチが成立したなら、お互いに3メートル離れてリセットするまで一時中断です。早い方が勝ち。完全に同時だったならば仕切り直しです」
ふむ、つまり毎回3メートルの距離から近づいてはどちらかが一方的に触るまでの勝負を5本先取でやろうってことか。
「腕以外で相手の腕以外に触ってもポイントにはなりません」
「具体的には?」
「キックや頭突きで相手に一方的に触ったとしてもポイントは入りません」
「…過激じゃねえか」
「普通の試合ならそうでしょ。でもこれは条件付きメタモルファイトですからね。私なら怖くて頭突きなんかしません。その頭を手で触られて以上!です」
「キックを手でガードしたら?」
「手でガードした側のプレイヤーのポイントです」
「キックをキックでガードしたら?」
「お互いポイントになりません」
ふと見ると斎賀(女子校生)と真琴が一生懸命考えている。
「あと…そうそうこれを付け加えるのを忘れてました。相手の衣装に一方的に触ったとしてもポイントになります。衣装は身体の一部ですからね」
「…?そりゃそうだろ」
「大事なことですんで」
「…離れる時の3メートルってのはどう判定する?衣装からか?衣装は身体の一部なんだろ?」
「確かにおっしゃる通りですね。…そうですねえ、それでは衣装は身体の一部扱いはしますが、仕切り直し時の「3メートル」においては衣装は数えず、お互いの身体…胴体の距離ということにしましょう」
「分かった」
橋場はイメージしていた。
相手と正面からぶつかって、フェイントの掛け合いをしつつ相手の手をかいくぐりながら手以外の場所をタッチする…。
このおっちゃんはよほど体術に自信があるのだろうか。
「しつもーん!」
背後から声が上がった。




