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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友人以上恋人未満の曖昧な彼らの日常

彼がまとう甘ったるい香りを俺は絶対に好きになれない理由




寮にて、勉強を一息つき、休憩所にむかったところ、廊下の突き当たりにある窓が揺れて音が。

はじめは不気味に思ったものの、音が止まないあたり、外から小石が当てられているのだと気づき、おそるおそる解錠して窓から顔を突きだすと、眼下に男が。

見覚えのない顔だが「わるい」とばかり眉尻をさげて手をあわせるのを見るに、門限を破って帰ってきた生徒だろう。

窓から退けば、すぐに窓をくぐって室内に跳びおり「いやーありがとありがと!」と奥歯まで覗かせて笑った。


おおきめのTシャツに腰パン、ごついネックレスをかけて、耳にはピアスがびっしりという、チャラい風貌からしてきっと普通科のやつ、つまりお坊っちゃま。

俺が通う高校は進学校で、勉強に集中するため寮生活をするのと、良家の坊っちゃんが、なにかと事情があって家から厄介払いされて暮らすのと、おおまかに分けて二種類の生徒がいる。

校舎も寮も、ほぼ独立した建物にそれぞれが収容されているから、ふだん交流することはめったにないのが、どうも特進科に門限破りの坊っちゃん不良を手助けしていたのがいるよう。

一応、ふたつの寮は渡り廊下でつながっているから、寮長や寮生に見つからないよう普通科の自分の部屋にもどっているのだろう。



「きっと、これが初めてじゃないな・・」とまだ感謝している相手をしげしげと眺めるも、はっとして顔を歪めて、視線をそらしてしまう。

「わるいわるい、真面目そうなあんたに、こんなルール違反の手伝いをさせて」と今度はしつこく謝ってきたのに「いや、ちがっ・・・香水がきつくて・・・」と口元を手でおおい、なんとか答えた。

吐き気がこみあげるほどの甘ったるい香りの正体は、おそらく彼の恋人の香水。

彼が自分の腕を嗅いで「え?まじで?たしかに彼女からは甘い匂いしたけど」と告げたに当たりのよう。

「どんな彼女なんだ・・・」と思わず眉をしかめるも「いや、これじゃあ人の彼女を臭いって、いっているよなもんだな!」とはたと気づき「あ、でも、俺は匂いに敏感すぎるから!」ととっさに言い訳。

「ふつうの人は気にならないと思う」とつづけようとしたら、強く肩をつかまれ、怒られるかと思いきや「なあ、お前、香水とかに詳しいのか?」と真剣な眼差しを。


「彼女の香水がきつくて、まわりにいやがれるのいやだし、だったら適度ないい香りのをプレゼントしてやりたいなって!

誕生日が近いし、プレゼントにしたら最適だろ!?」


俺が匂いに敏感なのは遺伝であり、同類の母がこだわる人だったので、その影響を受け、たしかに香水には知識あり。

悪気がなかったとはいえ、彼女の香水にけちをつけたことが後ろめたかったし「男なのに香水に詳しいなんてキモい、とか思わないんだな」とすこし感心して協力することに。

ついでに土曜日、門限を破って彼女と会瀬をする彼のため、鍵を開けてやる係りにもなった。

なんでも、もともと頼んでいたやつが急に都合がわるくなったのだとか。

「勉強の邪魔になるなら断ってくれてもいいぞ」と彼は無理強いをしなかったものの、勉強漬けの代わり映えない毎日の、ほどよい刺激になりそうだったに快く了承。


その見返りとして、毎週月曜日に幻のコロッケパンを奢ってもらった。

我が高校ではパン屋が出張して、朝に焼いたばかりのパンを売ってくれ、その争奪戦は熾烈。

なかでも安くてボリュームがあって美味なコロッケパンは入手困難すぎる。

特進科のほとんどは争奪戦に参加しないし、争いごとが好きでない俺も、飢えた男子校生の群れに跳びこんだことはないが、コロッケパンにはたいへん興味があった。

なにせ俺はコロッケが大好きだから。

「俺には裏ルートがあるから」ともらったコロッケパンは思った以上に旨かったし、コロッケパンを頬張る彼の話は愉快であり、夜に窓を開けること、香水を探すことの報酬にしては申し分なし。


彼は学校の情報通らしく、教師や生徒の意外な一面についてよく教えてくれた。

「俺の担任は風紀に厳しいくせに、自分は教え子と結婚したんだぜ」「この学校一の不良、富樫はじつは日曜日にボランティアをしているんだって」「幽霊があだ名の存在感がうすくて地味な桜田は、コミケにだしている漫画がばか売れしているとか」「成績が学年一位の吉原はひそかにVtuberをしていて、ファンを食いまくっているらしい」などなど。

勉強一筋でクラスメイトの名前を全員覚えていないほど、まわりの生徒に無関心なので「どこまで本当なのやら」と判断がつかなかったものの、下世話な噂を聞かされても、不思議と不快ではない。


語る彼が好奇心旺盛な子供のように瞳を輝かせ、噂を広めて相手を貶めてやろうなどと、悪意があるように、まるで見えなかったからだろう。

非行少年だろうと、ガリ勉だろうと、チャラ男だろうと、オタクだろうと、偏見を持たず、相手の表むきのイメージとちがった一面、それが醜いものだろうと発見すると「人ってほんと、おもしろいよなー」と無邪気にうなずくのだ。

この学校では、普通科と特進科はお互いをどこか見下し「きっと理解しあえない」と思いこんで近づこうとしないのが、彼に限っては当てはまらない。

といっても校内で特進科の俺と普通科の彼が話していたら面倒になりそうなので人目を忍んで会っていたが、それはそれでちょっとしたロミジュリ気分を味わえて満更でもなかった。


彼との密会をつづけながら、勉強の合間を縫って町にでかけ香水選びを。

吐き気を催すほど、香りが甘ったるかったのを思い起こし、それよりずっと控えめで爽やかな柑橘系に狙いを定め、いくつか店を回り、これぞいうものを見つけだした。

一応、サンプルを持ち帰り、彼にも嗅いでもらったが「うん、お前が一押しのがいいな」と応じたので、買ってきたものを譲渡。

「彼女が甘ったるい香水が好きなら、気に食わなく思うかも」と予防線を張ったとはいえ、その夜、窓から跳びおりた彼は、俺が尋ねる前に「ありがとおおお!」とがっしりと抱擁を。

厳選した香水を、彼女は非常にお気に召してくれたらしく「なくなったら新しいの自分で買うけど、この瓶は一生の宝物にするね!」と感謝感激雨あられだったという。

プレゼント作戦が大成功でほっとするやら、青春ドラマの感動的シーンのように彼に抱きしめられて照れるやら、ここまで胸が熱くなったのは、生まれてはじめてかもしれない。


ただ、以降、俺たちの関係に微妙に変化が。

香水のおかげで二人の仲はさらに深まったらしく、彼が惚気るようになったのだ。

今まで交際するどころか、恋もしたことがない俺には、二人の交際ぶりが興味深くはあったが、前ほど胸が弾むことはない。

たまに「その話、三回目だよ」と苛だつこともあり、窓から帰ってくるとき、柑橘系の香りが鼻につくと、なおのこと。

彼女への愛を語る彼が、癇に障る理由が自分でも分からず、すこし自己嫌悪しながら、休み時間、廊下を歩いていたら、鼻を掠めた覚えのある香り。

ふりかえって、すれちがったばかりの相手を見れば、成績が学年一位の吉原。

隠れてVtuberをして、ファンに手をだしまくってるのだと、彼が噂を披露していた相手だ。


俺は根っからの嘘をつけない性分。

まともに顔をあわせれば、すぐに異変を察知されるだろうから、窓を開けたあとは風邪を引いたからとかなんとか言い訳をして、目を合わせないまま、すぐに自室にもどろう。

そう決心したものの、いざ咳をするふりをして逃げようとしたら「なにかあったのか?」と腕をつかまれ、ひどく心配そうな顔を。


「俺はお前にすごく助けてもらった。

だからお前に困ったことがあるなら、必ず助けてやりたいんだ」


間近で顔を覗きこまれてまっすぐ見つめられては、とても退けられず、腕の束縛が強くて逃れることもできず、しかたなく白状。

彼の表情を見れなく、うつむいたまま話して「で、でも!女性用の香水をつけていたのかもしれないし・・!」と慌てて付け足す。

ブランドや香りの種類からして、男が愛用するのはありえないだろうと思いつつ、すこしでも彼を慰めたかったのだが、見あげたところで予想外のほほ笑みが。

やや寂しげに見えるに「・・もしかして、知っていたのか?」と問うも、答えてくれず。

答えないのが答えだろうと察し、気がついたら「いいな・・」と呟いていた。


笑みを消して、驚いた顔をしたのにはっとして、一気に顔を熱くし「いや!俺、そこまで人を好きになったことがないから!初恋も・・!」とやけになったように笑うも、最後まで告げる間もなく抱きしめられる。

「ありがとう」と額のあたりに囁かれて身震いし「なにが」と聞こうとして、体を引き剥がされ、告げられたもので。


「来週から窓の鍵を開けてくれなくていいから」


やっぱり俺の報告がショックであり「知りたくなかったのに!」と怒ったのではないか。

はじめは気に病んだのだが「や、べつに彼女と別れるつもりはないけどさ、たしか特進科は全国模試が近いんだろ?これまでも勉強の邪魔をしていて心苦しかったし、ちょうどいいから彼女のつきあい方を変えてみるよ」と彼がにこやかに説明したとおり、土曜日、例の窓を覗きにいっても小石が当てられることはなく、俺以外に、鍵を開けるやつはいなかった。

いっしょにコロッケパンを食べていた校舎裏にも顔をださず「きらわれたのか?」と悲しくなるより「彼女となにかあったのか?」と心配になってきたころ耳にした、彼の退学処分。

成績が学年一位の吉原を暴行して学校を追いだされたらしい。

やっぱり浮気が許せずに襲いかかったのかと考えそうなところなれど「いや、吉原のほうが手をあげて、そうと分かりつつ、学年一位を切り捨てられないから彼に全責任を負わせたのだろう」と思う。

つい「羨ましい・・」と本音を漏らしてしまったほど、あのときの彼は、彼女への慈愛をほほ笑みに滲ませていたから。

学校の見え見えな利己的な対応を腹ただしく思いながら、彼女にあげた香水のサンプル、まだ香りがのこる、ムエットを握りつぶした。




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