倉秋健人の場合 09
第十七節
「あたしがこの能力の設計者だったらメタモル能力を喰らった人がモテモテになるようにするね」
「モテモテ?」
「放っといても女としての魅力あふれるようにするっていうかね」
「…確かに、その方が種の保存には有利ではあります」
「厭らしい話だ」
「そうかな?いいことだと思うけど」
「精神的にはどうか知りませんが、我々の力によって女性に永遠に変えられた人が妊娠しやすくなる体質になる可能性はありますね」
その時だった。
「どうもー!こんにちはー!」
爽やかながら低音の効いた声がする。
5人が一斉に振り返るとそこには七三に分けた髪にメガネ、そしてスーツの「典型的なサラリーマン」ポイ風貌の男が立っていた。後ろに若い男と若い女を連れている。
「セールスマン…さんですか」
「ええそうです。さ、あなた方もどうぞ」
といって恭しく名刺入れから名刺を出して来る。「倉秋健人」とある。
「あ…どうも…すいません。こっちは名刺無いですけど」
「いえいえ」
「どーもー」
斎賀と真琴だけは名刺を受取ったが、橋場と武林は遠慮した。
「で?何か?」
「はい。当社は衣装レンタルの会社です」
「衣装レンタル…」
執事スタイルの綾小路が受け答えする。
このエリアは奥まったメタモルファイター専用スペースで、店の入り口付近がごく普通のメイド喫茶だ。
現在このエリアには橋場たち一行とこのセールスマン軍団しかいない。
第十八節
「こちらにパンフレットもございますが、一時的にしか使用しない豪華な衣装専用のレンタル業です」
「…結婚式とか?」真琴。
「あ、いやそちらはそちらで専門の業者がいますので我々は入り込めません。もっと即物的なものです」
綾小路がメガネを直した。
「…もしかして二次会で仮装して踊ったりする人たち用ってことですね?」
「作用でございます!」
我が意を得たり!と言う感じだ。
ちょびヒゲこそ生やしていないが、声こそ低めなのだが細身で何というか「小役人」という雰囲気の男だ。しょぼくれてはいないが男性フェロモンはアピールしないサラリーマンというところか。
「そういう時には新郎のお友達の男性たちが揃って純白のウェディングドレスを着たりされたかったりするんですが、何しろ女性用に誂えた衣装ですのでごく普通の男性にはサイズがほぼ合いません。なので5,000円なりで売っているパーティグッズで代用されたりするんですが…あれはもう衣装とは呼べません」
まあ、何となく分かる。
「…それで?」
「当社はそうしたニーズにこたえるためのレンタル衣装業です。仮に『結婚式の二次会の余興』としてウェディングドレスを準備するにしても、本物はそもそもサイズがありませんから特注になりますが、たった1~2時間のために何十万と掛ける訳にもいきません。かといってここで妥協すると安っぽいものになってしまいます」
「…はあ」
「そこで!わが社の出番です。最初から様々なサイズを取り揃えております。何しろレンタル落ちのものなどもありますがどれもこれも“本物”ですからクオリティは保証付きです。これがなんと1回3,000円!」
「3,000円!?」
何故か斎賀がくいついている。
「あ、単発ですと保険代を頂いておりますが、会員になれば最初に一回だけ払っていただければ十分です。これは個人の場合でして、こちらの様な業者さまともなりますとまた違います」
さすがにベテランのセールスマンらしくよどみなく出て来る。
「しかも、ウェディングドレスなんて他に使い道はありませんし、再利用も余りしないでしょう。生粋の女性であってすらご購入なさったドレスは持て余して箪笥の肥やしにされているのが実情です。パーティグッズで買ってしまった男性なんて尚更です。しかし、レンタルならば一切の後腐れはありません!」
「プリクラなどにおいてあるレンタル衣装などもおたくさまですか?」綾小路。
「いえいえ…コスプレカラオケ店やコスプレして写ることのできるプリクラなども確かにございますが、あれはまた別です」
「それはどうして…」
どうしても口を挟みたくなる斎賀。




