第29話:伝説の演奏。氷の才女が手にした「真実の愛」
いつもご愛読ありがとうございます。
伝説となった演奏。そして凛華が下した、あまりにも真っ直ぐで背徳的な決断。
彼女が手にした本当の強さと、その居場所の物語をご覧ください。
演奏が終わり、静寂が訪れた後の数秒間。
講堂を支配したのは、あまりの衝撃に言葉を失った人々の沈黙だった。
直後、地鳴りのような拍手と歓声が、古びた建物を揺らしながら凛華へと降り注ぐ。
だが、凛華は立ち上がることもせず、ただ鍵盤に触れた指先に残る「熱」を噛みしめていた。
舞台袖で拳を握りしめる阿久津。その瞳には、自分のことのように喜ぶ光が宿っている。
「……九条さん。これが、あなたの言った『不潔な音』の結果よ」
凛華は、舞台袖で腰を抜かしているエリカを一瞥し、静かに立ち上がった。
彼女はマイクの前に進み出ると、騒然とする観衆に向かって、澄み渡るような声で告げた。
「私のこの力は、私一人のものではありません。……私の隣に立ち、私の魂を震わせ続けてくれた、世界で唯一の『彼』がいたからこその音です」
会場にいた誰もが、舞台袖に立つ平凡な少年、阿久津へと視線を向けた。
一ノ瀬たちが築き上げた『管理』という名の檻を、凛華は自分の言葉で、自分の愛で、跡形もなく粉砕してみせたのだ。
「私はもう、彼のいない世界では生きていけない。そして、彼の情動なしでは、一音すら奏でるつもりはありません。……これが、私が選んだ私の真実です」
凛華は凛とした足取りで舞台を降り、阿久津のもとへと歩み寄った。
周囲の視線も、スキャンダルも、もはや彼女の敵ではない。
阿久津の首に手を回し、その胸に顔を埋める。
かつては「才能のため」と自分に言い訳していたその依存は、今や誰にも邪魔できない『真実の愛』へと昇華されていた。
阿久津の腕の中で、凛華は最高の充足感に包まれながら、静かに勝利の涙を流した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
公衆の面前での「阿久津君への愛」の宣言。
一人の少女が、自らの弱さと依存を認め、それを誇りへと変えた瞬間を描きました。
次はいよいよ、二人の「これから」を象徴する、締めくくりの一話となります。




