・第二十話、記憶遡行
・錦糸町時空事変編2
酷い夢だった…。
俺は汗だくになっていてシーツに染みがついてる事がわかる。
なんというか内容ははっきりと思い出せないが俺が酒屋を継いでいて
魔術師がどうとか化物がどうとか。
なんとなくしか覚えてないがとにかく酷い夢だった。
でも、そこで記憶の矛盾点に気づく。
あれ、俺昨日何してたんだっけ?
今、何月何日だっけ?
壁に掛かっているカレンダーを見ると
2000年の5/23というところまで×印が書いてある。
そうか、今日は5月23日か…。
時計を見ると時刻は7時12分だった。
そこで【トントン】とドアを叩く音がする。
「喜助君、起きてるかい?」
懐かしい声が聞こえ、師ミツキだと確信する。
ん、懐かしい…?
どういう事だ?と思ったが「起きてます。」と俺は答えた。
「朝食の準備が出来てるよ、トーストだけどよかったかな?」
そう言うとミツキは扉を開け俺と顔を会わせる。
その瞬間、
ドクンッ
心と頭の中で何かが爆発した。
次の瞬間、俺は叫んだ。
「う、うわああああああああ」
「!?、どうしたの喜助君!?」
「まさか、能力の開花で後遺症か…!?」
ミツキが心配そうに俺に駆け寄る。
「髪が真っ白じゃないか…、やっぱり君にはまだ早かったようだね。」
ミツキが俺の背中をさする。
違う、そうじゃない!
思い出した、思い出したんだ。
俺は15年後から魂だけタイムスリップしてきたのだ。
「あ、え、いや…。」
言葉にならない。言葉。
もう会えないと思った師との再会。
自然と涙が出てくる。
「本当に大丈夫かい?」
不安そうに俺を見るミツキ。
「だ、大丈夫…です。」
なんとか言葉を発する俺。
「ちょっと待っててね。今、心が落ち着く薬とってくるから。」
そう言うとミツキは部屋から出て行く。
色んな事が一気に心と頭の中で起こった事で俺はパニックになってしまい
ようやく頭の中で情報を整理する。
そう、俺は未来を改変する為にあの魔術師から「時」を遡らされたのだ。
そして、その「時の改変」には俺の師ミツキが深く関わっている事も思い出した。
まず、気持ちを落ち着かせよう…。
そう考えると俺はふぅっと深呼吸を何回か繰り返した。
「喜助君、薬持ってきたよ。」
ミツキの声が聞こえドアを開ける。
「いえ、大丈夫です。少し混乱しちゃって…。」
俺はミツキに心配させまいと言葉を選ぶ。
「この薬飲んで見て、即効性ですぐ効くからさ。」
そう言うとミツキは俺に水の入ったコップと粉薬を手渡す。
「…有難うございます。」
俺はそう言うと粉薬を水で流し込む。
「朝食はどうする?きついようなら食べなくてもいいけど…。」
ミツキが不安そうに俺に問いかける。
「いえ、食べれます!今着替えてから行くので先に戻っててください!」
俺はハッキリと答えた。
「そうかい?まぁ顔色もよくなってきたし無理しないでね」
そう言うとミツキは部屋の外へ出て行く。
…とりあえず着替えよう。
俺は古い記憶を漁りながら何がどこにあったか思い出す。
とりあえず汗でびょしょびしょになったシャツと下着を変えて…。
あぁ、クローゼットはここだったな。
着替えを済まし部屋を出てキッチンへと行く。
「お待たせしました。」
俺はそう言うとミツキが「待ってないよー?」と言い
モグモグと食パンをかじり牛乳を飲んでいた。
…さて、どうやって話を切り出すかな。
いや、それよりも今、優先させるのは「現状の把握」だ。
時を遡った俺には今何をしているのかなんて覚えてない。
「すいません、師匠。」
俺はミツキに問いかける。
「なんだい、喜助君?」
モグモグと食パンをかじるミツキ
「さっきも言いましたけどちょっと混乱しちゃって…。」
「今日の予定ってなんでしたっけ?」
あまり勘ぐらせないように俺はミツキに聞く。
「ああ、無理もないよ。」
「昨日能力を開花した君に何らかの後遺症は出るとは思ってたから。」
メガネをかけ新聞に目を通すミツキ。
昨日丁度、能力を開花させていたのか俺は…。
タイミングがいいのか悪いのか微妙な気持ちだった。
「今日は休んでもいいよ?今日の仕事は僕だけで大丈夫だからさ。」
ミツキは俺に優しく接する。
違う、そうじゃない。
「いえ、もう本当に大丈夫ですから…。今日の仕事ってなんでしたっけ?」
改めて俺が聞く。
「んー、時には休息も必要だけど君がそこまで突っかかってくるのも珍しいね。」
確かに当時の俺はいい子だったのかもしれない。
「どうしても行きたいんです。教えてください!」
食い下がらない俺。
「うん、今日はある密輸を潰しに行くんだけどね。」
これだ!と思った。
沙希に情報を頭に流された時、
目的は「とある魔道書の焼却」という事だった。
そうだった、そんな事もあった。
俺は昔を思い出していた。
確か、その魔道書はミツキによって奪還され依頼主に返される。
今回はそれを食い止め魔道書を依頼主に渡さず焼却すればいい。
恐らく、これは俺の勘だが沙希にとって
その魔道書が今後何かしらの影響を及ぼしたのではないかと推測する。
「とりあえず、密輸の時刻は情報屋から正午過ぎって聞いたから」
「10時くらいには出発するよー。」とミツキが言う。
とりあえず、食欲はなかったのだが「食べれます!」と答えてしまったので
無理矢理、胃にトーストと牛乳。そしてサラダを強引に突っ込む。
ミツキが作った朝食の後片付けを俺がして
その間にミツキは何やら書類に目を通していた。
「師匠、何見てるんですか?」と興味本位に俺が聞く。
「ああ、これはね。」
「ほら、密輸物の内容。なんか古い書物とか銅像とかそんなのばっかりだよ。」
書類の中にある写真を俺に見せるミツキ。
やはり、この中に魔道書がある…!
そう確信する俺であった。




