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居合  作者: 贈り物
序章
7/8

第七話: 影は嘲笑う

ーーその影に

  映るものはーー

 夕暮れが、街を赤く染めていた。

 悠真は木刀を背に、セリナと共に裏通りを歩いていた。

 「心臓を抜かれた死体……三件目だってな」

 「はい。どれも夜、人目のない場所です」

 セリナの声は硬い。

 彼女の横顔は、剣士というより“兵”のものだった。


 通りには、薄汚れた石畳と、怯えた人々の影が伸びている。

 声を潜め、聞き込みを重ねるうちに、噂の断片が浮かび上がった。


 ――夜、影が動くのを見た。

 ――声を出したら、首が飛んだらしい。


 悠真は内心で苦笑する。

 異世界に来てから、命の軽さには慣れたつもりだった。

 だが、この噂は……何かが違う。

 「セリナ、その犯人……魔物じゃないのか?」

 「……魔物なら、痕跡はもっと露骨です。けれどこれは……」

 彼女は一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せた。

 「人間でありながら、人間じゃない何か、です」

 悠真は木刀に手をやった。

 魔力。

 また、その言葉が頭を過ぎる。


 夜。

 風が止み、街は不自然な静けさに包まれていた。

 「……聞き込みはここまでにしよう」セリナが小声で言う。

 「そうだな」

 だが、その瞬間だった。


 背筋を、細い針でなぞられたような感覚。

 呼吸が、止まった。

 悠真は咄嗟に、木刀を抜く。

 セリナも反応し、詠唱を開始する。

 だが、遅かった。


 ――ズンッ。


 大地が、音もなく裂けた。

 石畳が、斜めに切り裂かれていた。

 悠真の足元、一歩でも遅れていたら、腰から両断されていた。

 「ッ!」

 木刀を構えたまま、悠真は周囲を見回す。

 気配は、どこにもない。

 「セリナ!」

 「防御結界、展開しました……でも、見えません!」

 声が震えていた。


 ――カツ、カツ。


 屋根の上。

 月光に溶ける影が、一瞬、視界の端をかすめた。

 「……誰だ」

 悠真の声は、低く、硬い。


 そのときだった。

 耳元に、少女の声が届いた。

 「――怖いの?」

 甘い響き。だが、その底には冷たい嘲笑があった。

 悠真は即座に振り返り、全力で木刀を振り抜く。

 だが、そこには――何もない。


 空気だけが裂けた音を立てた。


 「くそっ……!」

 セリナの詠唱が終わり、路地を覆っていた闇が一気に払われる。

 しかし、その時にはもう、気配は消えていた。


 残されたのは、斜めに裂けた石畳だけ。

 悠真は、手の震えを押さえ込もうと必死だった。

 「……速い。いや……違う。見えなかった」

 剣士としての本能が告げている。

 あれは、戦ってはいけない存在だ。

 木刀を握る指に、力が入る。

 「……俺の剣で、斬れるのか……」

 その呟きに、答える者はいない。


 ――屋根の上、月を背にして、少女は笑っていた。

 カナリア。

 「……いい顔、するじゃない」

 その瞳に映るのは、怯え、抗おうとする剣士の姿。

 「もっと見せて。壊れる瞬間まで」

 夜風が、静かに影を揺らした。

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