十二
翌朝一番に新宿へ帰った二人は、その足で門屋のもとへ寄った。当然、キンベルや化け物の話などできるわけもないので、結局何も見つからなかった、とだけ報告する。
「そっかぁ、残念。何かあればよかったのに……。まあ、情報なし、ということなら、今度何か僕のお願いを聞いてやってよ」
「……わかった」
何か変なことを『お願い』されそうだったが、今回、いかにも門屋が好みそうな話を黙っているという罪悪感もあって、彼の言葉に康平は素直に頷いてしまった。
ふと顔を上げた門屋が、まじまじと康平を見つめる。
「……康平君、何かイイことあった?」
「はあ? 何で」
「いや――何となく……雰囲気が違うから」
「別に、何もねぇよ。こんなガキと一緒の工程で、どんな『イイこと』があるってんだよ」
「まあ、そりゃそうか。康平君の好みは、ボンキュッポンだもんねぇ。間違っても、ツルンペタンではないよね」
恐らく話題の対象にされているのであろう少女は、康平の後ろで眉間に皺を寄せる。
「当たり前だろ。じゃ、また何かあったら教えてくれよ」
そう締めくくって、門屋のもとを出て、帰路に着く。
「……私だって、本来の姿なら、もっとちゃんとしてるんだからね」
歩き始めてしばらく経った頃、未明がボソリと呟いた。
「ああ?」
「……なんでもない」
見下ろすと、微かに口が曲がっている。
どうやら先ほどの話題で拗ねてしまったらしい、と康平は苦笑する。確かに、おぼろげな記憶の中では、初めて会った時の未明は容姿だけでなくスタイルもかなりそそられるものがあったかも……と思いかけ、康平は内心で慌てて首を振る。
今、目の前にあるのはこの姿だ。そこに妙齢の女を重ねると、なんだかヘンな気分になってしまう。未明はこの見た目でいてくれた方が、康平にとっては色々と都合が良い。
敢えて何も突っ込まず、康平は無言で通す。
――結局二人は、家に着くまで一言も交わさなかった。