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第4話 遠い日の約束

最終回です

 去り際、「約束、覚えてくれててありがとう!」と千夜は言い残していったが、一体全体いつどこで交わした約束だろうか。


 千夜のことだ。きっと大分昔に交わした約束でもおかしくはない。

 つまりそれが今回のバレンタインに繋がっていそうな内容だな。


 約束の内容によるが、昨日からの一連の流れに納得は出来た。

 おかしいと思ったんだよな。本命にチロルチョコを渡すなんて普通はしないだろうし。

 ただ問題なのは、俺がその約束を忘れていたということだ。

 何故忘れているのかすら定かでは無いが、言い知れぬ不安感が湧き上がってくる。


 …………これはまずいな。可能な限り早く思い出さなければ、後で色々やらかしそうだ。

 よし、全力で思い出そう。大丈夫だ、俺が千夜との約束を完全に忘れることは無いはずだ。脳のどこかに眠っているだけ。


 そこからまた一晩、寝てる間も考えて記憶の引き出しを片っ端から全開にしていく。

 しかしそれでも、夜が明けた今も結局思い出せずにいる。


 昨日とはまた別のモヤモヤを抱えたまま朝の身支度を済まし玄関を出ると、今日もまた千夜が立っていた。


「あ、お、おはよう」

「おう、おはよう」


 昨日と似たような挨拶を交わし、並んで歩き出す。

 スルリと右手に体温を感じ見てみると、昨日の帰りと同じように千夜が指を絡めていた。


「今日は、恋人繋ぎで良いのか?」


 昨日は腕を組んでの登校だったが、昨日に比べたら心臓への負担は大きくないな。

 

「こっちの方が、蓮太の体温感じるから好きかも」


 繋いだ腕をブンブン振りながら笑う千夜は今日も眩しく可愛らしい。

 必死に思い出そうと悩んでいた事も薄れていくような、真っ直ぐな笑顔が愛おしい。


「あ、お弁当も楽しみにしててね」

「ああ。昼が待ち遠しいな」


 朝だというのにもう昼の楽しみが出来てしまった。

 登校して教室へ来たが、耐性の出来たクラスメイト達はもう何を見ても驚かないのか。はたまた諦めているのか、すれ違う度何食わぬ顔で挨拶をしてくる。

 慣れって凄いんだな。

 

 待ち遠しいと感じていたお昼だが、昨日に増して時の流れが加速しており、あっという間に4時間の授業が終わりを迎えていた。

 

「じゃーん。どうよ私の力作」


 開かれたお弁当箱には、卵焼きから唐揚げ、煮物に野菜炒めと色とりどりの具材達が詰まっていた。


「す、凄いな」

「当然。日頃から蓮太の好みを観察して味まで調えているんだから」


 今まで料理をよく作ってくれていたが、そんな意味もあったとは。確かに食べる度に好みの味に近づいていたのだが、もはや花嫁修業に近いのでは?


 ふとそこで。脳裏に何かがよぎった。

 多分これは、昨日から考えている約束に関してだな。

 お、なんか思い出せそうだ。


 頑張れ俺。思い出すんだ。

 千夜が怪訝そうな顔をしているが今は思い出すことに集中しよう。


 そうして思案すること僅か数秒。昨夜一晩の健闘がついに実を結び、見事に全て蘇ってくる。


 事の発端は幼稚園の年中にまで遡る。

 今と変わらず真っ直ぐな笑顔を向けてくる幼女との記憶だ。


『れんたくん。きょうはばれんたいんだって。すきなこにチョコをあげるってままがいってた。どんなチョコがすき?』

『チョコ? チョコだったらチロルチョコがいいな。いちばんすきなやつ!』

『ちろるちょこ? よくわからないけど、それあげたらちよとけっこんしてくれる?』

『もちろん。ちよちゃんとならけっこんしたい』

『それじゃあおよめさんにふさわしくなったらちろるちょこあげるね! ちよはなよめしゅぎょうする』

『うん! まってる!』


 以上、当時4歳の俺と千夜の会話だ。

 よし、数秒前までの俺。全力で殴られろ。大気圏の果てまで吹っ飛べこの大馬鹿野郎。

 俺と千夜にとって大事すぎる約束を何故忘れていた。何が「千夜に嫌われたかもしれない」だ。

 

 滅茶苦茶一途じゃん!?

 俺には勿体ないくらいの超可愛い子じゃないか。

 やばい、嬉しすぎて泣きそう。と言うか泣く。


「えっ!? 蓮太、急に涙出してどうしたの?」


 本当に泣いているらしい。

 千夜目線だと弁当箱を開けたら突然泣き出したのだから驚くのも無理は無い。


「嬉し涙だよ」

「そ、そうなの? それなら良いけど」


 未だ困惑する千夜には、どうしても言っておかなければならない言葉がある。


「千夜」

「ん? なに蓮太」

「好きだ、結婚してくれ」


 短く一言で。もうこれに尽きる。

 ただひたすらに、どこまでも愛おしい。


「……え? ……けっこ、けっこん……え!? 結婚!? ……ああああの、あの、待って、結婚はするけどさすがにちょっと突然すぎる」


 一瞬フリーズしていた千夜だったが、言葉の意味が分かるとともに驚きと羞恥と、それでも嬉しさを隠し切れていない様子で顔をひたすらに赤く染め上げていく。

 

「ごめん、けどこれだけは言っておきたくて。俺は千夜が好き。今も昔もこれからもずっと好き。一生離したくない。結婚してくれ」

「や、あ、あの、あのね? だから、えっと、……………………その…………、……はい、喜んで」


 慌て戸惑いつつも、最後は上目遣いで懇願するかのように受け入れてくれた千夜。

 結んだ唇をもごもごさせたり、細くしなやかな指で髪を弄ったり、心ここにあらずといった感じではある。どちらかと言えば夢見心地のようにも見える。

 

 そんな千夜が愛おしくて、思わず抱きしめようとして。


 ふと視界に映る数々のレンズ。

 見回すと、クラスメイト達が無言でスマホを手に翳していた。

 あれだね、写真ではなく動画だね多分。


 四方八方から撮られている事に気が付くと、今までの言動が走馬灯のように駆け巡る。


 あれ? 俺もしかしてクラスメイトの前でプロポーズした?

 目の前の千夜を見ると、まだ半ば放心状態。顔を赤らめ、目もトロンとしている。


 教室内の誰も言葉を発しない中、ピロンっと音が鳴る。

 静寂を破ったのは、スマホの着信音。恐る恐る内容を確認すると、クラスのグループチャットに動画が送られていた。

 ピコンピコンピコンっと、続々と動画が送られてくる。


 皆無言で送信するのやめて! かえって恥ずかしいから。

 千夜の手を握り、逃げるようにして教室を出ていく。昨日から鍛えられたとは言え、あの空気の中お弁当が食べられる程俺の心臓は強くない。


 その後空き教室で2人カクカクしながらお弁当を頂いたが、どれもかしくも絶品だったとだけ言っておく。

 勢いで仕方ないとはいえ、あの場でプロポーズまがいのことを言わなければもっと味わって食べることが出来たはずだけど。


 そこからまた午後の時は流れ本日の帰宅途中。俺達は腕を組みながら家へと歩いている。相変わらず心臓に悪い。

 だけどとてつもなく幸せな気分だ。


「教室で突然あんなこというのはもうやめてね。心臓止まるかと思った」


 十中八九プロポーズのことだろう。


「ごめん。俺としたことが千夜への愛が抑えきれなくて」


 ボスン、と可愛く頭突きされた。両腕塞がっているもんな。


「言うなら人気の無いところで言って」

「次からはそうする。で、まだ言い足りないことあるんだけど。今日は家寄っていくか?」

「……寄る。私も蓮太に言いたいこととかしたいこと沢山あるから」


 「覚悟しといてね」といたずらに笑う千夜。

 だめだ、可愛すぎる。


 このあと早速ランキング第2位の『膝枕しつつ頭を撫でる』を達成することになる。

 第1位が達成されるまで、あと何日か。

 達成したその後も、一生傍にいれますように。


「あっ。来年からもバレンタインは毎年チロルチョコ用意するね。私の『大本命チョコ』だから」

 

 大好きで最高に愛おしい幼馴染みから貰った小さなチョコ。

 この小さなチョコには、ありったけの想いが込められている。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

本作はこれにて完結になりますが2人の幸せな日々はこれからもずっと続いていくことでしょう。


是非とも評価の程お願いいたします。

好評批評誤字脱字の指摘などございましたらコメントして頂けると嬉しいです。

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