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黒い日傘と、純新無垢なワンピース

作者: 水早咲

また死ねなかった。

早くこの世を去りたいと思う人ほど長生きするなんて、これほど皮肉で正確、いや正確で皮肉なことはないだろう。


14歳、中学2年の夏休みももうすぐ半分が過ぎようとしていた。8月15日土曜日、今日も目が覚めた。いや、覚めてしまったと言うべきだろうか。長い夢でも見れたらと柄にもなく母親にお願いして昨日だけアイマスクを借りたというのに。


夢は無い。見たこともない。ただ永遠に天井に蠢くうようよした虫を数えては目を閉じ、瞼の裏でごうごう流れる赤い川を恨んで眠りにつく。もう目が覚めることがないよう祈りながら。


8月19日水曜日、もう宿題も残ってはいない。いや、読書感想文はあと1枚ある。だが書ききる気にはならなかった。おもむろに図書館へと向かうことにした。特に理由は無い。いや、あるにはあるが理由というにはあまりに希望的で絶望的な1種のエゴに近いのかもしれない。


図書館に歩く道のり、風になびく女子のポニテールを見ながら残念な気分になった。

「髪なんて短ければ短いに越したことはないのに。あれでなびくやつの気が知れない、、」なびくスカートに思わず目をそらした。特別でない自分に酷くガッカリした。


「重苦しいガラス戸からもれる涼し気な風は、曇った空がとうとう泣き出したかと錯覚するほど、、」かっこつけてみたがこれ以上はさむすぎるため辞めておいた。


午後16時44分、この時間は大抵数人、いや正確には司書と僕以外図書館には誰もいない。率直にいおう。僕はこのお姉さんを好いている。子供のように幼い顔立ちでありながらその小さな耳には銀色冷たい金属が無数の穴を開けて光っている。青白く虚弱に見えてふと髪を書きあげた時にみえる2mmの刈り込みは妖艶で猟奇的に僕を興奮させた。


8月23日日曜日、人生で2度目の失恋をした。いや、単に見た目が好みであったと解釈するならこの気持ちは失望に近いのかもしれない。17時40分。今日は涼し気な図書館には入らなかった。残暑の2文字が永遠にこないと思わせるほどには暑い外でかれこれに2時間待ち続けている。

今日は挨拶だけでもと制服になど袖を通したのが間違いだった。後悔の波の中、彼女が来た。純真無垢なワンピースと冷たい銀色は涼し気な空気をまとい僕は今にも燃えそうなほど心臓を鳴らしていた。


「あの、」彼女は黒い日傘を閉じてじっとこちらを見ていた。「、、こんにち、は」これほど小さな声をどこから出したのか自分でも聴き逃してしまいそうな声だった。

「こんにちは。ごめんね、彼氏とのデートが長引いちゃってバイト遅れちゃった。すぐ開けるね。」そう言って彼女は裏口へと小走りで走っていった。


7月43日。いやそんな日はいつまでも来ない。1人ツッコミを繰り返して何日たっただろうか。彼女が走り去ったあと僕は1冊の本を借りてすぐに図書館を出た。あれから同じ本を繰り返し読み続けている。

「どうしてあなたなの。神様どうかあの人を。私はどうなっても構わないから!」そう言ってその本は終わり迎える。何度読んだところでハッピーエンドなど訪れはしないと今ならわかる。


彼女は図書館を飛び出た僕を追いかけ、僕は彼女がこの世を去る音色を背中で全身で感じていた。


10月31日。15時22分、誰も居ない家に高くインターホンの音が鳴った。扉を開けても誰も居ない。いや、見えなかっただけだ。「とりっくおわとりーと!」高く元気な声が全身に響いた。「お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」生えたばかりの前歯と取れたばかりの前歯をした小学2年生位の男の子と女の子が立っていた。


1分の沈黙。心配そうな顔で「大丈夫?」可愛い眉が八の字になってこちらをのぞきこんでいた。黒い目玉と純真無垢なワンピースは僕の絶望を繰り返すのには十分といえた。

「おいで。お菓子あげるよ。外は暑いだろう。」そういって玄関に招いた。


16時42分。気がつけば男の子の持っていたかぼちゃのフォルムをしたカゴには赤く黒いハロウィンにはぴったりの2つの目玉がじっとこちらを見つめていた。女の子は頭から赤い川がごうごうと流れ出ていた。本当は全部覚えている。全身に響く高い絶望の音色が今も全身に響き渡っていた。


19時44分、ハロウィン当日にあの交差点に来るなんてきっとないと思っていた。あれほど狂った人達にはなりたくない。特別になりたいと思いながら、普通を願う僕には敬遠しながらも羨望の眼差しでテレビを見ることしか出来なかった。何か変わったとすれば、狂った振りができるようになったことだろう。

血まみれの制服に包丁とナイフ、誰も疑うものなど今日の日本にはそういない。


「22時30分、こちら東京・渋谷のスクランブル交差点です。先ほど、通り魔と見られる男性が警察に取り押さえられました。現時点の死傷者は23人とこの豪雨でもはっきりと交差点が赤く染まっているのが分かります。」

脳内でそんな表現するアナウンサーなどいないとツッコミを入れつつ冷たくなる体温を感じながら1つまた1つ通り過ぎる蛍光灯を眺めながら、ふと本を思い出した。「母さんに返しておいでって言わなきゃ。」


「どうしてあの人なの。神様どうか。」

母さんかはたまた誰かの母親の声か。ハッピーエンドは結局なかったな。そう思いつつ、どこかでハッピーエンドを望んでいたことに気がついた。いや、気がついていたという方が正確かもしれない。


絶望から快楽を見いだし、希望から後悔を見いだした彼は、また天井にうごめく蟲を数えてそっと瞼の裏をひょうひょうと流れる赤い小川を見ながら眠りにつく。




初めて物語を書いてみました。

少しでも死にたいと思うことが無くなればと勝手なストレスから生まれたただの妄想です。

最後まで読んでくれなくても幸いです。

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