ジョー・キングの場合 13
第二十九節
「あんたの講釈は分かった。確認するが、勝ったメタモルファイターは勝負の途中で部分的に女にされてても元に戻れるんだな?」
「当然だ。その辺りは通常のメタモルファイトと同じだ。ただ敗者が永遠に戻れないだけだ」
周囲のギャラリーは会話の半分も聞き取れないが、トンだ女装変態紳士たちの睨みあいに興味津々だ。
ぶるりと身震いするシン。
「こいつぁ驚いたよ。まさかそこまで身を削ってメタモルファイトする奴がいるなんてな」
「そういうことだ。震えるだろ?」
「同じ相手とは一生に一度しかメタモルファイト出来んな」
「その通り」
デッキに手を掛けるシン。ギョッとした。
その手が白魚の様な美女のそれで、しかも全ての指に真紅のマニキュアが施されていたためだ。
こんなビジュアルに慣れる訳が無い。
きゅ…きゅ…と動かしてみても確かに自分のものだ。悪夢の様である。
「自らの美しさに酔ったか?これから何十年と付き合うことになるぞ」
「…ウチの国の詩人がさ…千年も前に歌に詠んでる。美女の美しさは一瞬のもので儚いってさ」
思い切ってめくれたカードはクラブだった。
「やっと一矢報いられるな」
そこから先はまた一進一退の攻防が続いた。
カードのめくり運は全くの互角。お互いを「レイヤー(層)形式」で下から順に性転換と女装を同時に行う進行速度も全くの互角だった。
負ければもう戻れないのだ。…もう勝った後の大金など考えられなかった。とにかく負けないこと。負けないことだ。
負けないということは勝つと言うことに他ならん。
「…ジョーカーだ」
一枚目のジョーカーが遂に出てしまった。
「なら同時攻撃だ」
「よかろう」
お互い、首から上だけが男として残り、ジョーの腕もまた完全に美女のそれになっていた。
ジョーは黒バニーだがマニキュアは赤バニーのシンとお揃いの真紅である。
美女二人の折れそうに細く、美しい手が交錯した。
「ぐあああっ!」
「う…わああああっ!」
シンの唇にぬらりと厚ぼったい感触が走る。口紅だ!
同時にあちこち剃り残しのあるみっともない無精ひげに覆われていた顔の表面がつるりとなだらかになり、目が重くなった。
…大量の付けまつ毛をされているらしい。
「「…」」
見つめ合う妖艶なバニーガール二人。
遂に二人は、髪型のみを残し、全身…顔部分までバニーガールとなっていた。
第三十節
「似合ってるぜチャンプ」
「そっちもなアウトロー」
シンは特に何も考えていないボサボサ頭…だったのだが、先日のテキサスの臨時収入に気を良くして適当な床屋に飛び込み、手入れも簡単で当分床屋の世話にならなくていい短めのスポーツ刈りにしたばかりだった。
スポーツ刈りのバニーガール…メイクも決まり、イヤリングをぶらさげた…というのは中々お目に掛かれないだろう。
ジョーは金髪を七三に撫でつけた大人の男のヘアスタイルだ。
無論、バニーガールに相応しいかと言われると疑義を呈さざるを得ないが。
周囲からおおーっというどよめきが上がる。
どうやら本格的にアトラクションだと思っているらしい。
まさか本当に「性別を賭けて」戦っている物好きの男同士だと思う訳も無い。
二人の美女の刺激的な恰好に、最前線にいた母親は子供をつれていずこかに去る…その場にくぎ付けになっていた旦那を引きずって…。大学生であろう若者軍団が好奇心一杯で目をランランと輝かせている。一緒にグループを形成している女子大生たちの視線が、男どもは勿論、こんなところでセクシーコスプレを見せつける「恥知らず女ども」…今のシンとジョーだ…にも向けられていたのは言うまでもない。
シンは今までのメタモルファイトの経験から、女体化したことは何度かあったがそのまま戦い続けるシチュエーションは初体験だった。
彼がアメリカ放浪の旅をしているのはメタモル能力を活かした人助けをすることであって、メタモルファイトをするためではない。
であるから最新のメタモルファイトの情勢に疎かった。
めまぐるしく移り変わるトレンドは、「変身後のスタイルの個性」をも含めた総合力戦になりつつあるのである。
その点では人ごみのあるところではかなり目立つうえ、歩くことも難しいレベルのハイヒールという能力を持つシンタロウ・オガタはかなり有力なプレイヤーだった。
「THD」と呼ばれる有利とされる条件の内「T」は満たさないが「H」は満たしている。
しかも、肌色ストッキング+網タイツが標準装備なのでハイヒールで激しく動くとするりとずれるため著しく運動性を阻害する。
ただ、その能力とやらも風前の灯火だ。
このメタモルファイトに敗れれば男に戻ることは出来ない。このまま一生バニーガールだ。
…いや、バニーガールの衣装そのものは脱げばいいのでその後何だって着られる。
そんなファッションのトレンドなんぞに興味は無かったが。
「ここに来て確認いいか」
「どうぞ」
「負けた側はメタモル能力も失うってことか?」
「そうだ。でなくては賭けにならん」
「バカ野郎が…そこまでリスク負わんでも女になるだけで十分だろうが」
「メタモル能力を持ったまま肉体だけ女にされた元・男がどれだけヤケクソで無茶をやるかお前は知らんだろ」
「…」
実例は知らんが…想像は簡単だ。
「もう一つ聞きたい」
「気の済むまで」
「今までこの形式でお前に負けたメタモルファイターはいるよな」
「いる」
「彼ら…彼女らはどうなった」
「ベガスから去った者もいる」
「このチンドン屋みたいな恰好でか?」
自らの女体を両手を広げて示すシン。無駄毛ひとつない脇の下が見せつけられる。




