ジョー・キングの場合 03
第七節
クラブの2だった。
「俺の勝ちだ。あんたみたいな雇われメタモルファイターが自ら勧誘に来た理由は分かった。だがまだ分からんことがある」
「何かな」
「あんたが一人だとするならどうして俺なんぞ雇う必要がある?ライバル増やして食い扶持を減らすなんてありえんだろ」
「それは一面的な考え方だ」
「というと?」
「仕事がやればやっただけ稼げるものならば君の論理が当てはまる」
「…」
「しかし、仕事の分量が決まっているならば人数が多い方が楽になる。そう思わんかね」
「つまり、もっと仕事を楽にしたいから頭数を増やしたいと」
「そうさ」
「じゃあ…」
手で制するジョー。
「次の質問をしたいならカードをめくってからだ」
「…偶数」
「奇数で」
ダイヤの9である。
「見たとこ丸腰だが、危険だとは思わんのかね」
「そりゃ質問か?」
「アメリカに来られたのは、メタモル能力のお蔭で護身の心配がいらないからじゃないのかね?」
じっとジョーを観返すシン。
「…ご名答。はっきりいって以前のオレだったらこんなおっかない国になんて来ないね」
「使いこなしてるじゃないか」
「そうだな。人助けと世直しが趣味だよ。『子連れ狼』が翻訳されてると聞いたが?」
「悪いな。分からない。ジャパニーズ・バットマンか?」
「『水戸黄門』とか『大岡越前』とか知らんの?」
「聞いたことも無い」
「…あれだ。『逃亡者』。リチャード・キンブルみたいな感じだよ」
「アメリカ人ならアメリカのこと何でも知ってると思うなよ。白黒のドラマなんぞ観ねえよ」
第八節
「奇数だ」
返事を訊く前にめくっていた。スペードの9.
「人数を増やしたい論理は分からんでもない。だが、メタモル・ファイターってのはしぶとい。そう簡単には交代なんぞすまい。どうして探す」
「イエスかノーかで答えられる質問してくれると助かる」
「ああそうかい。なら分かりやすく聞いてやる。何らかの理由でお前らの配下に居る「メタモル・ファイター」が『使い減り』してっから補充してんじゃねえのか?」
長い沈黙がある。
「…いい着眼点だ」
「答えたく無きゃ質問を変えるが」
「いや、いい」
「じゃあ頼むわ」
「…その見解は正しくない」
「ほう」
「まずそもそもメタモルファイターそのものがそれほどの数がいる訳じゃない」
「だろうな」
「ボクみたいな超一流プレイヤーを考えてみるといい。そう簡単に補充は出来ないだろ?」
「だな」
「しかし人間である以上引退もする。保険は打っておくものだ」
「もっともらしいな」
大きな声がして、会場の一部が盛り上がった。
「…何かな」
「ジャック・ポットだろうね。ベガスのスロットマシンは全体で当たり確率を計算する。要は他の人の外れ分を全部せしめられる訳だ」
「大当たりってことか。あれで幾らくらいかね」
「それこそ一万ドルは硬い。大きければ数百万ドル(数億円)だ」
「ふ~ん」
「で?返事は」
「断る」
「随分ハッキリしてるな」
「聞いてりゃベガスを仕切ってる裏の組織の配下って話じゃねえか。食い扶持に困らないなんて都合のいい話があるもんか。寝てる間にあの世行きにならない保証がどこにある?」
「それはない。請け負うよ」
第九節
「そんな話が信用できるかよ。悪いがここまでだ」
「待ちたまえ」
「待たねえな。ベガスが家族で楽しめるアミューズメント・シティに生まれ変わったって聞いたが、俺みたいなのはお呼びじゃないらしい」
立ち上がるカウボーイ・ハット。
「…仕方が無い。話そう」
「まだ何か隠してやがったか」
「そろそろショータイムだが…特等席のディナーに来るかね。もちろんおごる」
「それこそノーサンキューだ。俺は今日からベガスを出るまでカンのジュースしか飲まねえよ」
服毒させられることを警戒している、という意味である。
ちなみに「ノーサンキュー」は何故か日本のテキストだと「遠慮します」くらいの丁寧語として掲載されているが、かなり高圧的で冷たく突き離す印象が強い語である。強盗に間違って言ったら撃たれても文句が言えないだろう。この場合は「お・こ・と・わ・り・だ!」という感じか。
「結論から言えば!」
周囲の人々が喧騒の中振り返らんばかりの大声だった。
「今のボス…いや、大ボスはメタモルファイターに理解があるのさ」
「…ふん」
シンは流石にこの話題の流れには多少興味を持ったらしい。
肩からバックパックを片方引っ掛けた状態で話を続ける。
「どうして理解がある?」
「どうしてだと思う?」
「そうだなあ…」
伸び始めた無精ひげをじりじりさすっているシン。
「ルール無用の地下闘技場で男が女にされるショーを見てハマっちまったとか?」
「うん。近いね」
「…冗談で言ったんだが…ホントかよ」
「日本ではどうか知らんが、アメリカだと存在が確認されてからすぐにマフィアの管轄下に置かれるようになった。大抵は組織の裏切り者やら敵対組織の構成員、時には幹部なんかが餌食になってたらしい」
「…えげつねえ話だ」




