天才科学者の疑念
生徒会室を出たあとも、玲奈の言葉が頭から離れなかった。
——「あなたの持つその力、私にも見せてくれないのか?」
玲奈は俺の異変に気づいている。 ところで、その真意はまだ読めない。
悩みながら歩道を歩いていると、突然、肩を掴まれた。
「ちょっと来なさい、悠真」
ひどく冷静な声。その主は**九条つばさ(くじょうつばさ)**だった。
つばさは俺の幼馴染で、学園の天才科学者と呼ばれる存在だ。IQ180超え、理数系科目はすべて全国トップクラス。
そして今、その鋭い瞳が私を捉えていた。
「……なに?」
「いいから」
果敢に腕を引かれ、俺はつばさの研究室へと連れ込まれた。
***
「……さて、説明してもおうか」
つばさの研究室は、ほぼ未来のラボのようだった。 壁にはたくさんのモニターが並び、床には無造作に実験器具が転がっている。
つばさは腕を組み、私を見据えた。
「昼休み、あなたがやったこと……私の目は誤魔化できないわよ」
「……なんのことだ?」
「とぼけないで。あなた、ペンを浮かせていたわね?」
背筋が冷たくなる。玲奈だけじゃない——つばさにも一応れていたのか。
「私の計算によれば、物理法則に従う限り、あれはありそうな現象だった」
つばさは机の上のタブレットを操作し、私のいた教室の映像を再生した。
「重力を無視し、空気の流れにも影響を受けず、精密な動きで宙を舞うペン……あれはどういう原理?」
「……」
つばさは俺に少し余裕がある。その切れ長の瞳が射抜けるように俺を見つめた。
「あなた、人間じゃないの?」
その問いに、一瞬、息が詰まる。
「……バカなことを言うなよ」
「今度証明して。もう一度、目の前でペンを浮かせてみて」
そう言って、つばさは机の上のボールペンを指で弾いていた。 ペンは軽い音を立って転がる。
試されている。
つばさは本気だ。彼女の好奇心は尋常ではない。このまま誤魔化そうにも、必ず証拠を見つけ出し、私の秘密を暴くだろう。
私はゆっくりと手を伸ばし、意識を集中させました。
——動く
すると、ペンがふわっと宙に浮かんだ。つばさの瞳が一瞬、大きく見えてくる。
「……っ!」
私はゆっくりとペンを宙に回転させ、自由自在に動いて見せた。 つばさは無言のまま、その様子をじっと観察している。
パニック、彼女は小さく息を吐いた。
「……なるほど。やっぱり、ね」
つばさは不敵な笑みを捨て、私に向かって身を乗り出します。
「ねぇ、悠真……この力、もっと研究させてくれない?」
彼女の瞳が熱を保ち続けている。
それはまるで、新たな未知を手に入れた科学者の目だった。