倉秋健人の場合 19
第三十七節
「武林さん!」
「な、何だぁ!?」
ひったくったOL制服がみるみる内に武林の学ランに「戻って」行く。
そして、武林の肉体も…。
「ぐあ…あああああああーっ!」
最初にスカートのボタンとフックが飛んだ。次にファスナーが両方に広がって「バツン!」とはじけ飛ぶ。
脚を覆っていた黒ストッキングは無残に引き裂かれていった。
「おあ…ああああああーっ!」
恐らく23センチも無いであろうハイヒールから、28センチを上回る足がはみ出ていく。
逃れられなかった部位がハイヒールを内側から破壊していく。
下腹部を覆うパンティからは、男性のシンボルが無残にはみ出たが、それは全身を襲った悲劇の中では軽い方だった。
「ぎゃああ…あああああああーっ!」
ハイヒール破壊で立っていられなくなった武林が余りの苦痛に地面に倒れ込んでのた打ち回る。
急激に戻ったボディの太さに、女物のサイズでアンダーバストを締め付けていたブラジャーが悲鳴を上げ、肉体を切断せんばかりに締め付けたのだ!
もちろん、実際に肉体を切断することなど出来る訳も無く、ホックがはじけ飛び、肩ひも部分が深くめり込んだ。
優しく全身を包み込んでいたスリップがキツく肉体を締め上げ、耐え切れずに伸びきった上、亀裂が走って行く。
「はあ…はあ…」
どうにか苦痛が収まった…。
が、ブラウスやジャケットの腕はパンパンに張りつめてロクに動かない。サイズが小さすぎるのだ。
一刻も早く切り裂かないとうっ血してしまう。
「はやく!早く脱いでください武林さん!」
「分かって…る…」
ふと見ると、口紅が無残にはみ出していた。
そう、メタモルファイトで変身した後にさせられた化粧が残ったのだ。
「あはははははは!そりゃ大変だ!大丈夫か?オカマさんよお!」
メタモルファイター同士で「オカマ」は禁句だ。禁句というか、誰も馬鹿馬鹿しくて今更そんなことを言ったりしないのである。
そりゃ全員が変身したままで仲良く女湯に入る様な仲になる訳ではないが、どこか後ろめたい仲間意識的なものは醸造されて行くものだ。
相手の女姿をあげつらうメタモルファイターなどありえない。
だが、目の前の武林の姿は「悲惨」というしかない。
はじけ飛んだジャケットとブラウスの前面からは男の肉体がはみ出し、そこにはピッチピチに張りつめたブラジャーと裂け目の入ったスリップが覗き、膝丈のタイトスカートに敗れまくった黒ストッキング…果てははみ出したメイクの男である。
第三十八節
「…道理で下着まで着替えさせた訳ですね…こういうことでしたか」
「さて、何のことやら」
恐らく全身のあちこちがミミズばれなどに襲われてボロボロであろう武林はそのみっともない恰好のまま綾小路に引きずられるように個室に避難させられた。
恐らくそこで男物への着替えをすることになるのだろう。
「確かにメタモルファイトは、見た目が派手な割にはローリスクです」
「ほほう」
「女子校生の格好させられようと、OLの格好させられようと、変えられた時と同じく一瞬で全部戻ってしまうんだから。しかし、相手を着替えさせておけば…それは違うって話です」
倉秋が言った。
「ようやく分かってくれたようだね」
「なかなかえげつないことをやってくれますね」
「キミじゃなくてさっきの彼への請求だが…忘れて無いよね?」
「何をです?」
「衣装の破損は弁償だって」
「お前らが分かってて無理やり身体だけ戻すからだろうが!そんなの無効だ!」橋場。
「でも、我々はあなたの指示に従っただけです『早く戻せ』ってね」
「それは…」
「…ふん、そういう論理ですか」
「あのエレベーターガールの制服…結構高かったんですよ。素材だけだとそれほどでもないんですが某有名デパートのものでしてね。同じ素材で作られたレプリカなので…本物と全く同じです。本当のエレベーターガールに使用されていないだけが違いです。そうですねえ…占めて5万5千円ということで」
「5万って…レンタル3,000円なんだろ!?」
「レンタルと破損は違いますわなあ。しかもデモンストレーションですから保険も掛けて頂けなかった。新しい物を同額のお金を出したから簡単に手に入れられるものじゃないんですよ?それをこれだけで勘弁してやろうってんです」
「…足元見やがって」
「足元と言えば…あなたのお友達が壊したハイヒール。あれがいけない。あれは高いですよ?」
「…参考までにおいくらですか?」
「結論から言いますと4万円になります」
「4…そんな高い靴があるかあ!」
「ふん…お子様はそういう世界はご存じ無い様だ。世の中には100万円のスーツも1,000万円の腕時計だって存在するんですよ。あれだけ綺麗なハイヒールで4万円なんて私の買い付け能力を褒めて頂きたい」
「それで?」
「買い取り下着とストッキングも含めて…まあ今回は私どもに落ち度がゼロという訳ではないですから10万円というところで手を打ちましょうか」
三人組のふふふ…という声が聞こえてきそうだった。




