・第八話、情報収集
・資産家変死事件2
沖田の「日替わりサンデー」を食べ終えた後、俺達は店を出た。
資産家の屋敷は亀戸にある。現在位置は新小岩、
車で行けば20分程度で到着するだろう。
長谷部の車で亀戸まで到着するまで前もって貰った資料を再確認する。
亡くなった資産家の名前は【藤田啓治】顔写真も添付されていて
年齢は40代、若手の資産家だ。家族構成は奥さんが数年前に亡くなっていて
娘さんが一人だけいるらしいとのこと。
【藤田啓治】の自宅に到着して車の中から外観を見る。
流石資産家という事だけあって敷地面積は大きく塀に囲まれているが
豪邸が外から見える。資料によると築45年経つそうだがそうは思わせない
立派な屋敷という印象が残る。
「しまったなぁ…」
突如中川が口を開く。
「どうした?」と俺が聞いてみたところ
「アポの時間が13時に予約とってあるんですよね。今11時前だから少し時間が余っちゃうんです。」
ふむ…。と俺は考えるフリをする。
頼られてないから俺から提案を出したところで却下だろう。
「先方に連絡伝えれば早く取材させて頂く事も可能かもしれませんが」
中川が控えめな口調で言う。あまりこちらの都合で時間を変更するのは
相手にとっても迷惑な話だからだ。
「ふむ、ならば付近で聞き込みしましょうか、その方が後々役に立つ情報も手に入るかもしれません。」
沖田が提案をする。
「流石、刑事さん!やっぱり聞き込みは大切ですよね!」
なんでコイツは沖田の時はこんなにハキハキしてるのだろう。
車をコインパーキングへ置き、聞き込みを開始する。
情報収集という事なので俺と沖田、中川と長谷部の2チームに分けられた。
ジャーナリスト二人が同じ班というのはどうかと思うが何故かテキトーに
グーパーで決めてしまった事に後悔する。
後で合流する時間と場所を予め決め、聞き込みを開始する。
早速屋敷付近で奇妙な男と遭遇する。アレはきっとニートだ。
俺の直感がそう告げる。コンビニ袋をぶら下げてニートの割にはいちいち
電柱に隠れながら移動しているから怪しさMAXである。
「ちょっとそこの君、いいかい?」
沖田が話しづらそうにしているので俺から声をかける。
「!?ナニナニお兄さん達!!!拙者に何か用でゴザルか!?」
ああ、コイツは駄目な奴だ、見限ろうと思ったが沖田が話しかける。
「あの…、そこの資産家の藤田さんの屋敷の事についてお聞きしたいのですが…。」
こういう人種には慣れていないのか会話が辿たどしい。
「あー、藤田さんね!拙者面白い情報持ってゴザルよ!」
お、なんか一発目で当たり引いたっぽいこれはラッキー。
「面白い情報って何?」興味無さげに聞いてみる。
こういう輩は調子に乗らせるとタチが悪い。
「なんかね、藤田さんの家って大豪邸なんだけどね!裏にでっかい工場があってね!でゴザル!」
無理に語尾にゴザルつけるんじゃねえ、うぜえ…。
「それでね、なんかその裏ででっかい黒い丸い玉みたいの作ってたらしいんでゴワスよ!」
今度はゴワスか…、もういいや…。適当に礼を言いあしらってニート男を追っ払う。
「収穫は工場で何やらでっかい黒い玉みたいのを作成していた。という事だけか」
聞き出した情報を整理する。
「そうですね。案外時間過ぎちゃいましたし中川さん達と合流しましょうか。」
沖田の提案に乗り、集合場所へと移動する。
集合場所へ移動して聞き込みの結果を情報交換する。
中川達の聞いた情報では偶然話好きなおばちゃんに
会って根掘り葉掘り聞けたらしい。
内容は【藤田啓治】心臓麻痺で亡くなったのは過労が原因ではないか。という事
そして見慣れぬ20代くらいの若い女性が何度も屋敷に上がってたそうで
数週間前から屋敷に上がっていたらしい。人相を聞いたところかなりの美人のようで
実に会うのは楽しみになってきた。…いやいや男とはそういう生き物だろ?
そしてその美人の若い女性は告別式にも顔を出さなかった。という事らしい
ただの愛人なのか、それとも研究者の一人なのか…。
やはりこれは病死ではなく何か特殊な事情が絡んでいると
踏んで間違いないようだった。
余談だが亡くなった主人は娘さんとはかなり仲が良かったらしく
休日には一緒に買い物に出かけていたらしい。
互いの情報交換が終わり、アポの時間が近付いてきたので
改めて屋敷へ車で向かう。
訪問する前に各自やる事を事前に確認した。
「…しかしまぁ、藤田って奴は何考えてたんだろうな。」
長谷場が唐突に口を開く。
「まぁ、身辺は結構どろどろしてそうですね。」
沖田が相槌を打つ様に会話に参加する。
「女に手を出すわ。なんかあやしい奴作ってるわで、死んじまったしな。」
憎まれ口を叩くように長谷場が言う。
「資産家で金もあるし危ない研究でもしてたのかもな。」
職業柄こういう事には鼻の聞く俺が言葉を付け足す。
「…ナゼ、所轄の奴らは事件性を調べなかったんだ?」
沖田がぼそっと口にする。
「でも、黒い玉って実際何なんですかねえ?」
中川が不思議そうに腕を組み考え始める。
「さぁなーわからねぇな。屋敷に乗り込めばわかるんじゃねーか?」
長谷部がスマホをいじり出しながら適当に相槌を打つ。
「黒い玉は実際屋敷を調べないとなんとも言えんな。」
俺が一言助言をし、実際問題そこが一番怪しいと思っている。
「う~ん、あまり乗り気ではないですが草薙さんにコソコソしてもらいますかね…。」と沖田が独り言のように呟く。刑事としてあるまじき発言だと思う。
「おいおい、あくまで俺は探偵であって泥棒じゃねえんだからな、まぁ多少開錠の心得はあるが」苦笑しながら俺は答える。
「…僕は多少の事は気にしませんよ。本来は。」
本当に刑事なのかコイツは…?
「つーか昼間から物騒な話ヤメンかい。そんなことやったら信用問題に発展するだろ」
流石ジャーナリストの課長だけあって一般的な常識は持っているらしい。
「ああ、そうですね。ついつい部署会議のつもりで…」
公安の特殊班って何やってんだよってツッコミを入れたくなったが我慢する。
「む?」
ここで写真を眺めていた長谷部がある事に気づいた。
「ふむ、自宅裏にやっぱ工場みてーのがあるな。」
「そこで作ってたのかしらね?」
中川がチラっと長谷部の方を向いて答える。
「黒い玉を生成している工場って考えるのが無難か」
当たり前のようだが情報整理の為に俺が助言する。
「黒い玉…心臓麻痺…美人の愛人(?)これは本当に記事になりそうね!」
ジャーナリスト特有のワクワク感が抑えきれない
中川の性分であるのは過去何度も見ている。
「でもなんでわざわざ工場を自宅に。お金もありますし、委託すれば簡単に黒い玉なんてできたでしょうに」中川が疑問を問いかける。
「人目を避けるのならば自宅で作ったほうがいい。」
その方が効率的、尚且つ秘密裏に行動が出来る。と俺が答えた。
「…黒い玉ってそんなヤバイものなのかしら」
またもや中川が疑問を問いかける。
「さぁ、大きさが分からないですし、そもそも情報源があれでしたから…」
沖田が自信無さげに言う。
「実質問題、普通の奴がそんな黒い玉を作ってるなんて事もないだろうしやばいものなのかもな」両手で腕を組み俺はそう答える。
「問題は何に使ってどういう作用をするか、だ」
探偵らしく答えてみた、うん。
「でも周囲の人には黒い玉作ってるって事がバレバレなんですよね。危ない物ならものならもっと隠匿すると思いますけど…」中川がここで口を挟む。
「…まぁ、後で考えましょう。取りあえず取材を終わらせないと。」
話を切るように沖田が告げる。
「確かに確証0だな。そこを調べる事を重点的に屋敷で調べていこう。」
続けて長谷部が中川に問いかける。
「中川。今回の取材対象は娘さんだけなのか?」
「えぇ、藤田由香さんですけど、お手伝いさんだったら何か話してもらえると思います。」
「ふむ、出来れば死亡現場も見せてもらえると良いんですが。」
流石職業柄、沖田はそっちの方に興味があるらしい。
そして一行を乗せた車は目的地である資産家の屋敷に到着した。




