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ジョー・キングの場合 18


第三十九節


「後悔は無いんだな」

「無いね。この結果があってこそのギャンブルさ」


 どこから調達したやら分からないワンピースにメイクまで似合っている。


「…案外窮屈な生活から逃れたかったのかもしれんな」


 ジョーがぽつりとつぶやいた。


「何だって?」

「…何でもない。それにしてもあのゲームは最高だった。いいルールだ」

「おいらはメタモル能力を使って人助けに来たんだ。メタモルファイトをしに来たんじゃない」


 くっくっく…と笑っているジョー。


「勝負になったメタモルファイターはみんなそういう。この能力を得たなら平穏には生きられないのさ」


 大きな音を立てて旅客機が飛び立っていく。


「これからどこへ?」

「さあな。あての無い旅でね」

「…路銀ろぎんはどうしてたんだ?行く先々で人助けしちゃあ恵んでもらってたとか」

「まあそんなところだ」


 ため息をつく美女。


「…羨ましいよ。私がもう少し若くて…何より男だったらそういう生活も悪くなかったかもな」

「すまん」

「謝るなよ。これからヨーロッパで高級ホテルに美男美女侍はべらせてのディナーにジャグジーつきのプールにワインにごちそう三昧の日々が始まるんだから」

「そりゃ最高だな」

「遊び方なら知ってる」


 しばし沈黙。


「…当てがないなら…次に行く場所は決まってないんだな?」

「ああ」

「ならボストンはどうだ」

「ボストン…」

「大陸の反対側になっちまうがな」



第四十節


「すまん。アメリカの地理に疎くてな」

「本当にホーボー(≒放浪者)か?。ニューヨークの北だ。閑静な住宅街だよ…ビジネス街でもあるが」

「ニューヨークには行ったが、ボストンには行ってないな」

「ニューヨークに行ってるじゃねえか。ニューヨークのどこに行った」

「マンハッタンの自由の女神とスタテン島、世界貿易センタービル」

「そりゃ嫌味か」

「冗談だ。慰霊碑に行って来た」

「面白かったか?」

「…人ごみは嫌いでなんだ。余り面白くは無かったな」

「ならボストンはオススメだ」

「何がある?」

「…おのぼりさんが面白いところは何もないが…ボストンコモンっていうでかい公園がある。セントラルパークよりもスリリングだ」

「そうか」

「野生のリスがいるぞ」

「可愛いな」

「見つけても近づかんように」

「何故」

「リスの歯は雑菌だらけだ。噛まれれば未知の細菌に犯されて発病しかねない。実際観光客の何人も毎年リスに噛まれて死んでる」

「おいおい」

「それ以外だと…ハーバード大学とか」

「ビル・ゲイツの後輩にサインでももらっとくか」

「ボストン茶会事件の舞台だからな。あちこちに資料館がある」

「世界史は赤点でね」

「…少なくともお前は確実に楽しめると請け負える場所がある」

「どこだ?」

「『C&F法律事務所』ってところを尋ねるといい」

「法律…事務所!?」

「ああ。お隣ニューヨークもそうだが、あの辺は弁護士事務所のメッカでな。牧場の牛のクソみたいにあちこちにある」

「何が面白いんだよそんなとことに行って。誰も訴える予定は無いんだが」

「…行ってのお楽しみだ。余り気は進まんだろうが、私の名前を出してもいいから」

「…知り合いってことか」

「ま、そういうことだ」


 少し考えているシン。


「確かに面白そうだ。行こう」

「行ってのお楽しみさ。大陸横断鉄道を使う手もあるんだろうが、普通に飛行機がいいだろ」

「いや、ヒッチハイクにするよ。金も無いし」

「金?その程度の金も無いのか」

「…誰かさんのお蔭で折角勝って取り戻した1万ドル分のチップを換金してる最中にあの有様でよ」

「それなら受け取れるな。ここに3万ドル(約360万円)ある。使ってくれ」



第四十一節


「いや、受け取れんよ。あんただって金がいるだろ」

「…有り金全部渡すと思ってんのか?元はお前は1,000万ドルの勝負に勝ったんだぞ」

「命を賭けたとしても1,000万ドルの勝負が出来たとは思えん。こんな風来坊…命を担保にしても100万ドル(約1億2,000万円)になるとも思えん…」

「じゃあ本当にいらんのか?」

「…いや、確かに本来あったはずの金まで事故で失ったんだ。その部分の埋め合わせとして頂いときましょう」


 1万ドル(約120万円)の札束を3つ受け取って無造作にバックパックに放り込むシン。


「あくまで飛行機には乗らないんだな」

「…あんたこれからどうせアトランタ空港に行くんだろ?」

「ああ。アリゾナからヨーロッパに直接飛ぶ便がしばらく無いんでな」


 アトランタ空港とはアメリカを代表するハブ空港で、アメリカでは「地獄に行くにもアトランタ空港を経由する」とすら冗談で語られる存在だ。


「多分ニューヨークに行くにしても同じだろ。せっかくドラマチックに別れようってのに同じ飛行機じゃサマにならん。適当な車でも買って突っ走るさ」


 肩をすくめる美女。


「それなら止めん。まあ頑張れ」

「お前もな」


 しばらく見つめ合っていたが、どちらが言いだすでもなく同時に踵を返すと背中合わせになって反対方向に歩き始めた。

 そのままこの場ではお互い一度も振り返らなかった。



シンタロウ・オガタ メタモル・ファイト戦績 十五勝三敗一引き分け一無効試合 性転換回数十回


ジョー(ジェニー)・キング メタモル・ファイト戦績 三十一勝一敗0引き分け0無効試合 性転換回数五回(引退)


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