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倉秋健人の場合 08


第十五節


「な…な…」


 絶句して二の句が継げない武林。


「中々ゾッとしねえ話だ」

「ですね」

「じょ、冗談じゃねえぞ!そんな馬鹿な話に付き合えるか!」

「わめくな。あくまで予想だ予想」


 手を挙げる真琴。


「いいかな」

「どうぞどうぞ」


 またずずっと溶けた氷の水をストローで吸い上げた上で真琴が口を開いた。


「多分その解釈で合ってると思うよ。てか多分他の一般人相手も基本はそこまでやるべきだったんじゃない?」

「…オレたちが身を守るために女にしてきた連中にもそのまま種付けまでやるべきだったっての?」

「それはちょっと…」

「あくまでも動物的な話ね。それこそ知的エリートで奥さん一筋で一人っ子を大事に育ててるスーパーサラリーマンと、何もかもだらしないけど、子だくさんの上に愛人に子供作らせまくってるガハハオヤジのどっちが人類の種の保存に貢献してるかって言えば後者なんだよね」

「はあ」

「これだけ発展した文明でそんな獣欲むき出しに発散しまくるなんて許されないけど、ある意味それは人間の勝手な都合だからさ。実際にやっちゃうかどうかはともかく、オスを一匹メスにしたなら繁殖行為に至るのは大自然の摂理ではあるよね」


 しばし沈黙。


「基本的にはメタモルファイター同士はお互いの能力が効かないでしょ?だからメタモルファイトにおけるルールってのはあくまで例外であって、「メタモルファイター対一般人」において起こる現象の援用で説明できると思うけどなあ」

「…元に戻れるのがおかしいと」

「予想だけどね」

「何故戻れると思う?」

「ん~、妊娠可能個体を増やすのは理に適ってるけど、同時に無暗に種付け可能個体を減らすのも考え物だから、可能性は減らさないというか」

「だったら妊娠・出産しても戻れるんじゃないか?」武林

「いや、戻れるとしてもそんな段階まで至ってたら無理だろ」

「ならどこまで行っても戻れると思ってんだ?」

「…何とも言えんが、仮にヤられたとしてもはらま無ければセーフなんじゃねえか」

「ゴム使ってもらえばセーフなわけね」


 綾小路が立ちあがった。


「どうしました?」

「皆さんにお茶のお代わりを」



第十六節


「鬼頭さん…」

「はあ」


 コポコポと紅茶が入って行く。


「メタモル能力は人類にとってのクマノミであると言うことですね」


 また出た「クマノミ」だ。


「推測ですけどね」

「だったら何で制服…っていうか女の服なんか着せてんだよ!おかしいだろうが!」武林。

「いや、触ったり睨んだりするだけで男が女になる時点で不可解おかしいなんてもんじゃねえから小さい問題じゃねえの?」橋場がまぜっかえす。


「まあ、武林さんは硬派だから毎度女装させられるのに抵抗あるんでしょ」

「それ以前もだ!」


 ああ、女の身体に性転換されるのも嫌だってことね…と他の全員が脳内で納得した。


「んん~…あたしは別にお医者さんでも専門家でも無いけどさ~」


 自らの両方のこめかみを拳でぐりぐりとマッサージしながら言う真琴。


「要はフェティッシュなコスプレってことだよね?分からんけど、単に肉体だけ女になってもそれは動物的に機能を備えたってだけでしょ。そうじゃなくて「文化的」にもメスになるのを後押ししてるんじゃない?」

「文化的ですか」

「少なくともお猿さんのオスってブラジャーさせられたり、パンティ履かされたりしても特にどうとも感じないと思うのね」

「多分な」


 見た目はえらいことになるが…と誰もがビジュアルを思い浮かべる。


「でも、その布っきれが持つ社会的意味が分かってる人間の男は恥ずかしさに悶え苦しんだり、もしかしたら興奮したりするわけでしょ?」

「…まあ」

「要は種の保存にとって有利だと思うことは何でもやる体制なんじゃない?それによってお互いの脳内に男性ホルモン・女性ホルモンがドバドバ出れば妊娠・出産その他あれやこれやに悪い事一つも無いもん」


 しばし沈黙。


「なるほど。繁殖…小作りその為の小道具だってんだな?」

「なんとなくだけど」


 聞けば聞くほどしっくりくる。しっくりは来るんだが…その「脳内に女性ホルモンがドバドバ」出ているのは正に本人の意思に反して強引に女の身体に性転換させられ、「女物」を無理やり着せられた元・男な訳だが…というのが若干気になるところだ。



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