異世界、、、?転生
今日で引きこもり生活を続けて3年になる。引きこもる前より時がストップしてしまったみたいだ。明日が見えないまま今日も徐にスマホを持ち上げる。時刻は午前4時。一睡もしていない。なぜだか眠れない。眠れても眠りがとても浅い。そんな日々が続いている。
最近の生活をまとめるとこうである。1.スマホを立ち上げる、2.ロック画面を解除、3.ヨウツベかアマプラを起動する。4.そのまま一日中見続ける。完。
こういった具合である。起き上がるときはどんなときか、それは用を足すときと、ご飯の時。ご飯は親に作らせている自堕落ぶりときたものだ。
母親は早くから働きに出ている。母が働く前に鉢合わせると何もしていない、何かすることが怖い自分にとってそんな母親は自分のことを劣等感の火に燃えさせるような存在であるので極力鉢合わせはしたくない。そんな歪んで卑屈でどうしようもない感情が私の中には渦巻いているのだ。だから私は母親が出て行ったあとの頃合いを見計らい、一階に降りる。
そうして何の気なしにテレビをつけて、録画してあったテレビを見漁る。おもにアニメ類である。以前はアニメオタクに対してかなり劣等感がある私であったが、年がたつにつれてそんなことどうでもよくなってしまった。何か好きなことに情熱を傾けられる。それだけで偉いと思う。情熱では人は競うことはできない。そう、情熱だけは人の競争の輪廻から外れたものだ。昔から気弱で臆病だった私には情熱という視点は競争から逃れられる唯一の視点であると、そう思った。私は競争が苦手だった。
私が何の気なしにテレビを見ながら、朝ごはんを何の気なしに食べていると、父が起きてきた。彼は取り立ててこれといった特技もない、ニヒルを気取ったトンチキである。ヘッポコである。彼は仕事をしていない。ほぼ無職の状態である。収入は何もないのだ。そう、何も。前は私の祖父からの仕事を受け継いでそれなりの収入はあったのだが、今はもうすっかりである。
「おう、剛。起きたのか。早いな。母さんは?」
ちなみに朝の11時代である。断然遅い。この男、早いなどとぬかしているのである。どういう了見であろう。日本人ならば11時を早いとは思わない。それなのにこの男は11時を早いとおもっている。それはなぜであろうか。体内時計がインドの都市に設定されているのだろうか。それとも11時を早い時間帯だと認識して育てられてきた稀有な人種であるのか。その真相は私にはわかりかねた。20年来の謎である。
「うん。もう職場にいったと思う。」
そういって私はまた視線をテレビに戻す。ここから先は無言の時間が続くのである。
気まずい時間が小一時間ほど流れた。
すり寄るようなすり足で短い廊下を歩いてくる音が聞こえた。我が家の祖父である。100歳はとうに超えておりその瞳は開かれているか開かれていないか定かではないほどに薄く、頭こそ禿げ散らかしてはいないものの、背中はひん曲がっており、孫の顔を判別できなかったり、プラごみか紙ごみか判別がつかないほどもう脳にはがたが来ている。
「おはよう。」
「おう。」
肘をまげて手を少しだけ挙げた状態にその2文字を添え、祖父は父からのあいさつに答えた。もう生気はあまり含まれないそのか細い声に心配せずにはいられなくなる。
「はあ、、、」
そうため息をついた。もう時計は昼頃を回ろうとしていた。
こんな状態で大丈夫なのだろうか。漠然とした不安は靄のように、えもいわれない奇妙な様相を成して私に降りかかっていた。そんな不安は限界な男3人が集められたリビングでは解消されるばかりかより一層深まるばかりであった。それどころか、もう不安が一波超えて自分がこの人生の当事者でないような浮遊感、そんな眉唾の愉快な感覚を与えてくれたのだった。
テレビの主導権は父に移り、私は何の気なしにぼーっとそれを眺めていた。
父さんはこんなのを見て人生楽しいんだろうか。そんな疑問が頭にわいてきた。最もそれは、今の私にこそ投げかけられるべき言葉であった。というか、最近の私の頭を支配していた疑問がまさしく、「今、自分の人生って楽しいんだろうか」であった。
こんなことを言うと命を粗末にしていると思って叱られるかもしれない。だがしかし、漠然と、それでいてはっきりと、頭の中の私はこう唱えていた。
「自殺したってかまわないな。」と。
だが実行に起こすことは決してしなかった。包丁を持つことはあっても。包丁を持つと途端に滑稽に思えてくる。それで死ぬ時期を遅らせているにすぎないのだった。
私はどうしようもない人間だ。本当に。どうしてこうなってしまったんだ。後悔の念は堪えない。そんなどうしようもない感情を抱えながら二階に上がろうとした、そのときでだった。
祖父がいつの間にか背後に立っていた。
冷汗がじっとりと肌にまとわりついてくるのを感じた。生唾を飲み込もうと思ったが、さっき食べたパンの残骸のようなものがのどにつっかえてうまく呑み込めなかった。
足音などまるでしなかったのだ。それにいつもならリビングでテレビを理由もなくつけ呆然と見ているだけだっただろうに、いつもと違う祖父の様子に強烈な違和感を感じながら、それでいてヘタレな私は後ろを振り返れずにいた。10秒ほどたったであろうか、私の右肩に祖父のやせ細った手が置かれた。最も、祖父のその手は本当にやせ細っており、ミイラのようであったので、質量は羽毛に等しい。その手が私の右肩に置かれたというのはその異様な気配を私の右肩から感じ取ったからである。
するとその時、人間の声とも思えないような声が後ろから響いてきた。
「あ、あ、あ、あ、あああああ、あ、あ、、、、」
機械音ともとれる、その謎の発声に緊張感が走る。
すると今度は突然静まり返ったような冷静な口調で祖父はこう言った。
「異世界に行けるとしたらどうする?」
心臓の鼓動が早くなる。異世界だと、、、。近年ありふれているその設定が、祖父の口から発せられていることに少々の戸惑いを覚えたが、この状況の異質さに比べればそんなことはなんてことはないと気づいた。一体何かにとりつかれているのだろうか。
それとも気がふれたのか。とにかく、一刻も早くその状況を打破したかった私はとっさにこう答えた。
「い、い、い、い、いき、ます。」
そう答えた瞬間、祖父は閉じていた口を素早く、無感情に開けた。その口の奥に広がっているものはエセ理系と呼ばれた私の見解ではあるが、それはかの有名なアインシュタインが唱えた相対性理論に出てくるブラックホールではないだろうかと思われた。
一瞬、光に包まれたような妙な心地がした。まるで熟睡して夢の中にいるような、遥か昔に味わったあの感覚、、、。
「何か悪い夢でも見てるんだろう。」
そう口ではつぶやくが、実際のところあの光に包まれた感覚から、夢ではないような実感がしてならなかった。不思議な話だが、あの夢のような心地は、決して今まで見てきた夢の中では感じることのできない、確かな感触だった。そう私の脳は結論付けた。
あたりを見回した。その前にある違和感があった。最近着ていなかったような肌にピッタリと張り付くようなあのなんともいえぬ懐かしい感触が遅れてやってきたからだ。
そう、私は制服を着ていた。
祖父が言ったあの異世界とは何だったのか、私の眼前には私の通った学校がそびえたっていた。




