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プロローグ 「居合は刃を超える」
――斬らずに斬る。その道は異世界で通じるのか。
木刀一つで世界に挑む、武士道異世界譚、開幕。
居合とは、抜刀の一瞬にすべてを懸ける技だ。
剣を抜き、振り下ろす。
ただそれだけで、勝敗が決まる世界がある。
現代の日本。
俺――斎藤悠真は、静かな道場で木刀を握っていた。
空気は張りつめ、畳の上に一筋の陽が落ちる。
対する相手はいない。
だが、見えぬ敵を想定し、心を研ぎ澄ます。
剣は力ではない。心で抜くものだ。
そう教えてくれた師匠はもういない。
だが、その言葉は俺の中で今も生きている。
――居合とは、心を抜くことだ。
息を吸い、吐く。
世界が静止したかのような感覚。
俺は鞘に指をかけ――
「――ッ!?」
眩い光が視界を覆った。
目を開けた瞬間、畳は消えていた。
そこにあったのは、広がる草原と、青すぎる空。
そして――
耳を裂くような咆哮が、世界を震わせた。