終
新宿に戻った二人は、「門屋へ一連の騒動は、風車のうちの一基が故障しており、それにより異常な共鳴が起きて生じたものだった」と伝えた。
「へえぇ、そんなことあるんだねぇ」
門屋の声と表情からは、どこまでその話を信じているのか、さっぱり予想がつかなかった。だが、康平は敢えて藪を突くような真似はしない――蛇は大人しく藪の中にいてもらったほうがいいのだ。
「ま、その風車の動きがおかしいってのは伝えてきたから、多分もう収まるんじゃないかな」
「そっかぁ」
門屋はウンウンと頷いている。
長居をして変に突っ込まれても困るので、康平と未明はさっさと退却体勢に入る。
「じゃ、俺たちは帰るな」
「はいはい。また、何か面白いネタがあったら教えるよぉ」
そそくさと門屋の事務所を後にして、康平はフウ、と息を吐いた。
「結構、あっさりだったな。もっと食いついてくるかと思ってたぜ」
「……」
返事がない。康平が見下ろすと、未明は何やら難しい顔をしていた。
「どうした?」
顔を覗き込まれて、彼女はハッと息を呑んだ。
「あ、うん。なんでもない。ちょっとボウッとしてた。早く帰ろ」
ニコリと笑う彼女は、もういつもどおりの様子である。
――話す気になったら話すだろ。
康平は内心でそう呟く。
もう、彼女の心中を知ろうとしてがむしゃらになる必要はなかった。突き放しているわけでも、関心が薄くなったわけでもない。ただ、彼は『待てる』ようになったのだ。
それは、『信頼』に裏打ちされたつながりだった。
*
夜も更けて。
未明は眠りの中にいた。
『夢』というのは、一種の別次元になる。身体は地球という世界にいながら、精神はそことは少し違う場所に居るのだ。
その『夢』の中で、未明はゆっくり振り返る。
そして、そこにいるモノを真っ直ぐに見つめる。
「こんばんは。やっぱり、あなただったのね……」
彼女は、『ソレ』に囁きかけた。
読んでくださってありがとうございました。
第二部完結です。
ダメな人間、康平に、過去を吹っ切ってもらう回でした。
次は、最終話、未明の話です。彼女の『選択』を見届けていただければ、幸いです。
12月8日頃の投稿を予定しています。