死んでからまで
石川家成「我らは殿のために命を落とす覚悟は出来ている。それと同じくらい一向宗の事も大事に思っている。ただどちらか1つを選ばなければならないのであれば、躊躇なく殿を選ぶ。その気持ちに変わりは無い。しかし死んでまで苦しむのは御免被る。」
どのような苦しみが待っているのでありますか?
石川数正「無間地獄の事か?手足の節々から火炎が吹き出す。それが間断無く続く。苦しむ暇等無い。」
苦しむ暇が無いのなら良いではありませんか?
石川家成「それが8万劫続くんだぞ。その間生まれ変わる事が出来ないんだぞ。」
嫌ですねぇ。
石川数正「……呑気で良いな。」
しかし一向宗は種子島を持つ強敵。私も死は覚悟出来ています。
酒井忠次「其方はまだいくさには……。」
此度が初陣となります。
石川家成「守ってやらねばならぬな……。ただ此度は内なるいくさで身内が割れている。それ故、第三者による仲裁が無い限り。どちらか一方が倒れるまでいくさは終わらぬ。辛い場面に出くわす恐れが高い。その覚悟はしておくように。」
ありがとうございます。
酒井忠次「しかしどうします?」
石川数正「無間地獄を如何に回避するかですね?」
石川家成「我らだけであるのなら、甘んじて受け入れる事も出来る。やりたくは無いが。しかし我らには家臣がいる。彼らの中にも一向宗を信仰している者も多い。」
他の宗派に鞍替えする選択肢もありますが?
石川家成「新たな受入先に認められるまでの時間が足りぬ。」
一向宗と同じ浄土真宗の別派であれば、教えは同じでありますから障壁も低くなるのではありませんか?
石川数正「教えが同じ所の方が、障壁は高い。教えが同じであるが故に仲も悪い。」
石川家成「もし真宗の別派に移ろうものなら、一向宗の反発を更に強める事になってしまう。それだけ抵抗が強くなる恐れがある。」
酒井忠次「しかも石川は三河一向宗の重鎮。そんな彼らが真宗の別派に移ろうものなら……。」
全国に散らばる一向宗の武闘派が、ここ三河に集結する可能性がある?
酒井忠次「勝てるいくさも勝てなくなってしまうぞ。」
確かに、その通りでありますね。
石川数正「ずっと聞いていて思っていたのだが。」
何でありましょうか?
石川数正「お前余裕だな?」
初めてのいくさを前にして余裕何かありませんよ。
石川数正「そうでは無くて。」
石川家成「お前の所も確か
『南無阿弥陀仏』
だよな?」
はい。それを唱えるだけで、現世で何をしようが極楽浄土に行く事が出来ます。
石川数正「しかしこのままだと無間地獄行きとなる恐れもあるんだぞ。」
いえ。それはありません。
石川家成「何故そう言い切る事が出来るのだ?」
だって私の家は……浄土宗でありますので。