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ジョー・キングの場合 01


第一章 ジョー・キングの場合



第一節


「もう一枚くれ」

 テーブルを指先でタップするシンことシンタロウ・オガタ。

 タキシードで決めた掘りの深いブルネットの美女が軽く微笑む。

 新しいカードが滑ってきた。

 カードを見るシン。

「俺はこれでいいや」

 カードをめくる。

「合計十九だ。悪い手じゃない。どうぞ」

「…」

 ブルネットのディーラーは平静を装っていたが、嫌な予感がしていた。

 場のカードの合計は十二。

 ルールによって親は十三以下である場合、必ずもう一枚引かなくてはならない。相手が十九である以上、いずれにしても勝負しなくてはならないのだが、野生の感が「引いては駄目だ」と言っている。

「…ジャックです。おめでとう」

 親のバーストで子供の自動勝ちである。

 周囲が湧いた。

 うずたかく詰まれたチップの山に更に新しいチップが追加される。

 すると、スティーブ・マックイーンの背を更に高くしたようなハンサムがとってかわった。

「ディーラーチェンジです」

「洗うわ。換金してくれる?」

 席を立つシン。

 心なしかディーラーの目がギラリと光った…様な気がした。



第二節


「お客様」

 黒づくめのサングラス男がくつろいでいるところに声を掛けてくる。

「換金終わった?」

「いえ、お客様。良かったらVIPルームにお越しいただけませんか?」

 慇懃な英語である。

「…最後の勝ちは派手だったけど、もう砂漠に埋められるわけ?」

「めっそうもない」

「これまで負け続けてたんだよ?さっきの大勝でも浮いたのはたった一万ドルぽっちなの!」

「承知しております」

「だったら別のお客を狙いなよ。一万ドルなんて「1」って書いてあるチップ使って勝負してんでしょ?そいつら。VIPルームでさ」

 少し沈黙するサングラス男。

「いえ、あなたの資産には興味はございません」

「…じゃ何に」

「あなたの、メタモル・ファイターとしての腕前を買いたいのです」



第三節


 階下を見下ろせる吹き抜けの二階。

 ジャズバンドが派手に音楽を鳴らしている。

 巨大な噴水が吹き上がり、色とりどりのイルミネーションが映し出される。

「よお、俺がジョー・キングだよろしく」

 白いスーツに金髪、軽量級のボクサーみたいに精悍なボディなのにすらりと背が高いハンサムがやってきた。

「どうも、シンタロウ・オガタだ。シンでいい」

 握手を交わす二人。

「シンか。俺もジョーと呼んでくれ」

 勝手に目の前に座るジョー。

「ベガスは初めてか?」

「ああ」

「日本人だよな」

「よく分かるな」

「雰囲気でな」

「…」

 シンは適当に視線を合わせるとまた階下を見下ろした。

「アメリカってのは本当にデカい国だ」

「ああ。色々問題はあるがエキサイティングさ」

「で?そのポーカーチャンプが何か用かい」

「知ってたか」

「そりゃね。てかパンフに書いてあった」

 ペラペラと日本語で書かれた「ラスベガス案内」を翳す。

 苦笑するジョー。

「そういえばそんなこともあったな」

「迷惑か?」

「いや、スポンサーあってのことだ。有名税だよ」

 西洋ではカードなどのテーブルゲームなどであっても有名プレイヤーにはスポンサーが付き、企業の看板を背負って戦ったりすることが珍しくない。

「まさか俺の腕前を見込んでじゃないよな」

「違う」

「じゃ何だ?こちとら観光客だぞ。ちまちまと一ドル単位で掛けて長時間掛けて負けるのを楽しみにしてんだ」

「単刀直入に訊くが生業はあるのか?」

「単刀直入に答えるが大きなお世話だ」

「俺たちみたいなのは逆に地道に働けないからなあ。お前の国では知らんが、ウチの国だと持て余してマフィアの用心棒みたいなところに納まる場合が多い」

「…全て知ってのことか」

「ああ。俺らは同類は雰囲気で分かる。そうなんだろ?」

 カウボーイハットを今更ながら目深にずらして見ながら言うシン。

「隠しても仕方がなさそうだ。ああそうだよ。メタモル・ファイターだ」



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