・第一話、仕事
「赤坂マフィア総乱戦1」
「えー…、歳は32歳、住所は錦糸…」
警察官が俺の免許証を確かめる。
真夜中の高速道路、この高速道路を俺はひたすら歩いていた。
何故歩いていたか?記憶から辿ると…。
そういえば、昨日は「仕事」だった。
酒屋?それとも居酒屋?いやいや、どちらも違う。
俺にはもうひとつの仕事がある。
その仕事とは「なんでも屋」だ。
なんでも屋と言っても表看板にはそう書いてはいない。
口コミだけで広がった所謂「裏の世界」専門のなんでも屋だ。
中学卒業後、俺は親父の跡を継ぐのが嫌ですぐに家を出た。
当てもなくな。
そして、のたれ死にしそうになってたのを拾ってくれたのが
この仕事にキッカケをくれた「裏家業専門の探偵」を生業にしている男だ。
その男の下で「探偵バイト」をさせてもらい
お陰で今の俺があるということだが…。
いや、正確に言うとこの力に目覚めさせてくれたっと言ったほうが無難か。
っと少し脱線してしまったな。
昨日の仕事とはある人物の護衛だった。
そのある人物とは東南アジアに2つのマフィアを持つ
通称「クレイジー・マットソン」
若い時は爆弾魔として恐れられ敵のアジトを
潰す時は迷わずC4(プラスチック爆弾)を使うなど
イカレぶりからその名がついた。
マフィアにしては珍しく、日本の極道と同じく
義理人情が厚いマフィアのボスだ。
そんなボスの護衛を頼まれちゃ流石の俺もビビる。
午後3時過ぎ、酒屋経営時にサングラスに黒いスーツの黒人が
二人も入ってきちゃガラガラの店がさらにガラガラになっちまう。
「アナタ ガ キスケクサナギ?」
我が酒屋は電気を使わず日の光だけで店内の明かりを支えている。
決して金をケチってる訳ではない。言うならばEcoだ、エコ。
まぁ夕方になったらあんまりにも暗いから
店内の中央にある裸電球ひとつはつけるんだが…。
日の光だけで支えている店内ではこの黒人はやたらと大きく感じた。
直感でわかるんだよな。
(あぁ、またロクな依頼じゃねぇ…)と
裏家業専門のなんでも屋だとロクな話は入ってこないが。
「ああそうだが、表の看板にも書いてあるがここは「酒屋」だ。」
「用がないならとっとと出ていきな!」
あっちは黒いスーツ
こっちは股引に腹巻
どう考えても喧嘩したらこっちが負ける服装だよな。
「アイタガテル、ボス ガ コイ」
おいおい、いきなり銃を突きつける奴がいるかよ…。
奴らはそう言うなり俺を股引のまま
黒塗りのベンツに連れ込み1時間ほど走らせた。
まだ5月だというのに暑い
「おい、冷房つけろよ、テメェラ暑くないのか?わかるか?レーボーだ」
後部座席に黒人二人に挟まれ俺は真ん中
キツクて物凄い暑い訳だ。
「ダマレ、オマエモノイウケンリナイ」
銃を突きつけてた男が言う。
(ただ日本語わからないだけじゃねぇのか…。)
その時ちょっとだけ頭にきて、からかってみた。
「いやー、お宅「権利」なんて難しい言葉知ってるんだな」
銃を突きつけてた男が俺を睨んだ。
「オマエ、ダマレ!シニタクナケレバ クル!」
冗談も通じなさそうなので俺は適当に相槌をうつ。
「へいへい…。」
「オイ デル!」
いきなり車が停まり、そう言われた。
(「出ろ」って言いたいのか…?)
指示されるがままに車を降り周囲を見渡す。
(ここは…、赤坂か…?)
昔、「探偵バイト」時代に一度来たことがあったのでなんとなく覚えていた。
やたら豪華なホテルの一室に連れ込まれた、股引のままでだ。
そこには過去のブラックリストに載っている男が3人ほどいた。
そして一番奥の男が一番厄介そうだった。
「部下の無礼を許してくれたまえ、あれでも私に命を捧げているのでね」
一番奥の厄介そうな男が口を開く。
「ああ、股引のままこんな豪華なホテルきたのは生まれて初めてだ」
怯まず俺も反撃の口を開く。
ここで怯むと「コイツは使えない」と思われ
問答無用で東京湾にコンクリ詰めで落とされるケースがある。
「実は…、君に仕事を頼みたくてね。君の師には相当世話になったものだ。」
物静かに厄介そうな男が答える。
「残念だが俺の師は七年前にとっくに他界している。」
「それに俺はアンタが好きになれない。」
睨みを利かせ男を挑発する。
「ハーッハッハ、面白い男だ。確かに言葉の使い方がアイツに似ている。」
(「アイツ」と言うのは師のことかこの男、師匠とどこまで…。)
俺の心を見透かしたのか男は言う。
「彼には何度も命を救ってもらったのさ。」
「そうでなければ左足だけでなく全身木っ端微塵だったのさ。」
苦笑しながら義足を俺に見せ付ける。
「さて、本題に移ろうか。」
手前の男が話を切り替える。
「君にはボスの…、マットソン氏を護衛してもらいたい。」
手前の男は静かに話を持ちかける。
「マットソンだって!?」
俺は過敏に反応してしまった。
ブラックリストで見ていたが「見かけていた」と
いう程度だったので顔は覚えていなかったのだ。
しかし「マットソン」という名は有名だ。
(そうか、このオッサンどこかで見ていたと思ったらマットソンだったのか…。)
「おいおい、そんなお偉いさんを俺に護衛させて大丈夫なのか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「君だから頼むのだよ。アイツはもうこの世にいないからな。本当に惜しい男を亡くした」
気のせいかマットソンは涙目になっているような気がした。
「………わかった。この依頼引請けよう」
何故かこの時俺は密かに師匠のことを聞けると確信していた。
俺は師匠の過去を知らない。
過去に師匠がマットソンの依頼を請けた時恐らく
俺は師匠とまだ出会っていない。
「ただし、条件がある。」
睨みを利かせ断固この条件は絶対であるということを伝えたかった。
「次は日本語わかる奴を寄越してくれ」
笑いを堪えながらマットソンは苦笑していた。
「んー、マンダム」
一夜明けて俺はホテルのスィートルームでハーブティーを頂きながら
プールサイドか南国の海のようにくつろいでいた。勿論股引のままで。
「護衛は明日から」とマットソンの側近から言われ、詳しい説明もされず
昨日一日はホテルに缶詰状態だった。
【トントン。】
ノックの音がした。
「どうぞ」とドアの方に顔を向ける。
「ルームサービスになります」
ボーイがそう言い、なにやら長い服のようなものを取り出した。
「あ、メッセージがあります。どうぞ」
そう、ボーイが言うと俺に手紙を手渡した。
「追伸草薙へ、その日本の着物「モモヒキ」では仕事にならないだろう?
私が用意させたスーツをきてくれ」
マットソンからの手紙だった。
今のルームサービスってスーツも取り寄せられるのか…。
と関心したのは言うまでも無い。
気づけばマットソンの部屋に呼ばれてるのはAM10:00
現在AM9:50、結構やばいぞ俺。
素早くスーツに着替えるがなかなかネクタイがうまく結べない。
ネクタイなんて成人式以来マトモにやったことはないからだ。
仕方なくネクタイは諦めそのままマットソンの部屋へ行く。
ネクタイより時間厳守だろ?と俺は思ったが間違っていた。
マットソンの部屋に軽くノックをし
「どうぞ」と言葉が返ってきたので部屋に入る。
ブラックリストで見かけた男、
どうやらマットソンのボディーガードらしいが…。
部屋に入るなりいきなり床にねじ伏せられた。
「貴様、ネクタイはどうした!?」
そのまま反撃してもよかったが
ここで血を見せちゃ素直に帰してくれなさそうだし素直に答える。
「ネクタイは俺の性に合わなくてね、結べなかったんだよ」
するとボディーガードらしき男が唖然とする。
「ボス、本当にこんな奴でいいんですか…?」
ボディーガードらしき男が不満そうに尋ねると
マットソンは笑いながらこう言い放った。
「本当に君は師にそっくりだな!ますます気に入ったぞ!」
まるで子供に玩具を与えたときのようにマットソンははしゃいでいた。
(そういえば、師匠もネクタイが嫌いだったな。)
「ふ、まぁいい。では護衛の説明をする。」
やっと本題の話が入った。