いつか、きっと。
未散はいつも元気な女の子だ。
俺の友人たちは皆、「あんな可愛い子と幼馴染で羨ましい」と口を揃えて言う。
確かに顔は可愛いし、腰まで届く黒髪も綺麗だ。
手足もしなやかに伸びて、指先まで綺麗だし。
腰も抱き締めたら折れるんじゃないかってくらい細い。
胸も制服など邪魔だ、と言わんばかりに激しい自己主張をしている。
黙ってじっとしていれば、絶世の美少女と言っても過言ではない。
ないんだが、やんちゃ坊主のような言動と表情と雰囲気と思考構造が、全てを台無しにしている。
……もったいない。
いつもそう思っているからか、気付かぬうちに溜息を吐いてしまっている。
ちなみに未散の性格は、陽気で前向き、そして天然のトラブルメーカーだ。
今も突拍子もないことを言い出した。
「ねえねえ! 怪談を知らない?」
「上や下の階へ移動するための設備だ」
「そうじゃなくて!
今度の文芸部の会報で、『学校の七不思議』を特集することになったの!
私、知らないから教えて!」
「最初からそう言えよ……」
■□■
睦ちゃんは儚さを感じる男の子だ。
頭は良いし、顔もまあまあ良いし、背も高いし。
あと、物静かだからか、いつも年上に見られてる。
だからなのか、一緒にいても、あたしはいつも『妹分』だ。
二人でデート(学校への登下校でも、買い物の荷物持ちでも、二人でいればデートなのよ!)していても、いいとこ兄妹にしか見られない。
……ちょっと、悔しい。
睦ちゃんは格好良いから女の子が良く話し掛けてくるようだけど、そんな場面に出くわすと何でか胸がモヤモヤする。
……理由は自分でも分かってるんだけどね!
いつも気怠げな様子で、そのくせ毒舌家で、……時々寂しそうな顔で溜息吐いたりする。
さっきもそうだった。
胸が締め付けられるような気分になり、思わずギュッと抱きしめたくなった。
だけど変な子に思われたくないから我慢、我慢。
だからさっき思いついたアイディアで元気付けてあげよう!
(……また変なこと考えてるな、残念な奴)
「? 何か言った?」
「いいや、何も。それで、七不思議だったか?」
「うん!」
何か誤魔化された気がするけど、それが何か思い当たる前に、睦ちゃんが知ってる事を話し始めた。
でも結局、睦ちゃんが知っているのは六つだけだって。
ちょっと残念。
でもチャンス!
よしっ、調査の名目でデートだ!
け、決してデートの口実に用意していたわけじゃないんだからね!
ただこれを切欠に、もっと仲を進展させられたらって。
今はまだ、……もうしばらくは只の幼馴染でしかないかもしれないけど!
いつか、きっと!
「じゃ、じゃあさ、一緒に調べてみようよ!」
「七つ目を知った奴は死ぬ、との噂もあるけど?」
「ううっ!」
そんなこと言わないでよぉ!
本当は怖いから嫌なのにぃ!
なのに『あたしが怖がるから』会報のテーマにしちゃうんだもん、ひどいよみんな!
■□■
「お、お願いだから一緒にしらべてよぉ……」
「……わかったから泣くな」
目を潤ませて縋り付く未散の様子に、溜息を吐いて諦めた。
怖がりの癖に猪突猛進のこいつを放っておいたら、非常に不味い気がするんだ。
それはもうヒシヒシと。
「睦ちゃん、ありがとう!」
「……どういたしまして」
小さい頃から俺は、泣き付いてくる未散に逆らえた例がない。
それが何故なのかは、多分自分でも分かっている。
しかし今の関係を壊したくなくて、考えないようにしているんだ。
いつか、きっと。
望ましい結果を得られるかもしれない。
でも慌てる事も、急ぐ必要も無い。
やんちゃな妹を見守る兄。
今はそんな関係でいい。
まだ早い、そんな気がしているんだ。
「睦ちゃーん! 遅いよお! はーやーくー!」
「騒ぐな! お前は子供か!」
……主に未散の精神年齢的に。




