倉秋健人の場合 16
第三十一節
次の瞬間だった。
「きゃーっ!」
思わず円筒状に頭上まで形成されていたテントが崩れ落ちた。
「わきゃあああああああーっ!」
一瞬だったが、ブラジャーとパンティだけのあられもない姿になっていた武林が見えてしまった!
すぐに引っ張り上げられるテント。
「すいません…不可抗力です」
「貴様…」
橋場の怒りの表情。
「もしかして団体戦の形にしたのは、決着が付くまでは一戦目の敗者の武林さんを実質的に人質に取れると考えたからじゃないですよね?」
「ほほほ…これは人聞きの悪い…ゲームですよゲーム。このサービスの説明のための模擬戦なんですから」
『うわ…あああっ!』
テントの中からまたただならぬ声が聞こえてくる。
「何だ!?」
「…恐らくブラを外したんでしょう」
「その様ですね」
ここからは中の様子を想像することしか出来ない。
武林は恐らく後ろ手に回した手でホックを外し、生まれたばかりの乳房を初めて空気に晒したのだ…ろう。
乳のあたる内側が生暖かく人肌に温もったブラジャーを外し、そしてパンティに手を掛ける…。
観客が自分一人だけとはいえ、ついさっきまで男だった…しかも水木みたいに女体に限りなく憧れを持つピュアな少年…ではなく、誰よりも硬派で女的なるものを否定する男らしさの塊の武林が自らパンティから脚を抜かされるなど残酷極まりない。
実は武林が先日バレエの舞台衣装を一から一○まで何度も着替えさせられていたことを彼らは知らない。
ガサガサという音。
『よ、よせ…やめろ…やめ…いやだああっ!』
テントの中。
手が勝手に動き、真新しいパンティの封を破り、ぴっちりと張り付き、少し弾力を帯びて伸びる様に下腹部に密着させる。
「あ…」
これまで嫌というほど履かされ、あまつさえスカートをめくられて着たが、遂に自らの手で…操られているとはいえ…パンティを履いてしまった…。
第三十二節
「もう!限界だ!」
テントに突進しようとする橋場を制止する斎賀。
「駄目です!」
「何故だ!」
「今テントを崩せばそれこそストリップです!」
「しかし!」
「ここまで来たらもう駄目です。諦めて一戦目の負けを甘受しましょう」
「でも…アキラが…」
「なーに、ブラジャーの1つくらい、いつもしてるじゃないですか」
何という人聞きの悪さだ。
「それを自分でしてるだけです」
「しかし…」
テントの中。
手が…手が勝手に…動いて…あああっ!
むぎゅりと新品のブラジャーの内側に自らの乳房の表面が触れていく。
アンダーバストをキツく巻き込み、自分の手ではないかのごとく器用に背中側に回してホックを引っ掛けた。
「あ…」
両肩に食い込む細いひも。
確かにさっきまでさせられていた物と何が違うのかと言われると困るのだが、それでも自らの手で自らの乳房を包み込んだ何とも言えない罪悪感は消えない。
ふと気づくと足元にはいつの間にか着替え一式が押し込まれているではないか。
選択の余地は無かった。
手が勝手に動き、新品の包みを破って黒いストッキングを取り出していた。
テントの外。
「当然ながら…肌に密着するものですから、ストッキングも買い取りとなります」
「参考までに…おいくらで?」
「何しろ雑貨屋のコスプレ衣装に混ざってる適当な代物じゃありません。正真正銘本物でかつ業務用ですからな…まあ、大負けに負けて1,000円ですね」
「ストッキング一枚に1,000円…」
「とてもいいものなんですよ?」
「よろしいですか?」
斎賀が改まった。
「何でしょう?」倉秋が答える。
「オタクはレンタルロッカーはありますか?」
「いえ、ありません」




