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倉秋健人の場合 10


第十九節


「一度でもご経験ならお分かりの通り、ああした衣装は「上から羽織ってそれらしく見える」ものでして、「本物」ともまた全く違います」

「本物…」

「言ってみればおもちゃの延長です。着ぐるみというかマスクみたいなものです」


 真琴が手を挙げた。


「見たいでーす」

「あ!もちろんです!…出して」


 背後に突っ立っていた若い女の方に声を掛けると荷物の1つをガサゴソして、何着か出して来る。

 クリーニング屋から直行したらしい厚手のビニールに包まれたセーラー服とチャイナドレス、クリーム色のベストに赤いリボン、チェックのプリーツスカートの「女子校生の制服」などが出てきた。


「ほおほお」


 武林を除く4人が覗きこんでいる。


「どれもこれも『本物』です。あ、中古などではありませんよ。私たちはちゃんと免許もありますし、正規に新品を購入しておりますから」

「触ってもいいんですか?」

「もちろんです!」


 がさがさとビニールを外し、チャイナドレスを引っ張り出す倉秋。

 たちまち床に付きそうな長さのロングのワンピースが垂れ下がる。


「秋冬シーズンも使えることや肌触りなども考慮して裏地ありです。気持ちいいでしょ?」


 少し考え込んでいる綾小路。


「…ご存じかと思いますが、ウチはメイド喫茶です。お客様がコスプレなさることは想定していません」

「…それは、普通のお客様ですよね」


 気配を感じてテーブルから離れる綾小路以外の3人。


「それは…どういう意味です?」

「これは、メタモルファイターさんたちへの営業ですので」


 倉秋のメガネが光った…気がした。



第二十節


「買い取りになりますが、下着もご用意させていただいております」


 手際よくパンティやブラジャー、スリップなどをテーブルに並べていく倉秋。


「へっ!道理でレンタル衣装だって割には女の服ばかり並ぶと思ってたぜ」

「まあ、そう警戒なさらずに」


 そういう訳に行くか。


「…一応確認しておきますが…」

「はい、私も…この2人もメタモルファイターです」


 心なしか無言の若い男と女の目が光った気がする。

 えらい3人を店内に引き込んでしまった様だ。


「…当店ではお客様のバトルは容認しておりますが…その後のお着替えなどは…店員の更衣室は裏にありますが、表にはありません」

「…実は以前に下見をさせていただいておりましてね。あのバトルルームは…ブラインドを降ろせば外からは完全に遮断されますね?」

「すいません!質問いいですか?」


 これは斎賀だ。


「要するに、メタモルファイトの結果、変身した後の別スタイルへの着替えを楽しむサービスってことですね?」


 大きく頷く倉秋。


「その通りでございます。ご理解いただきましてありがとうございます。メタモルファイトは確かに楽しいです。しかし、自らを変えることが出来ない我々は常に相手の能力に依存せざるを得ません。衣服まで変えてしまう能力でありながら…そうであるが故に楽しみ方の幅は狭まっているのです」

「…あんたんとこはそうやって日本中のメタモルファイターに営業して回ってんのかよ!」


 橋場が離れたところから大声で言う。


「いえいえ。本業は先ほど申し上げた衣装レンタルです。まっとうな営業をしておりますよ。ただ…私が幸か不幸かメタモルファイターだったものでね。これまで小口で知り合ったメタモルファイターに衣装を個人でレンタルしていただいていただけだったんですが、メタモルカフェの存在を知りまして…新入社員の中に入っていた2人と共に参上した次第です」


 なるほど、確かに理には適っている。

 こちとら女の身体で女の衣装をとっかえひっかえする趣味も無いし願望も無いが、そういうメタモルファイターがいてもおかしくない。というか水木が正にそうだったし、この頃は斎賀もハマり始めている。



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