生徒会長の警告
翌日の昼休み。
俺は校舎の屋上で、一人風に吹かれていた。
昨夜から、何度も考えている。
「俺の力は、どこまでできるのか?」
昨日、つばさに対して試した「支配」。あの瞬間、俺は確かに彼女の行動を完全に制御した。まるで時間を止めたかのように。
だが、それがどの程度まで可能なのかはまだ分からない。
この力をもっと試すべきか——いや、それとも……。
「相変わらず、面白いところにいるのね」
不意に、背後から聞き慣れた声がした。
氷室玲奈。
振り向くと、彼女は相変わらずの完璧な微笑みを浮かべ、風に揺れるスカートの裾を軽く押さえながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
「生徒会長が、こんなところで何の用だ?」
俺は努めて平静を装うが、玲奈は微笑みを崩さない。
「昨日のことを話しにきたのよ」
「……昨日?」
「とぼけないで。生徒会室での話のことよ」
玲奈は俺の隣に立ち、手すりに手を置く。
「あなた、私に何も答えなかったわね?」
「ああ」
「でも、私は確信してるわ。あなた……普通じゃないでしょう?」
玲奈の視線が、俺の瞳を射抜くように絡みつく。
「……仮にそうだったとして、それが何だ?」
俺が静かに問い返すと、玲奈はふっと笑った。
「怖がらなくていいわ、悠真くん。私はあなたを敵視しているわけじゃないの」
そう言いながら、玲奈は俺に一歩近づく。その香りが風に乗って鼻をくすぐる。
「むしろ……私はあなたに、警告しにきたの」
「警告?」
玲奈は、手すりに肘をついて俺を見上げた。その表情は、いつもの余裕に満ちたものではなく、どこか真剣なものだった。
「あなたの力、まだ制御できていないでしょう?」
俺は返答に詰まった。
昨日、つばさを支配したときの感覚。確かに俺は彼女を完全に止めたが、それがどこまでの影響を与えたのか、俺自身がまだ分かっていない。
「……それが何か問題か?」
「ええ。あなたがこのまま力を使い続ければ、いずれ必ず、"彼ら"に目をつけられるわ」
玲奈の言葉に、背筋が冷える。
「……"彼ら"?」
「詳しくは言えないわ。ただ、覚えておいて。この世界は、強すぎる力を持つ者を放っておかないのよ」
玲奈の瞳は、まるで何かを知っているように深く静かだった。
「天城悠真——あなたはもう、"普通の高校生"ではいられないわ」
玲奈はそう告げると、再び余裕の微笑みを浮かべ、軽やかに踵を返した。
「またお話ししましょうね。あなたがどんな選択をするのか、楽しみにしてるわ」
玲奈はそのまま屋上の扉へと向かい、消えていった。
俺はしばらくその場に立ち尽くしたまま、玲奈の言葉を噛み締める。
「この世界は、強すぎる力を持つ者を放っておかない——」
……俺は、一体何に巻き込まれようとしているんだ?