倉秋健人の場合 22
第四十三節
斎賀は膝上丈のオーバーニーソックスの縁が赤いリボンで留められているそれを翻しつつ、スカートスーツの沙耶を突き飛ばしていた。
髪の毛が伸び、大きなリボンが装着されるのと、紺色に赤いネクタイの「女子校生」が形成される…斎賀の能力が完成するのとがほぼ同時だった。
「…」
変わり果てた自らの身体を見下ろしている斎賀。
身長も若干縮んでいるらしい。
色白で小柄の瞳がくりっとした美少女が「不思議な国のアリス」のコスプレをしている様にしか見えない。
犯罪的に可愛らしい。
「綾小路さん、判定は?」
全く悩まずに綾小路が即答した。
「斎賀さんの能力の方が一瞬早く完成しました。斎賀さんの判定勝ちです」
ぐっ!とガッツポーズするアリス。可愛い。
「そんな…」
茫然と立ち尽くしている女子高生。こちらは「女への性転換」に「女装」という屈辱にまみれるのに、あちらの方…敵方の鴫野沙耶…は「単なる衣装替え」程度なんだから本当に女のメタモルファイターと戦うのは理不尽だ。
「鴫野さん、特殊系ですね?きっと名刺を渡したりしてお互いの名前を知った上で、自分の衣装まで相手に教えた段階で自動発動するタイプと見ましたが」
「…正解…です」
ドヤ顔で解説するアリスってのもなんともシュールである。
判定勝ちはしたが能力そのものはフルに食らっているので腰までありそうな長い髪が美しい。
本来は金髪なのだろうが、そこは黒髪で完成していた。
「腕力もありそうにないし、格闘技をやってる様にも勝負強そうにも見えないのに妙に自信満々だったからこりゃ特殊系だと分かりましたよ」
「どうして?…今まで負け無しだったのに…」
泣きそうになっている沙耶。
「全員がそうだとは言いませんけど、特殊系の方々は特殊能力に甘え過ぎです。別にこちらの能力を完全に封じてる訳じゃないんだから、変身完了スプリント勝負の変身決着なんだから自分がどうなろうと先に相手を変身させちゃえば勝ちでしょうに」
第四十四節
「…でも…」
「きっと今までの対戦相手は一度も触れられてもいないのに性転換と女装させられてるショックで固まってたんでしょ?」
「…はい」
「折角無接触でいい能力を持ってるんだから、お互いをサークル(円)の中に立たせて出たら判定負け…みたいに一方的に有利な条件飲ませないと勿体ないですよ」
「はあ」
「それに試合が始まってから能力の説明しましたよね?…この衣装の」
左手でひょい、とスカートをつまんで上げるアリス(斎賀)。
「…そういう能力なんで」
「ボクが『ちょっと待って!』って言われて立ち止まるお人よしだったからあれだけ苦戦しましたけど、問答無用で突撃してくる相手だったらひとたまりもありませんよ?」
何やらレクチャーが始まってしまった。
「でも…今まで待ってくれなかった人いなかったし…」
この見た目に騙されてたんだろうなあ…と斎賀は「不思議な国のアリス」姿で長い髪をわしわしとかき分けて頭を掻いた。はしたない。
髪に影響されて後頭部の大きなリボンが揺れ、シャンプーみたいな何ともいい匂いがする。
「ともあれ、判定ですけどこちらのチームの勝ちです。これで一勝一敗ですね」
「…その様ですな」
倉秋の表情から余裕が消えていた…様に見える。
「おい兄ちゃん!あ、姉ちゃんか」
栗原がアリス姿の斎賀に声を掛ける。
「お前、今の自分のなりを鏡で見たことあんのかよ」
「…今の今なんでまだですが」
鈴が鳴るような可愛らしい声で、口調は男の子なんだから違和感がある。
「中々可愛いぜ?その幼児体型じゃ胸は重くねえだろうが、スカートの中のアソコの具合はどうだ?ああ?」
栗原以外の全員がドン引きで見ている。




