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第41話

 その後喫茶スペースの方から現れた美人の外国人女性が外国の言葉で一喝し、場を収めてくれた。この人もホールスタッフのようで、白シャツに黒パンツ、ソムリエエプロン姿だ。


 アレン君だかアラン君だか知らんがよくわからんイケメンと、でかいコック帽を被ったパティシエは、その美女が後ろに引っ張っていった。

 ついでに川口さんと吉野さんにも鋭い視線を向けて『ちょっと来い』とでも言うように顎をクイッとすると、二人はトボトボと彼らの後を追って行った。


 なんだろう。この混沌カオスな状況は。

 自分のせいなんだろうか。


 なんだか居た堪れなくなって、ちょっと哀しくなって来てしまったアキラは、ナベちゃんに声をかけて帰ろうと思った。


 ケーキのショーケースのところにいたもう一人のスタッフさんに声をかけた。

「あの、なんか、自分が来たせいでご迷惑をおかけしてしまったみたいで、すいませんでした。失礼します。ナベちゃん、帰ろう」


 まだ少しざわついている店をナベちゃんと一緒に出て、言葉少なにトボトボとアーケードの外れの駐輪場に向かって歩いていると、先ほどのホールスタッフの外国人女性が走ってきた。


「お客様!待ってください!」

 流暢な日本語で話しかけられて戸惑っていると、グッと手を握られた。


「あの、先ほどはお騒がせしてしまって、すんませんでした。また機会があればお店に寄らせてもらいますので…」

「いえいえいえ!私どもの不手際でお客様にご不快な思いをさせた上に追い返したとなれば、今後ここでお店をやっていけません!お時間をいただくことになって申し訳ないのですが、お二人ともご足労いただけませんか?宜しくお願いします」

 6時過ぎというそれなりに人通りがある夕方の商店街の一角で美人のお姉さんに頭を下げられると、アキラは逆らえなかった。


「わかりました…。あの、少しだけでも大丈夫っすか?」

「はい!もちろんです。お連れ様も大丈夫ですか?」

 ナベちゃんはちょっと笑って頷いた。


 どうせ、『真島くんはお姉さんスキーだからしょうがないなー』とか考えているのだろう。正解だから何も言い返せないが。




 ==========================




 お店に戻ると喫茶スペースを通り過ぎて、奥の個室に案内された。

 その部屋は今入って来たドアと別に、奥の部屋に続いていると思われるドアがあった。


 いくつかテーブルがある中、丸いテーブルの席を勧められたので着席すると、先ほど帰る時に声をかけたシェフコート姿のスタッフさんが現れてお茶とケーキを勧められた。

「もう夕食も近い時間なので」と遠慮したが、「お茶だけでも召し上がって行ってください」と言われてしまい、アイスティーだけ頂くことにした。


 少しすると先ほどと同じスタッフさんが二人分のアイスティーを運んできてくれた。

 落ち着いた雰囲気のおばさまだ。

「先ほどは当店の者が騒ぎ立ててしまい、誠に申し訳ありませんでした。そちらのお客様はいつもご贔屓にしていただいていると言うのに、本当にもう…なんとお詫びしたらいいか」

「僕の方はなんでもないので、そんな気になさらないでください。いつも丁寧な接客をしてもらってありがとうございます」

「あの、自分たちの方はただちょっと焼き菓子を買わせてもらおうと思って寄らせてもらっただけで、こんな騒ぎになるなんて思ってもいなくて。こちらこそすんませんでした」

「何を仰いますか。お客様に非なんてありませんよ。もしよろしければ、何かご希望のものをお包みしますが…」


 アキラは慌てた。

「いや、自分、そういうの本当にダメで。今日買いに来たのって、バイト先への差し入れなんです。頂き物を差し入れにするのって、なんかちょっと違うと思うんで、自分のお金でちゃんと買いたいんです」

「…ええ。これは失礼なことを申し上げました。宜しければ先様の条件など仰っていただければご都合に沿ったお品物をご用意しますよ」


 ナベちゃんを見ると頷いているので、まあ本来の目的だし…。と、おばさまに先ほどのアレン君にした話をしようとした。


 と、奥のドアが開いて先ほどの美女に連れられ、パティシエさんやアレン君、川口さんに吉野さんも入ってきた。


「前田さん、すいませんが表をお願いできますか?今、樋口さんが一人ですので。ここからは私がお客様のご対応をさせていただきます」

「それでは…。あ、それと…」

 スタッフさんは、その美女に何か耳打ちしていた。相手もウンウンと頷いている。

 少しして、スタッフさんはアキラとナベちゃんに会釈すると、同じドアから退出していった。




 美女とパティシエさんとアレン君が揃って頭を下げた。

「改めまして、この度は私の夫と息子がご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした」

「真島君、だったかな。さっきはごめんね。風香ちゃんをたしなめるつもりが僕の方が大きな声を出してしまった」

「お客様、先ほどは大変失礼しました。私の一番大切な女性ひとを助けてくれた方だと知って思わず抱き締めてしまいました。お許しください」



「え、あの、誰が誰の旦那さんで、誰が誰の息子さんなんすか?」

「あとアレンさんと吉野さんは付き合ってるんですか?」



 アキラとナベちゃんがぼーっとしながら尋ねた。



 パティシエさんが美女を指さした。

「私、川口トシロウがこの川口ブリジットの旦那さんです」


 アレン君がパティシエさんと美女を指さした。

「僕、川口アレンがこの二人の息子です」


 トドメの言葉を川口さんが言った。

「あと、アレンくんとマイちゃんは付き合ってるよ〜」




 もう情報量が多すぎて処理しきれない。




 アキラとナベちゃんは、テーブルの上に置かれていたアイスティーを手にとると、一気に飲み干した。




 さて、お茶も飲み終わったし、帰ろうか。


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