表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

友葉学園シリーズ

友葉学園 in クリスマス

作者: 田中 友仁葉

登場人物


・横峯 宗一 冷酷なふりをしていた。

・坂道 絵美 鋭敏な少女。横峯の彼女

・二条院 栞 生徒会会長。通称『知の魔王』

・葛川 三郎 養殖系男子。横峯の親友

・川添 美空 超能力者。手品同好会。亀谷が好き

・目方 由那 情報通。手品同好会。川添の友人

・乙姫 心 男の娘。手品同好会

・亀谷 隼 乙姫の旧友。柔道部と手品同好会

・裏島 優 手品同好会会長。乙姫に好かれる

・鶴沢 美影 乙姫の幼馴染。乙姫が好き

・鏡 裕 根暗だが絵の才能がある。

・榎田 可憐 クラスのマドンナで鏡の彼女

・五木 相馬 五木家の弟。しっかりしてる

・五木 麗亜 五木家の姉。天然

・立波 都華咲 公園の管理人兼土地神

・高町 浩史 公園にてアルバイトをしている

・毒島 明日香 高町の彼女。埋毒者。図書委員

・青空 華 妖精。実は年長者

・小野 広樹 青空の彼氏。

・牛沢 梨花 胸が大きい。天然。図書委員



主人公はいません。


みんな主人公。


「クリスマスライブ?」


諸事情により2人しかいない手品同好会にてそんな声が上がる。


「そうなの。 この間の手品イベントあったでしょ? それを見た商店街の友達がさ。是非とも商店街のイベントに私たちを呼びたいって」


裏島は簡潔に伝えると、川添は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。


「なら、少しやりすぎないようにしないといけないですね……」


「まあ私たちはエスパーのことよくわかんないし、美空ちゃんの加減に任せるよ」


*****


一方その頃


「宗くん寒くない?」


「うん、大丈夫気にしないで」


「……ほんとすっかりカップルだな」


「そう見えるか?」


横峯は坂道、葛川と並んで帰宅していると途中で鮮やかな色の張り紙を見つけた。


「お? クリスマスマーケットか」


「確かドイツのが有名だけど、今度商店街でもするらしいね。聞いた話だと友葉学園からクリスマスライブというのもあるらしいね」


饒舌に話す葛川を他所に、坂道は目を輝かしていた。


「ねえ宗くん! あのさ……」


「面白そうだな。坂道さん行こうよ」


「えっ……!! う、うん!!」


「……横峯から振るとは坂道さんも予想できなかったんだな」


*****


「姉ちゃん!! 俺のポテチ食っただろ!!」


「ん? あー、返す返す。 明日には下から出てくるから」


「姉ちゃんの糞もらって喜ぶ性癖ねえよ」


その頃、五木家では喧嘩が起ころうとしていた。


が、麗亜の気力のない答えによって相馬も怒る気力をなくした。


「代わりに冷蔵庫にケーキあるよ」


「えっ!! マジで!!?」


相馬は飛びつくように冷蔵庫を開く……が


「……ないじゃん」


「あれ? 母さんに頼んだんだけど」


「……母さんと暮らしてないだろ。なんだ冗談か……」


相馬はますますヤル気をなくし、姉の入っているコタツに自分も突っ込んだ。


「そうだ! 相馬、クリスマスにケーキ買いに行こうか?」


「珍しいな。でもどうせ割り勘だろ」


「割り勘でもいいじゃん。損は平等、利益も平等!」


姉のポジティブな意見に相馬も少し考えさせられる。


「……まあケーキは俺も食べたいし。 友達からの誘いもないしな」


「……悲しいこと言わないでよ」


*****


「高町、毒島よ。今日はこの辺で仕事は終わりじゃ」


「お疲れ様です!」


「それにしても、この広さを3人がかりでネオンを飾るのはかなり大変でしたね……」


「あ、お、おう。そうじゃな」


立波は実際、事務所でバラエティーの再放送を見ながらみかんを食べていたのだが、新バイトの毒島にバレたら怖いのでそこは黙っておく。


というよりも、毒島が来てからは立波はあまりサボれなくなった。


「それにしてもお主ら。クリスマスは用事あるか?」


「? いえ、なにも」


「私もですけど……(デートしろとかかな!?)」


しかし、毒島の期待は裏切られる。


「ならクリスマスは小屋にて3人でパーティーするから空けておくように」


「……」


「いいですね! 楽しみです」


「……まあいいか、高町くんいるし。それにしても立波さんも可愛いこと言うんだな」


毒島は小声で呟くと苦笑を漏らした。


*****


「亀谷、部活お疲れ」


「おう乙姫。待っててくれたのか」


「まあな」


乙姫は柔道部を終わらせた亀谷の元に駆け寄るとタオルを手渡した。


「亀谷先輩! 彼女ですか?」


「……こいつ男だぞ」


「ええっ!!?」


亀谷の後輩らしき人物は乙姫の正体を知ると驚き仰け反った。


「……まあ気を落とすな。乙姫」


「大丈夫、慣れてるから」


乙姫は亀谷に苦笑すると、並んで学校を出た。


…………

……


「そういや乙姫は待っててくれたのか?」


「いや、少し先生に頼まれごとに捕まってさ。結果これだけ遅くなってしまった」


「……まあお前らなんか捕まえやすそうだもんな」


亀谷の言葉に乙姫がむくれるが、それでもかなり可愛いので亀谷は自然な動きで顔を逸らした。


「よお。姫ちゃん、亀谷」


「なんだ鶴沢。空手部も終わったのか」


「まあな。クリスマスまでまだ学校あるのは嫌だが、部活に至っては仕方ないしな」


鶴沢は嫌がる乙姫を抱きかかえながらボヤいた。


「あ、いたいた。先輩!!」


「ん? 川添か、同好会も終わったのか」


「そのことなんですけど……実はクリスマスに……」


………

……


「……なるほどな。ありがとう、これからは部活も緩くなるからそっちにいけそうだ」


「僕も行くよ。わざわざ報告ありがとうね」


「はい! では私は風邪だった由那ちゃんの方にも伝えてきます」


そういうと川添はテレポートをつかったのだろう、その場から一瞬でいなくなった。

乙姫と亀谷は日常的なので軽く「おお」と声を出した程度だったが、鶴沢に至っては硬直していた。


「そういや、あいつ。超能力者なんだっけな。忘れてた……」


「あれからもうすごい使ってさ。この間なんか超能力を使わずにした手品を超能力だろと言ったら怒っちゃって……」


「……まああの時は全員で謝って許してもらったけどな。川添はいい後輩だ」


亀谷は頬をぽりぽりと掻くと川添と鶴沢はジトーっという目で睨んだ。


「……本当に好かれてるよな。亀谷」


「まだ付き合ってないんだろ? なんでだよ」


「いや川添がさ。『私と付き合うと、私が好きな亀谷先輩じゃなくなりそうです』って言ってさ」


「……本当にいい後輩だな。あいつ」


*****


翌日、2-Aにて


「由那ちゃん風邪大丈夫なの?」


「まあね。そろそろ良くなるよ」ズルズル


「……無理しないでね」


川添は鼻をすするマスクをつけた目方を見ると、ハァとため息をついた。


「それにしてもこんな新同好会が地域行事にまでお呼ばれするなんてね」


「本当だね……」


…………

……


「クリスマスどうする?」

「カラオケとかどう?」

「いいな! じゃあ女子呼ぼうぜ! クリパ兼合コンってことで!」


「……」


その頃、クラスの隅では相変わらず鏡は一人でボーッとしていた。


(……クリスマス……ねぇ。一般的には恋人とデートするものだけど……)


鏡はそこまで考えるが、榎田の人気を考えると無理だ思い再び突っ伏くした。


「……」


「ねえ榎田さん。今度カラオケ行こうぜ!」


「うーん……ごめんね」


「だから言っただろ。榎田さんは難しいっての」


榎田はその頃、スカウトされては断るということを作業のように行っていた。


「ねえ可憐ちゃん。クリスマス予定ある? ないならさ、ケーキ食べにいこー?」


「うーん。ちょっと、忙しいかな?」


「そっかー……」


榎田はチラチラと鏡を気にする仕草を見せるが、本人は気づかないのかダラダラしている。


「……はぁ」


「どしたの美空」


「いや、ちょっとさ。気になってさ。ごめんねちょっと待ってて」


…………

……


『ちょっと鏡くん!!』


「……っ!?」


鏡は突如響いた声に驚き顔を上げ辺りを見回した。


『あんた、クリスマスなのに彼女誘わないとか何考えてんの!』


(これは……俺の葛藤なのかな……)


「……へんな誤解してる」


「ん? なに?」


「いやなんでもない」


川添は目方の言葉を除けると、再びテレパシーを行った。


『ほら。榎田さん見なさいよ。付き合い頼まれる度に断ってるでしょ!? なんでだと思う?』


「……分かったよ」


「よし。じゃあ次は……」


…………

……


『榎田さん』


「え?」


『鏡くんに話して』


「ええええっ?」


川添はこれだけで充分だと思うとテレパシーを止めた。


「え? え? ……な、なに?」(でもとりあえず裕くんと話してみようかな?)


…………

……


「え、えっと裕くん。あのさ……」


「あ、榎田さんクリスマス空いてる?」


「……え?」


「よかったら、クリスマスにデート……みたいなのとか……どうかな……?」


鏡は話しかけられたチャンスを使い、彼女をデートに誘った。


榎田は一瞬キョトンとした顔になったがすぐに満面の笑みになると答えた。


「……うん! 絶対だからね!!」


…………

……


「……ふぅ」


「なになに? なにしたの?」


「いや、何もしてないよ。私は」


「嘘だー」


*****

その日、放課後の図書室


「へー、クリスマスね」


図書室にて裏作業をしながら、牛沢は毒島の話に相槌を打つ。


「牛沢センパイは何か用あります?」


「うーん……なんだろ。せっかくだし私も友だちと買い物行こうかな」


牛沢は脳裏に2人の人物を思い浮かべながら答えた。


「いいなぁ」


「でも毒島さんもお友達といくんでしょ?」


「とはいえ、一応お仕事の範疇に入りますからね……」


毒島はそう笑いながら答えると、腋に挟んだ本を本棚に戻した。


*****


その頃、当の本人である青空と小野は学校付近にある有名ハンバーガーチェーン店、マクルナルドにて寄り道と言う名の放課後デートを満喫していた。


「私カリカリ派」


「ふぅん。俺はフニャフニャ派かな」


「なんで? 私はフニャフニャの意味がわかんない」


「……俺はそんなことで喧嘩になりたくない」


小野は華麗に話をスルー方面にズラすと改めて話を振った。


「ところでクリスマスさ。どうするんだ?」


「私は森デートがいいな。公園あったでしょ?」


「ふぅん。悪くないけど、クリスマスだし人通りの多い所の方がイルミネーションとかで綺麗だと思うぞ?」


「……確かに」


青空はカリカリのポテトを選択すると両手で抜き取り麩菓子のように貪った。


すると、突然後ろから声をかけられる。


「おやや。こんなところでお盛んですなぁ」


「お前に言われたくないけどな……坂道。彼氏さんもどうもっす」


「おう。隣もらうぞ」


断りを入れると坂道と横峯は青空と小野の席に同席した。


「……広樹くんの知り合い?」


「まあな。2年の時に同じクラスでさ。横峯は前はすっごい悪だったんだけどだいぶ丸くなったみたいだし」


「悪かったな」


横峯は口では軽く悪態を吐くが顔は笑いながら話した。


「そういや。二人も付き合ってるんだろ? クリスマス何かするのか?」


「まあな。クリスマスマーケットに行く」


「……ドイツ?」


「違うって」


坂道は口下手な横峯に代わり予定を説明した。


…………

……


「なるほど。商店街であるのね」


「華さん。俺たちもさ……」


「うん、賛成! なんだか面白そうだし私たちもそれにしよっか」


青空はポテトを片手に持ちながらニカっと笑みを見せた。


「……ねー青空さんだっけ?」


「うん?」


「深夜のホワイトクリスマス……ダメだよ?」


「ギクッ……そ、そんなことするわけないじゃない……ハハハ……ハァ」


*****


当日、クリスマスマーケット


待ち合わせで有名なペガサス像の前にて


「……か、会長」


「なぁに?」


横峯が朝一のデートの待ち合わせしていると、そこにはサンタコスをした会長こと二条院がベルを片手にくじ引きをしていた。


「地域貢献も会長の仕事よ。 それにサンタコス、欲しかったのよね。バイト終わればバイト代と別に服ももらえるらしいし一石二鳥ってわけよ」


「……はぁ」


「そうだ。レシートある? あったら一度回せるけど」


横峯は財布の中を確認する。


デートのためと潤っている財布の隅に一枚だけ商店街のレシートが入っていた。


「ありました。……まあいいや。そうですね。やらせてもらいます」


横峯はレシートを二条院に渡すと通称ガラガラの取っ手を掴むとゆっくりと回した。


ガラガラガラガラ……コロン


「白ですね」


「ざんねーん。ハズレです!!」


「でしょうね」


リンリンリンリンリン!!


「ハズレなのにベル鳴らさないでください!!」


「はいハズレ賞のコンドーム」


「いらねえよ!!」


…………


「…….少し早かったかな」


「……あっ」


「あれ、鏡くん!?」


「え? 榎田さん、まだ時間じゃないですけど……」


鏡はそういいながら腕時計を確認する。

約束の時間は10時だが、今はまだ8時50分だ。


「……えへへ、楽しみだったから早く来ちゃった」


「じ、実は俺も……」


「……」


「……」


二人は互いに顔を赤くすると俯いた。


「は、早いけど回ろうか?」


「そ、そうだね!」


…………


「……初々しいわね。青いわね」


「……そうっすね。……って会長も告白されてたんでしょう。なぜ付き合わなかったんですか」


「秘密よ」


そんな話をしていると


「横峯くーん!」


「横峯ー!」


「坂道! ……となんで葛川」


葛川は冬になりすっかり伸ばされた髪の毛をハットで押さえながら走ってくると、ポーズをつけながら答えた。


「いや、俺、主人公の親友ポジだろ? サポーターとしては一番主要人物なわけよ」


「丁度いいわ葛川くん。バイト手伝って。お金は出ないけど」


「じゃあな葛川」


「葛川くん、送ってくれてありがとうね」


「えっ? 会長! あれ! ちょっと! あ、背中がやわっこい……あべしっ!!?」


…………


「……当日に限ってなんで入れ替わるんだろうな」


「いいじゃんいいじゃん?」


五木姉弟の二人はその頃、チラシを開いてケーキを模索していた。


「相馬。やっぱ、ケーキ屋で買おうよ」


「やだよ。並ぶの嫌だし、スーパーでいいだろ。確か商店街の中にもヤーカドーあったし、そこで充分じゃん」


「……意識低いなぁ。そもそもケーキっていうのはクリスマス商戦でもっとも闘争が激しく行われるものでそこにチキンやらオードブルやらで潤うスーパーがケーキで混じるなんて言語道断なわけであって……」


「あーもう! めんどくさいなぁ。分かったよ……」


麗亜は相馬の降参を受けると、ニヒヒとほくそ笑んだ。


*****


その頃、丁度乙姫たちはペガサス像に集まっていた。


「まあこんな早く集まっても開始するのは昼からだから、充分時間はあるんだよなぁ」


「そうだな……じゃあなんかブラブラするか。ここ、商店街にしてはゲーセンとかカラオケとか遊ぶところ多いしな」


乙姫と亀谷の会話を耳にしながら、川添はくじ引きを見つけた。


「由那ちゃん。くじ引きしたい」


「……レシートは……確かなかったかなぁ?」


「うー。センパイ!」


「分かった分かった。私のでよければあげるよ」


川添は裏島からレシートをもらうとくじ屋へ走っていった。


「いらっしゃーい」

「一枚ですねー。どうぞ」


「あ、誰かと思えば会長じゃないすか」


「あー、乙姫さん。ってことはクリスマスライブの準備かしら?」


「まあかなり後ですけどね」


乙姫が二条院と会話をしている間も川添はくじを本気で引いていた。


というのも……


(うう……透視しながら中の玉を選んで回しながら念力で出すのは流石に……)


まさにイカサマに近いことだが、流石に無理があった。


ガラガラガラガラ……コロン


「はいハズレです!!」


リンリンリンリンリン!!


「や、やめてくださいっ!!」


「はい、ハズレ賞のコンドームです」


「いりません!」


口ではそういいながらも、川添はゴムを受け取ると財布の中にしまった。


「……会長。やっぱ流石にコンドームってないと思うんですけど」


「いや。この時期は不純異性交遊が多くなるからね。避妊道具はいくつあっても足りない……」


「……それ、逆に交遊を支援してません?」


葛川は二条院に小さなツッコミを入れるが、聞こえてないのかフフフと笑っているだけだった。


「みんな頑張ってね。会長としてじゃなくて個人としてこの前のライブも楽しかったし。期待してるわ」


二条院の言葉に手品同好会一行はそれぞれの返事をした。


*****


「お主ら遅いぞ!!」


「す、すいません……まさかペガサス像じゃなかったとは」


「私は服選びに慎重になって……」


一方、商店街の前では腕を組む女子生徒の前で二人の生徒が正座をさせられるという異様な雰囲気が漂っていた。


「……まあよい。というか正座なんて求めとらん。恥ずかしいからやめよ」


立波は二人を立たせると制服をポンポンと払った。


「……そういえば今日何買うんですか?」


「そうじゃの。ケーキは早く買うとクリームが溶けるからあとにするとして……。鍋でもするか!」


「おおー! 何鍋ですか!?」


「水炊きじゃ」


満面の笑みで答える立波に二人はテンションが戻った。


「どうした? 鍋じゃろ?」


「……いや水炊きって、鍋の中では安い方ですし」


「はい。なんかもっとしゃぶしゃぶとか寄せ鍋的な物の方が良かったです」


「贅沢言うな。 公園の管理人程度自治会からの支援金だけでそんなに儲からん。それに昔から神は銭ゲバとよく言うじゃろう」


二人は揃って同じことを思った。


聞いたことねえよ。と。


「……まあ本当に水だけで炊くわけではないんじゃから良いじゃろ。チキンも買うぞ! クリスマス!クリスマス!」


子どもっぽくはしゃぐ立波を見ると、二人はどうでもよくなりくすりと笑みをこぼした。


*****


鏡と榎田はその頃、目的の雑貨屋に向かいながら彩られた飾りを眺めていた。


「えっと、それにしても今日の鏡くんお洒落だね」


「いや。でも榎田さんの方が可愛い……あ! 可愛いっていうのはいつもだけど特に今日は……ってこと」


「……っもう! 恥ずかしいこと言わないでよ!!」


そんなバカップルみたいな会話をするとお互いに恥ずかしくなり、また俯きあった。


「えっと、それにしてもさ。よかった……のかな?」


「……うん?」


「いや、榎田さん。他の人達にも誘われてたじゃん。なのに僕なんかと……」


「あーもう。だから言ったでしょ?自分を卑下しない! それに私は鏡くんの彼女なのに、クリスマスを恋人と過ごせないのは私も苦痛だよ……」


榎田さんは寂しい顔をすると胸のあたりで拳を握った。


「……あ、うん。ごめん」


「ダメだよ。デートなのに謝ったらさ。楽しめないでしょ?」


「うん、ごめん……あっ」


「もう!」


榎田がクスクスと笑うと、鏡も連れるように苦笑した。


*****


数分後、立波一行はジンゴーベーとBGMの流れるスーパーに着くとカートにカゴを乗せ、周り始めた。


「あ、立波さん。カニ! カニですよ!」


「フグもあります。てっちりしましょう」


「二人とも無茶を言うでない……魚介は鍋と別で煮付けでも作るかの」


子ども二人を相手にするお婆ちゃんのような会話をしていると突如毒島の背中が誰かによって押された。


「わわわっ!?」


「……お、おい毒島よ! つば飛ばすなよ!」


「ま、マスクあるので大丈夫です……。ふぅ」


「あららゴメンね。驚かすだけのつもりだったのに」


毒島が声の方を見ると、そこにいたのは何度も見た巨大な膨らみだった。


「あ、牛沢センパイ。こんにちは」


「……うーん。胸じゃなくて顔を見ていってほしいな」


「……毒島よ。その牛は何者じゃ」


立波はそれでも大きい胸をくいくいと気にしながら問う。


「同じ委員の牛沢センパイです」


「どうも、牛沢です。毒島ちゃんのバイトの先輩ですか? いつもお世話になってますー」


「……悪い奴ではなさそうじゃのう。まあよい、ところでクリスマスに一人か?」


立波の言葉は皮肉ではなく、容姿を見て思った本音である。

立波の目から見ても牛沢は胸も顔も申し分ないのだ。


「いーえ。友達と来てますよ。……でも恥ずかしがりで……」


牛沢は商品棚に向かうと、陰に隠れる青空と小野を引っ張り出した……サンタ&トナカイコスの。


「おおー」


「可愛いです」


「……今度二人にさせるか」


立波一行はそれぞれ各自の感想を告げる。


「も、もうなんでこんな格好させられなきゃならないだよ!」


とトナカイが吠え


「格好だけならまだしも、外出なんて聞いてないわよ!」


とサンタが鳴く。


「あー……この二人はなんでコスプレしてるのだ?」


「実はね。この二人恋人同士なんだけど、クリスマスに何かしながらデートしたいってことになってさ。それで子ども会のバイトを拾ったの。それで買い出しに来たんだけど……」


「……まさかこの格好のまま出るとは思わなかったわけですか」


確かに、スーパーにコスプレカップルなど、それは異様な光景だ。


「ほ、ほら! 牛沢! 邪魔しちゃ悪いし行くわよ!」


「あー、青空さん待ってー!」


青空は顔を真っ赤にしながら、丈の短いミニスカートを抑えながら逃げ、それを追うように牛沢、小野も去っていった。


「……大変じゃな」


「そういえば立波さん、さっき二人にもさせるって……」


「……来年楽しみじゃのう」


立波の黒い笑みに二人は暖かい室内なのに寒気立った。


*****


「……悪いな。俺、同好会じゃないのについてきてもらって」


「うん? いいよ。気にしないで、それに今は同好会関係ないからな」


雑貨屋に来た乙姫は鶴沢に気を遣わせないようにして告げた。


「……しかし、可愛いな。クマイラ」


「……そうか? 俺はどちらかというと……腹立つな。この顔」


「いやいや、この腹立つ顔が今は流行りなんだよ」


そう言うと乙姫はぬいぐるみを抱えるとレジへ向かっていった。


「……なんだかなぁ」


「……鶴沢さん」


「うおっ!? 裏島か……」


裏島と鶴沢は互い同じ者を好く同士ということもあり、歪な表情をした。


「やっぱさ。乙姫にプレゼントって……」


「うん、買ったよ」


「……だよな」


……。


「……あのさ」


「……うん?」


「……手品頑張れよ」


「……うん」


そんなたどたどしい会話の途中で当の原因が紙袋に詰められたクマイラを抱きながら戻ってきた。


「なに? 二人が話してるって珍しいな」


「……プフッ」


「……クスクス」


「……? 何だよ。僕が来て笑わられるとか馬鹿にされてるみたいじゃねえか」


裏島と鶴沢は本人が何の責任もない顔で来たのを見てつい笑ってしまい、またなんかどうでもよくなってしまった。


二人は無言で気持ちを伝えあった。


『頑張れ。でも、恋愛は別だから』


*****


その頃、五木姉弟は準備を終えると外食がてらケーキを買いに商店街に入った。


「おー、賑わってるな」


「そうだねー。それになんか浮かれてる」


「まあクリスマスだからな」


そんな何気ない会話をしながら模索していると、見た顔に声をかけられた。


「あー! イッちゃんだー!」


「うわっ! さ、坂道さん……」


麗亜の友達である坂道と偶然出会い、戸惑う麗亜(そうま)


「なになに? 姉弟で買い物?」


「ま、まあね」


「この雰囲気……ケーキだね!」


「す、すごいな。うん、そう」


坂道は正解と聞くと勝ち誇ったように無い胸を張った。


「どうしんだ? 坂道さん」


「あ、宗くん。友達見つけたの」


「あ、そうなんだ。……うす」


(うう……やっぱこの人苦手だなぁ)


弟が弱気になっていると、姉がくいくいと合図をしてきた。


「……どうしたんだ姉ちゃん」

「……ちゃんと媚び売っときなさい!」

「……は、はぁ……?」

「……いいから。ある方がいいのよ」


なんかどこかのオカンのようなことを言われた弟は満面の作り笑いで横峯の方を向いた。


「さ、坂道さんを宜しくね! よ、横峯さん!」


「……? お、おう」


「……これでいいか」

「……ばっちし」


いちいちしゃがんで確認する二人に余計に横峯は不審に思った。


*****


「うう……この格好恥ずかしい……」


「我慢しなさい! 私なんてどこかのコスプレ風俗みたいな露出度なのよ?」


牛沢と一旦別れた青空、小野はボヤきながら買い物袋を持って歩いていると途中でくじ屋を見つけた。


「……レシートあれば回せるんだ。華さん折角だししようよ」


「……まあ悪くないわね」


青空を肩に乗せると小野は財布からレシートを抜き出し店に渡した。


「はい。じゃあどうぞー」


「……頑張りなさいよ」


「……お、おう」


ガラガラガラガラ……コロン


「……青?」


リンリンリンリンリン!!


「おめでとうございます! 4等のクマイラストラップXmasバージョンです!」


「……わあかわいー」


「……おめでとー」


小野は赤と白のグラデーションの異様なキャラクターのストラップをもらうと雑にポケットにしまった。


*****


「さてそろそろ時間だぞ」


乙姫たち、手品同好会はその頃早速衣装に着替えていた。今回は全員サンタコスである。


「……なんでスカートなんだ?」


「気にすることないと思います」


川添は乙姫にフォローをするが何も助かってないと思われる。


「……えっと私は出られないけど頑張れよ。皆」


「……鶴沢さん。あのね、まだ日もあるし鶴沢さんも入らない?」


「……いや。俺は空手があるから、迷惑かけられねぇ。それよりもお前ら、気張ってこいよ」


鶴沢はガッツポーズをすると、全員気合が入ったように見えた。


「友葉学園手品同好会さん出番ですー」


若い男の声がかかり、6人は顔を見合わせた。


「よし! 行くぞ!!」


*****


「ぬおっ!? なんじゃ高町。立ち止まって」


「いや、あれって手品同好会じゃないですか?」


「……本当ですね! 見ていきましょうよ! ここの凄いんですよ!」


*****


「……なんだか騒がしいね」


「あ、いや、あれ。手品だ」


「本当だ! 裕くん! 見よう見よう!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて榎田さん!」


*****


「あ、姉ちゃん。あれ、手品同好会じゃね?」


「本当だ。ここでもしてるんだ」


「俺、見たい!」


「……じゃあちょっとだけだよぉ?(といいながら私もちょっと見たいんだよね。ここの凄かったし)」


*****


「坂道さん、始まったみたいだよ」


「そうだね。行こう」


*****


「何してんの牛沢さん」


「!?……あー、小野くん。着いてきてるのバレちゃったか」


「……。ねえ二人ともあれ、もしかして手品じゃない?」


「……あ、うん! 見に行こう見に行こう!」


「ちょっと牛沢さん! 話誤魔化さないで!」


「は、華さん! お使いは!?」


*****


「……3.2.1。はい、手を開いてごらん」


「っ!? すげー! お姉さん魔法使い!?」


「お兄ちゃんね」


全員の集まったクリスマスライブにて子どもたちへの軽い手品を終わらせ、ついにメインに入る。


川添のマジの手品である。


「えっと、皆さんこんにちはー。美空って言います。 あ、歌は歌いませんよ?」


年相応に合わせた話題を考え、少し受けたことにホッとする。


「じゃあ早速始めましょうか。では……このペットボトルの水を一瞬にして消します!」


『えー!?」


「では行きますよ……んぐぐぐぐ」


川添はそう言うとペットボトルの中身をいっき飲み始めた。


かなり受けている。


「……おええ。気持ち悪ぅ……。あ、で、ではこの中に再び水を戻します。3.2.1……はい!」


川添は投げるとペットボトル満タンになって戻ってきた。


『すげー!!』『どうやったんだー?』


「では大きなイリュージョンにいきましょう。あそこにある、あの巨大なモニュメントを一瞬で消します。あ、戻すので心配はいりませんよ?」


乙姫と亀谷が布でモニュメントを隠してから、川添は再び数を数えるとモニュメントは姿を消した。


そして再び現してみせた。


『えーーー!!?』


「では最後に……素敵なクリスマスを……えいっ!!」


川添はこの日まで新たな手品を考えていた。 そして、思いついた手品。


それは、雪で模様を描くというものだった。


川添が作った雪が念力によって浮かばされ、綺麗な模様を作る。


それは万華鏡のようにも、オーロラのようにも見える幻想的なものだった。


川添が一礼すると商店街は大きな歓声に包まれた。


*****


「会長、終わりましたねー」


「そうね。あら? こんなところにレシートが。葛川くん回してみない?」


「ワザとらしいっすね。まあいいや。回させてもらいま……す!」


コロン


「……あ、金だね。おめでとう一等の熱海旅行券だよ」


「……は?」


*****


その日の夜。


川添家


「打ち上げはどうするんですかー?」


『あー、忘れてたよ。ごめんごめん。部室でもいい?』


「構いませんよ。楽しみにしてますから」


川添は電話を切ると、みんなで撮った写真を指先でなぞった。


*****


「姉ちゃんの大きい!」


「どれも一緒よ! 一直線で切ったんだから」


「ならせめて半径で切れよ! こんな関西のお好み焼きみたいな切り方するケーキ初めてだよ!」


*****


乙姫家


「大きい方が鶴沢で、小さい方が裏島さんだよな……」


スルスル(小さい方)


「おお。ハンカチだ。可愛いな。ありがたく使わせてもらおう」


スルスル(大きい方)


「おお。テディベアだ。大きいなぁ。抱き枕にしよう」


*****


「ねえ、広樹くん。……夜、しない?」


「……寝る」


「え!? 広樹くん!広樹くん!」


「……(流石にもうやだ)」


*****


「結局水炊きですか。……まあ美味しいですけどね」


「締めはうどんだが、問題ないの?」


「異議無〜し」


「僕もです」


「それにしても煮付け美味しいですね。味付け不安だったんですけど」


「ふん。これでも長生きしとるからな。料理のベテランも大ベテランじゃ」


「なら、その容姿でビール開けないでくださいよ。見た目は学生なんですから」


「これはノンアルコールじゃから、炭酸の麦茶!」


「……もう仕方ないなぁ」


「おっと……言い忘れておった」


「……なんですか?」


「ふふふ……」





『メリークリスマス』


せめて0時にあげたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやはや色んな人たちが様々なクリスマスを楽しんでいておもしろい。少々読みづらいところはありましたが(登場人物の多さからね)、賑やかそうで何よりです。にしても………避妊具………(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ