倉秋健人の場合 15
第二十九節
「貴様ぁ!」
立ち上がる橋場。
すぐに斎賀が制止する。
「駄目ですよ!これは正式な勝負ですから!」
「だってこんなよお!」
「ペナルティとして着替えも受け入れてます!着替える際の配慮もしてくれてますから、ここで怒るのは筋違いですよ!」
「そうそう。メガネくんの言う通り」これは栗原。
「…」真琴は何も言わない。
耳を澄ませば、しゅるり…しゅるしゅるという音が聞こえてきたはずだ。
武林がいつの間にか身に付けさせられていたスリップを降ろしている音である。
「あ…あぁ…」
ここは簡易テントの内部。
白一色の周囲の中、ブラジャー一枚となった上半身に、肌色ストッキングにぴったりと押し付けられたパンティ一枚の下半身が見える。
お、女の姿で…自ら裸にされるなんて…。
脱ぎ捨てたスリップが足元で白く丸い山になっている。
両手がストッキングに掛かり、ゆっくりと引き下げていく。
「うおおおおおっ!」
テントの外。
「どうした武林!」
「なーに、ストッキングを脱いでるだけですよ」
「ストッキングを?…でも、エレベーターガールでしょ?」
「僕の知るエレベーター・ガールは黒ストッキングでね」
「…ストッキングの着替えもさせようってんですね」
にやりとする栗原。イケメンも台無しだ。
「女の身体になったからにはストッキングくらい着脱せんでどうするね勿体ない」
こいつ…。
「最も、無粋な邪魔が入らなきゃそこまで見物する予定だったがね」
「…なんですって?」
「ふうん」
真琴が言った。
「女にした相手を操って無理やり着替えさせ…かあ。なるほどね」
「真琴…」橋場。
第三十節
「では…ブラジャーとパンティのセット…5,000円になりますが、武林さんのお買い上げってことでよろしいですか?」
倉秋が言った。
「…何を言ってんだ?商談とは別だろうが」
「倉秋さん、勝負を利用しての押し売りですか?」
「滅相も無い。ただ、流石に肉体は完全に女性ではあるのですが、デリケートな部位まで含めて密着となりますとお買い上げいただかないと…」
「だから何を言ってんだって!おれたちゃメタモルファイターだぞ!下着なんぞ勝手に作れるだろうが!何で態々(わざわざ)売ったり買ったりしなきゃならんのだ!」
「…それが我々の商売のミソでして…」
一泊置く斎賀。
「…そこまで着替えさせる積りですか?」
同じく一泊置いて答え返して来る倉秋。
「最初に約束しましたよね?負けた側は勝った側の指定する衣装に着替えなくてはならないと」
「だとしても…ストッキングが違うならストッキングまで変えればいい。レオタードや水着みたいに一旦全裸になる必要がある衣装ならまだしも、OLからエレベーターガールなんて同じ制服同士そこまで違いはないでしょ!?どうしてブラやパンティまで着替えさせる必要があるんです?」
「…そういう商売なので」
「一日消防士体験で、トランクスをブリーフに履き替えさせたりしませんよね?ボクは参加したことありませんけど、女性が参加する一日スチュワーデス体験でブラまで付け替えさせるんですか?」
ふう、とため息をつく倉秋。
「仕方が無い、種明かししましょう」
橋場、斎賀、綾小路の顔を見渡す倉秋。
「このペナルティは、下着まで変えさせることに意味があるんですよ。生憎約束は成立してしまっておりますのでね…おい」
「はい」
広げられていたパンティとブラジャー…そしてスリップのセットを沙耶と呼ばれた女に手渡しする。
「セットが違ってんぞ」
「ええ。スリップまで含めて8,000円なりです」
「なんつー悪徳商法だ」
「何をおっしゃいますやら。とてもいい素材なんですよ?生粋の女性が聞いたら飛びつくほどの上質の下着セット、大出血サービスです。はい」




