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ジョー・キングの場合 02


第四節


「それにしても全く似合ってねえな。絶望的なコーディネートだ」

「ほっとけ。不細工の苦労はオタクにゃ分からんよ」

「俺はホームズじゃないが、前にいたのはテキサスだろ?どうだ」

「…馬鹿でも分かる」

 別に西海岸って線もあるとは思うがそれには取り合わない。

「根無し草の風来坊もいいが、そろそろ腰を落ち着けちゃあどうかね」

「何だってんだよ。気持ち悪いなあ」

「いい働き口がある」

「スロットマシーンの整備か?さもなきゃ皿洗いか」

 ちっちっちと舌を鳴らす。決まっている。

「我々の能力を活かした仕事さ」

「質問が二つある。いや三つか」

「答えよう。だが、折角だからゲームでもしないか」

 セキュリティシールが貼ってあるカードセットが置かれた。

「オタクはボクシングの世界チャンピオンと交渉するのに『とりあえず殴り合いで決めよう』って言ったら乗るのか?」

 一瞬の沈黙。

「ははははは!そう硬くなるな。別にこれで何か賭けようってんじゃない。俺は根っからゲームそのものが好きなんだ。常にプレイしておらずにはいられないのさ」

「ゲーム依存症か」

「そんなところだ」

「いいぜ。その代りこれがメタモルファイトの申し込みだってんならお断りだ」

「…釘を刺しに来たか」

「当然だ」

「勿論構わない。単なるゲームだよ。キミが開けてくれ」

 ぐいと押し出して来る。

「ゲームの内容を聞こうか」



第五節


「簡単だ。実力が出るほどの複雑な「ゲーム」じゃアンフェアだ。適当にシャッフルしたカードをトップからめくって偶数か奇数か当てる。それだけだ」

「…それだけ?」

「開封にシャッフル、カットも全部君がやりたまえ。宣言も先に。カードをめくるのも君だ。ボクは一切デッキ(山札)には触らない。…完全に運だろ?」

「…キングとジョーカーは抜いていいな」

「もちろんだ。説明書と広告を抜くのも忘れるな」

 トランプカードは4種類のスート(マーク)がそれぞれ一~十三の合計五十二枚で構成される。現状のままだと奇数の方が多いのでジョーカー2枚とキングを抜く。

 これで一~十二のカードが4組、合計四十八枚。偶数カードと奇数カードは全く同じだ。

「ジャックは十一、クイーンは十二で扱うがそれは構わないな」

「もちろんだ」

 伝統的なトランプカードはジャック・クイーン・キングには別に「11」「12」「13」といった数字はついていない。

 多くのゲームでこれらのカードは「絵札」とひとくくりにされて「十」と扱われることが多い。その論理だと偶数の方が多くなるのでそれを潰す。

 ちなみにエースこと「1」は「一」と「十一」のどちらとも扱えることが多いが、これはどちらにとっても奇数なので特に注意点は無い。

 妙なことになった。


 シンは、ヒンズー・シャッフル(カード束を抜いて上に重ね続ける最も一般的なシャッフル)を何回か行った後、二回ほどリフル・シャッフル(二つに分けた山を弾いて互い違いに差し込むシャッフル)をした。

「上手い上手い。流石日本人は手先が器用だな」

「…」

 本気で褒めている訳が無い。確かに見た目は派手だが、リフル・シャッフルなんてちょっと練習すれば誰でも出来る。リボン・スプレッドやカスケード(いずれもカードを扱うテクニック名)ならともかく。



第六節


「カットをどうぞ」

 積み上げた山札を差し出す。

 カットとは、最後にシャッフルしていないプレイヤーに山札を二つに分けて積み直させる行為で、これによって「詰み込み」がやりにくくなる。

「結構。山札には触れない約束だ。キミがやりたまえ」

「しかし…」

「対戦相手がいいと言ってるんだ」

 仕方なく適当にカットした。

「…じゃあ、キミから宣言したまえ。偶数か奇数か」

「偶数で」

「ならボクは奇数だ」

 ライブラリトップをめくる。

 ハートのクイーンだ。

「…俺の勝ちだな」

「その様だ」

「まず、雇いたいなら何故スポンサーとやらが直接来ない?どうしてメタモル・ファイターを寄越すんだ」

 少し考えているジョー。

「…はっきり言って余り立場を大っぴらにしたくない方々でね」

「なるほど」

 小ばかにしたような態度で言うシン。

「当然、場合によっては強硬手段も採りうる。銃を突き付けての交渉よりも経験者の言葉の方が重みがあるだろ?」

 なるほど、確かに仲間の言葉の方が真実味がある。

「次の質問だけど、オレが負けたらどうする?」

「こちらの質問に答えてくれ。言ったろ?勝負じゃなくて会話を円滑にするための小道具さ」

「奇数」

「じゃ偶数で」

 スペードの8.

「負けたな。オレのこと訊いて何かいいことあるのか?」

「そりゃね。能力は?」

「答えたくない場合は?」

「質問を変えよう。特殊系か?」

「…別の質問ないのか」

「そうだな…どうしてアメリカへ?」

「子供の頃からの憧れでね」

「英語はどこで覚えた?」

「質問二つ目になってるぞ」

「頼むよ」

「…ドラマなんかでな。後は実地だ」

「ありがとう」

「偶数」

「じゃ、奇数で」


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