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第六章: 混浴露天風呂と奇跡の妖術

佐藤悠斗は、日光街道沿いの宿屋で朝を迎えていた。


前夜、宿屋の主との騒動を乗り越え、ようやく落ち着いて眠りについた彼だった。


朝の光が窓から差し込み、畳にまだらな影を落としている。


外からは鳥のさえずりが響き、風が木の葉をカサカサと揺らす。


布団の中で目をこすりながら、彼は寝ぼけた声で呟いた。


「うーん……昨日はなんとか泊まれたな。よく寝れたぜ」


Tシャツは汗で湿り、ジーパンは畳に脱ぎ捨てられたまま。


腰に巻いた革袋から金貨がチリンと鳴り、三つ葉葵の家紋が入った小太刀がそばに転がっている。


囲炉裏の火は消え、灰の中に冷たさが残っていた。


「腹減ったな。朝飯食って、なんか面白いことねえかな」


そんなことを考えながら、彼は布団から這い出した。


宿屋の主である中年男が、囲炉裏に薪をくべながら「おはようさん」と声をかけてきた。


無精髭の顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。


「おはようございます! 飯ありますか?」


悠斗がニヤニヤしながら聞くと、男が「今用意するよ」と答えた。


「そういえば、この宿、裏に混浴の露天風呂があるんだ。疲れを取ってくれ」


男が付け加えた言葉に、悠斗の目が輝いた。


「混浴露天風呂!? マジですか!? 最高じゃないですか!」


彼の声が弾み、男が「落ち着けよ」と苦笑いした。


「湯はいつでも入れる。朝飯の後にでも行ってみな」


「了解っす! 飯食ったらすぐ行きます!」


悠斗が拳を握り、テンションが上がった。


その時、宿の奥から別の声が聞こえてきた。


「母ちゃん、身体がだるいよ……」


「もう少し我慢しな、温泉で少し楽になるよ」


女の声と幼い声だ。


悠斗は首を傾げ、囲炉裏の向こうの部屋を覗いてみた。


そこには、湯治に来たらしい母と娘がいた。


母は30代半ばくらい、疲れた顔に優しさが滲む女性だ。


着物は質素で薄汚れ、髪は乱れ気味に束ねられている。


娘は5歳くらいで、瘦せ細った身体を母に預けていた。


彼女の顔は青白く、目が虚ろで、明らかに病に侵されている。


小さな手が母の袖を弱々しく握り、息遣いが浅い。


「この子、不治の病なんだよ。医者にも見放されて……」


母が宿屋の主に小声で話すのが聞こえた。


「遠くの湯治場に行く金がなくて、ここで少しでも休もうと思って」


声には諦めと切なさが混じり、涙が滲んでいる。


男が「可哀想にねえ」と呟き、目を伏せた。


「うちの露天風呂で少しでも楽になればいいが」


悠斗は囲炉裏の陰からその光景を見ながら、胸が締め付けられた。


「不治の病か……辛いな。小さい子がそんな目に遭うなんて、見てられねえよ」


母の疲れた顔と娘の弱々しい姿に、心がざわついた。


「元の世界でも、そんな病気は大変だったって聞いたことあるぜ」


だが、すぐに目を輝かせた。


「待てよ、俺、南蛮妖術使いだろ? なんか変な術で治せたりするんじゃないか?」


頭にアイデアが閃き、胸がワクワクした。


「前に敵を無力化したみたいに、病気だってぶっ飛ばせるかも!」


彼は立ち上がり、露天風呂での行動を計画した。


「混浴なら、そこで会えるだろ。ついでに治してやるか!」


内心の興奮を抑えきれず、ニヤリと笑った。


朝飯を済ませた後、彼は露天風呂へ向かった。


焼いた魚と味噌汁をガツガツ食べ、「うまい!」と満足した。


宿屋の主が「風呂はあっちだよ」と指差した方向へ急いだ。


宿の裏庭にある露天風呂は、木の柵に囲まれ、湯気が立ち上っている。


岩で組まれた湯船からは熱気が漂い、近くの川のせせらぎが聞こえる。


木々の間から朝日が差し込み、湯面に光が反射していた。


「いやー、最高の雰囲気じゃん!」


悠斗はTシャツとジーパンを脱ぎ、腰に布を巻いて湯船に飛び込んだ。


「熱っ! でも気持ちいい!」


湯が身体を包み、疲れが溶けていく。


その時、母娘が露天風呂に入ってきた。


母は娘を支えながら、ゆっくり湯に浸かる。


娘の小さな身体が湯に沈み、母が「熱いかい?」と優しく聞いた。


「うん、でも気持ちいいよ……」


娘の声は弱々しく、母が背中をさすった。


悠斗は湯船の端で彼女たちを見ながら、心の中で呟いた。


「よし、ここでやるか。混浴だからって変な目で見ねえよな」


彼は湯気の中で両手を広げ、呪文を編み始めた。


「我、佐藤悠斗、深淵に潜む超ヤバい南蛮の精霊を呼び起こし、古の禁忌をぶち開ける! 癒しの使者よ、生命の泉よ、この病弱な子に超絶回復の力をぶちかませ! 身体をガッツリ元気にしまくれ! スーパー・ヒーリング・カース・オブ・ミラクル・アゴニー!」


長い呪文が湯船に響き、手から緑色のモヤモヤが噴き出した。


モヤは湯気を抜け、娘に流れ込んだ。


次の瞬間、娘の身体がふわりと光に包まれた。


「母ちゃん、なんか気持ちいい!」


娘が驚いた声で叫び、母が「えっ?」と目を丸くした。


光が消えると、娘の顔に血色が戻り、虚ろだった目がキラキラと輝き出した。


「母ちゃん、身体が軽いよ! 痛くない!」


彼女が湯船で立ち上がり、母に抱きついた。


小さな手が母の背中を力強く掴み、笑顔が溢れている。


母は涙を流しながら、「嘘だろ……治ったのかい!?」と呟いた。


彼女の声は震え、信じられない思いと喜びが混じっている。


悠斗は湯船の端でニヤリと笑った。


「よっしゃ、成功! 俺、回復魔法もいけるじゃん!」


内心では「適当にやったけど、マジで治るとはな」と驚いていた。


母が「誰かのおかげだよ!」と叫び、娘が「ありがとう!」と笑った。


悠斗は「いやいや、俺じゃねえよ」と知らんぷりで湯に浸かった。


その後、母娘は宿に戻り、荷物をまとめて去った。


「本当にありがとう」


母が宿屋の主に頭を下げ、娘が元気に手を振った。


宿屋の主が「奇跡だねえ」と呟きながら見送った。


悠斗はその日、宿に留まることにした。


「せっかくの露天風呂だ。もう一泊して、のんびりしようぜ」


そんな軽い気持ちで、彼は宿屋の主に伝えた。


「いいよ。金払ってくれるなら何泊でも歓迎だ」


男が笑い、悠斗は満足げに頷いた。


その夜、彼は囲炉裏のそばで飯を食い、布団に潜り込んだ。


「いやー、いいことしたし、飯うまいし、異世界ライフ最高だな」


呑気な気分で眠りに落ちた。


一方、宿の外では柳生十兵衛が影に潜んでいた。


彼女は幕府の命令で悠斗を尾行し続け、露天風呂での奇跡を目撃していた。


「あの南蛮人、下品だけど……ただのバカじゃないのかも」


彼女は刀を握り直し、宿を見張りながら呟いた。


街道の奥では、豊臣残党の影が蠢いている。


「あの妖術使い、次は見逃さねえ。幕府の味方ならなおさらだ」


黒装束の男たちが刀を手に、復讐の計画を練っていた。



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