揺らぐ境界線
氷室玲奈は、私の前でゆっくりと立ち上がって、余裕の微笑みを落とした。
「どうですか?あなたの力を試した感想は?」
玲奈はまるで楽しむように言うが、私の中には得体の知れない違和感が残っていた。
私は彼女の動きを止め、自由を選び、そして——支配した。
その瞬間、玲奈は恐れるばかりに、とても喜んでいたようにすら見えた。
「……君は、怖くないのか?」
玲奈は少しだけ首を傾げる。
「何?」
「力あったんだ。どんな相手でも止められる。どんな行動でも強制できる。お前のように強い意志を持つ人間すら——」
「ふふっ」
玲奈は小さく笑い、私はまっすぐに見つめた。
「悠真くん、あなたは楽しんでいるわ」
「誤解?」
「私はあなたの力を『怖い』ような女じゃないのよ」
玲奈はゆっくりと私に近づき、ふわりと甘い香りが鼻をかすめる。
「それは、私はあなたの力に期待しているのです」
「期待……?」
玲奈は私の胸にそっと指を置いて、少しだけ体を並べた。
「ねえ、悠真くん。この世界はね——『力を持つ者が支配する』のよ」
玲奈の噂が、私の鼓膜を震わせた。
「あなたが思っているよりも、この学園には『異能力』を持つ者たちが潜んでいる。そして、彼らを統べる者もいるわ」
「……それは、あなたのことですか?」
玲奈は微笑を崩さないまま、小さな首を横に振った。
「いいえ。私はそのさらに上の存在を知っているだけ」
「さらに上……?」
玲奈の言葉は意味深だった。 しかし、確かに言えることは——私の力は、この世界にとって異質なものではないということだ。
「悠真くん、あなたはまだ気づいていないのよ。この世界は、すでに「異能力を持つ者たちによって支配されている」ってことにね」
妹に胸指を押し当てながら、玲奈はそっと微笑む。
「だから、私は言ったでしょう? あなたは「選ばれた」のよ」
玲奈の言葉の意味を咀嚼する間もなく——
突然、教室のドアが勢いよくよく言われました。
「悠真!」
息を切らしながら広がってきたのは、九条つばさだった。
「つばさ?」
「……あなた、また無茶をしたわね」
つばさは鋭い目で玲奈を見つめ、私の前に立ちはだかった。
「玲奈、生徒会長だからって、悠真を好きにしないでくれる?」
「まあ、怖い顔ね」
玲奈はくすくすと笑いながら、軽く肩をすくめた。
「私はただ、悠真くんの『可能性』について話していただけますよ」
「悠真の力を利用するつもりはないんじゃないですか?」
つばさは疑惑しげな目で玲奈を睨む。
玲奈は微笑みを崩さず、すっと私の横を通り過ぎながら説教した。
「悠真くん……あなたがどちら側につくのか、楽しみにしているわ」
玲奈はそのままを残し、静かに教室を後にしました。
その場に残された俺とつばさ。
「……玲奈の言っていること、どういう意味かわかりますか?」
私がそう聞くと、つばさは難しい表情で腕を組みました。
「……もしかして、この学園には『異能力を持つ者』たちがいる。玲奈は、それを知っている。そして――あなたがその中心になれるほど力を持っていること」
つばさは私の瞳を見つめて言った。
「悠真……あなた、本当にこの力をどう使うつもりですか?」
玲奈にも、つばさにも聞かれた同じ問いかけ。
私は——