・第二十一話、小さな時空改変
・錦糸町時空事変編3
午前10時前になり、俺はミツキに「そろそろ時間ですよ?」と言う。
「ああ、もう10時なのか、喜助君ナイスだねぇ。」
そういえばいつもこうだったな。
師匠は時間に結構ルーズなのだ。
「それじゃ支度するから喜助君は準備出来たら下のガレージに行ってね。」
そう言うとミツキは出かける準備を始める。
…今から支度するのかよ。
俺は予め支度はしておいた。
まぁもう一度中身を確認するか。
当時の俺は戦力にはならずあくまで「助手」の立場だった。
だから最低限自衛できる物、
そう、スタンガンとか警棒とかをリュックサックに積めていた。
ああ、医療品も積めとかないとな…。
そこでハッっと俺は思い出した。
そうだ、この事件でミツキは左目を失うんだった。
この時、俺は未来を変えられるかもしれない。と思い
密かに期待を胸にふくらませた。
準備の確認が終わり一階のガレージで待つ事10分。
「いやぁ、悪い悪い。遅れちゃったね。」
スーツだがネクタイはしてないカジュアルな格好でミツキが登場する。
やっぱり師匠はネクタイが苦手なんだな…。とクスッと笑ってしまう。
「あ、喜助君。今笑ったね?」
微笑むようにミツキが俺に言う。
「いや、気のせいですよ。」
俺も笑い返しながら言う。
この時は楽しかったな、本当に…。
ミツキがガレージから車を出し目的地の「錦糸町」へと向かう。
ミツキの事務所は小岩にあり、車で15分ほど走らせて目的地付近に到着する。
「喜助君、錦糸町だけど大丈夫なのかい?」
ミツキが俺に問いかける。
「えっ、何でですか?」
話の意図がわからない俺がミツキに尋ねる。
「だって、実家の近くでしょ?ご両親にバレでもしたら…。」
ああ、そうか俺はこの時に家出してて
ミツキの家に住み込みで探偵助手をやってたんだった。
すっかり忘れていた俺。
「ま、まぁ人も多いですし早々バレないですよ。」
そう返しておいた。
「ふーん、君がいいならそれでいいけど。」
ミツキは深く追求しなかった。
確か過去は逆だったんだよな。
現場が錦糸町で親にバレるかもしれないって事で俺が駄々こねて
ミツキに連れ出される形だったと思う。
そう考えると未来は少しずつ変わっているのかもしれない。
目的地付近のコインパーキングに車を止め、現地の下調べをする。
「しかし、まぁこんな真昼間に白昼堂々と密輸の取引なんてしますよね。」
俺がミツキに言う。
「逆に白昼堂々だからじゃないかな、警察も大きくは動けないし」
続けてミツキは言う。
「だから、僕のとこに依頼が来た訳だしね?」
ニッと無垢に笑うミツキ。
あぁ、この時はまだ優しかったんだよな…。
あと5年もすれば鬼のように俺を怒鳴り叱りつける男になるんだった。
取引の場所は丁度、錦糸公園の真裏で行われるそうだ。
現代ならば「モリナス」というでかいショッピングモールがあるが当時は無い。
望遠鏡で錦糸公園から辺りを覗くミツキ。
「ほら、見て喜助君!」
ん、なんだ…?と思い視線の先には女子高生。
「女子高生っていいよねぇ…。君も高校行ってればお近づきになれたのに。」
どうでもいい話題を振られて「へぇー」と適当に流す。
「君が高校に行けば僕が女子高生とお近づきになれるんだよ!?」
なんでそんな必死なんだよ!ってかアンタじゃ犯罪だろ!
「…それじゃ犯罪ですよ。」
うざいので返してしまった。
「恋に歳の差なんて関係ないのさ!」
あぁ…、もっとうざくなってしまった。
「さて、喜助君」
ミツキの声が急に真剣になった。
来たか…!?
俺はそう確信する。
確か俺はこの時、錦糸公園で待機するように命じられる。
「ブツが来たみたいだよ…。喜助くんはここに居てね。」
ビンゴ、やっぱり当たった。
「俺も行きますよ。」
未来を変えるため自ら言い出す。
「ダメダメ、君じゃまだ危ないよ。」
そう諭すミツキ。
「師匠、これを見てください。」
俺はおもむろにリュックサックから500mlの水のペットボトルを取り出し
ペットボトルの蓋を開け、意識を集中させる。
「留まれ、水の玉よ!」
言葉の引き金を引き、ペットボトルから水が球体となり俺の掌に乗る。
「!?、喜助君それは…!」
驚いてるミツキを横目に俺は言葉を綴る。
「放て、水の弾丸よ!」
誰もいない、アスファルトの上に水の弾丸を発射する。
アスファルトがメコッと沈みミツキが喉を鳴らすのがわかる。
「すごい、すごいよ!喜助君!」
「昨日能力を開花させたばかりなのにここまで使いこなすなんて…!」
そりゃそうだ。俺の能力は意識の集中。イメージ力で発揮させる。
未来から来た俺には造作もない事。
本来の俺なら水の弾丸を形成するのに後3年はかかる。
ましてや、掌で水を留めるなんて高等技術は
ミツキの死後に出来るようになったのだ。
「…これならお役に立てますよ。」
俺はここは譲らないとばかりにミツキを睨みつける。
「…うーん、今日の君は本当に強情だなぁ。」
呆れるようにミツキが言う。
「でも、ひとつ約束してね。」
言葉を続けるミツキ。
「己の力に過信して能力を使い過ぎない事。」
「まだまだ能力に関しては教えないといけない事が山ほどあるんだからね。」
そう言うとミツキは
「ほら、行くよ。喜助君!」
俺の名を呼び、現場入りを認めてくれたのであった。




