倉秋健人の場合 21
第四十一節
「メタモルファイトということになりますと、相手に接触する場合もありえるんですが…セクハラで訴えられたりはしないですよね?」
「はい!大丈夫です。覚悟の上ですから」
そうなのだ。どちらかというと女のメタモルファイターは目立たないが、確かに存在はしている。
ガチで戦った場合は当然相手に直接接触することになる。
男相手にはどの部分をどつこうが気にしないが、男のメタモルファイターが女のメタモルファイター相手に思い切りおっぱい揉みに行くのも何か違う気がする。
これが男相手だと変化後におっぱい揉むくらいは普通にやるのだが。
綾小路が帰ってきた。
「…どうでした?」
「もう落ち着いています」
「怪我は?」
「骨折などは無いと思いますが…一応検査した方がいいでしょうね」
女のサイズでタイトなブラジャーをした状態でいきなり男に戻ったのである。ブラジャーのホックがはち切れるまでの間締め付けられたアンダーバストが肋骨を内側にへし折る可能性はあった。
ウェストのスカートに関しては比較的早い段階でホックとファスナーが持たずに吹っ飛んだため被害が軽かったと思われる。
「足は…」
「それも大丈夫でしょう」
ある意味一番辛いのがこれだ。
伸縮性の全く無い硬い素材であるたった23センチしかないであろうハイヒールの内側でいきなり男サイズ…28センチほど…に戻された足は、こちらの方こそ内側に向けて急激に折り込まれ、一気に骨折しかねなかった。
メタモルファイトは相手に性転換&女装攻撃を仕掛ける「精神を折る」戦いではあるのだが、「ナマ着替え」を挟み込むと、セクシーさに加えて一気に凶悪度がアップする。
「着替え戻し」戦法とでも呼ぼうか。
恐ろしいことに、相手の精神を操ることがある程度セットであるため、それほど実現に対するハードルが低くないのである。唯一の欠点は「女物を準備しておく」必要があることくらいだ。また、破損させるならそれらを「使い捨てる」必要も出て来る。
「二戦目始めますので立ち合いをお願いします」
「分かりました」
武林が今どういう格好をしているのかは知らない。
あらかたはじけ飛んでいたとはいえ、電線状に切り裂かれたストッキングやパンティ、パンパンに張りつめたスリップなどを脱いで行く…男の身体で…のは心理的に相当キツかったろうなあ…と思う。
「決着は変身決着、ペナルティは指定着替え。よろしいですか?」
「すいません。一応確認ですけど、変身決着の場合、先に変身しきった方の負けってことでいいですか?」
「当然そうなります」
第四十二節
「では試合…始め!」
「ちょっとストップ!」
いきなり沙耶が両手の掌を広げて斎賀の方に広げる。
「…?何です?」
「あなたの名前を訊いてなかったわ。お名前は?」
「斎賀…健二です」
「ケンちゃんね」
「再開していいですか?」
「ケンちゃんは私の能力を知りたくありませんか?」
「…能力って…特殊系ですか?」
「はい」
「試合中に相手に教えてどうするんですか」
「だってその…余りにも理不尽だし…」
何を考えているのかこの女は。
「ボクは結構です。こちらも教えませんし」
「ちなみに衣装で言うと…特に名前は無いと思うけど、水色に白いエプロンの…『不思議の国のアリス』みたいなか~わいいワンピースなんです!」
…社会人になる程度の年の女だろうにきゃぴきゃぴと飛び跳ねそうにはしゃいでいる。
…ちょっと苦手だ…このタイプ…と斎賀は思った。
何しろ笑顔の爽やかさはただ事じゃないし、アイドルグループのオーディションで最終選考に残るんじゃないかと思わ競る程度には容姿も整っている。
だが、今みたいな女子高生…いや女子中学生ノリだとあと2~3年もする頃には痛々しい女になっていくだろう。今だってギリギリなんだから。…と失礼なことを考える斎賀だった。
「そう、今あなたが着てるみたいな…ね?」
「…!?あああっ!」
相手チームの二人の男以外のこの場の全員が目を剥いた。
いつの間にか斎賀の着ていた男子高校生のブレザーが、水色に白いエプロン、膝上丈でふわりと広がったワンピースになっていたのだ!
「これは…もしかして特殊系!?」
「うん。そーみたい」
次の瞬間だった。




