倉秋健人の場合 24
第四十七節
「…持ってません…」
消え入りそうな声で言う女子高生。少し前まで成人女性だったのだが、斎賀の能力を喰らって制服姿の女子校生に変えられている鴫野沙耶だった。
「え?あなた方レンタル衣装屋さんですよね?無いんですか?」
「すみません。本日持って来てるラインナップには入ってないんですよ」
薄笑い…をしている様に見える倉秋が言う。
「ふ~んそうですか、ならボクが今着てるこの衣装をお貸ししますから着てください」
「「えっ!」」
周囲がざわついた。
「斎賀お前…」
と言っても目の前にいるのは不思議の国のアリスなんだが。
「ケンちゃんが着る服はどうすんの?」
これは真琴。
「そうですねえ…折角なら鴫野さんの今着てる制服でいいですよ。衣装交換と行きましょう」
「へえ、そいつぁいいや。面白い」
栗原が茶化した。どうせいやらしいことを考えているのだろう。
「それは…」
普通は幾らメタモルファイター同士とはいえ、「男女の衣装交換」など余りにも過酷過ぎるペナルティだろう。だが、この場合は勝者から言い出しているのだ。
「お前…意味分かってんのかよ。お前が自分で生み出した女子の制服着るって意味なんだぞ!」
「ボクの方は構いません。ま、今は身体は女同士ですし、下着まで交換は無しってことならいいんじゃないですか?幸いお互いに体型は殆ど同じくらいです。お互いの衣装は無理なく入ると思いますよ」
~数分後~
「…」
真っ赤になって俯いている不思議の国のアリス扮装をした女…鴫野。
そして、母校の制服に身を包んだ高校生たる斎賀。もっとも斎賀はれっきとした健全な男子生徒だったものが、肉体が女性へ性転換していて、着ているのが女子の制服であるという些細な差はあるが。
第四十八節
「これでお互い、簡単には戻れません。いいペナルティでしょ?」
「とりあえずそういうことにしとこう」
「似合ってるよケンちゃん!」
最後のは真琴だ。やはり女メタモルファイターは知人の女装(?)には理解があっていい。
「立会人として聞きますが…続きをやりますか?」
「…しなきゃしょうがないでしょう」
橋場である。
「よろしい。ただ、立会人として言わせていただきます」
「はい」倉秋。
「先ほどの、衣装交換からのメタモルファイト解除…ああいうことは二度と行わないで頂きたい」
「…私たちは何もルール違反はしていません。あれだってそちらのチームからの解除要請があったから…」
手を挙げて発言を遮る綾小路。
「詭弁は結構。あなた方にはあの結果は十分予想できたはずです」
「…いえ、もしかしたら入ったかも」
「セールスのためのデモンストレーションなんですよね?だったらアピール先である私の意向は汲むべきでは?」
「…」
「私は何も理不尽なことは申し上げません。本物の衣装を、メタモルファイト後のアトラクションに使うもよし、ペナルティとして着替えを強要するという趣向もいいでしょう。しかし、相手を怪我させるために使うのは言語道断です」
「はーい」
「栗原!」
張本人である栗原だけが他人事みたいにふんぞり返っている。こいつは営業には向いてない。
「最初の一回だけは見逃しましたが、次に行った場合にはそれこそあなた方にもペナルティを負っていただきます」
「また物騒な…落ち着いてください」
「腕に覚えが無くてはメタモルカフェの立会人など務まりませんよ」
綾小路の眼光が鋭くなった…気がした。
「…よござんす。いきなり戻したりするのは止めましょう」




