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第38話

 アキラは翌日の教材や着替えと共に赤と黒のツートンカラーのヘルメットをノースフェイスのリュックに入れた。YMBの二人から勧められたようにハヤトかナベちゃんに使ってもらおうと考えたのだ。


 その夜遅くまで考え事をしていたアキラは、翌朝見事に寝坊した。


 母の陽子に叩き起こされ、朝食もそこそこに自転車に飛び乗ってダッシュした。

 もちろん黒いヘルメットを使っている。


 充電完了した新品の電動アシスト自転車はその性能を遺憾無く発揮し、運転者を見事に時間内に学校に届けてくれた。


 時間ギリギリに教室に飛び込んだアキラは、ハヤトとナベちゃんに軽く手を上げただけで自分の席に着いた。

 なんとなく察した二人が苦笑いしているようだ。


 隣の席で寝ていた須藤が顔を上げた。

「おー、真島、おはー。朝っぱらからなんか疲れてんね」

「ウッす…。ちょ、だめ。ねぼーした…」

「めずらしーじゃん」

「マジであかん…」

「あ、松原来た。ギリだったねー」

「あーちょっと死んでるわー」


 全力疾走で体力を使い果たしたアキラが机に溶け落ちた。

 が、本日の1限は体育だ。


 しかも今日は長距離走だ。朝イチなのに。

 アキラを含めた2−Aのメンバーよ。存分にくたばるが良い。




 ==========================




 坂ノ上高校の体育での長距離走は、高校から出て金鎖山の決められたルートを走る。

 全長で約4キロ。緩やかとはいえ傾斜がある山道を走るので、平坦な場所を走るより確実にキツイだろう。高校生男子であれば大体20〜30分のタイムになるだろうか。

 坂高から次々と体操着姿の男子生徒が走り出していく。


 ちなみに女子は体育館でバレーボールらしい。


 クラス全体の中ほどの順位でグラウンドに戻ってきたアキラが青白い顔をしている。

 やはり寝不足の体に長距離走は厳しかったようだ。


 少し早くグラウンドに戻ってきていたハヤトがアキラに声をかけた。

「アキラ、顔色悪いぞ。大丈夫か?」

「悪い、ちょっとキッツイ。昨日あんまり眠れなくてさ…」

「いつもならもっと早いのに、オレに負けてるくらいだからな…。あんまり具合悪いんだったら、保健室とか行くか?保健委員誰だっけかな」

「…俺だ。アオちゃんに心配させるの嫌だし、大丈夫だ。つうかさあ…、ウチの教師はバカなんじゃねーか?朝イチでこんなことやらせやがって…」


「ま…、全く、同意け、んだよ」

 ナベちゃんが戻ってきた。長距離走が嫌いな彼にしては早い方だ。


「こ、こんなの、朝イチ、でやったら、2限以降なんて、もう頭に入らないよ…」

「アキラ、学年トップがなんか言ってるぞ」

「ナベちゃんの場合は授業の代わりに外走ってた方がいいな。ちょっと痩せるし俺の順位が1つ上がるかもしれん」

「二人とも酷いね!」

 やっと息が整ってきたナベちゃんがキレている。


「ちょっと負荷が足らんな。先生にもう少し距離を伸ばすべきだと進言するべきだろうか…」

 恐ろしいことを言い出したゴリラを男子のほぼ全員でボコボコにしているうちに1限は終わっていた。


 ちなみにゴリラに立ち向かった馬鹿ゆうしゃの半数は返り討ちにあいボロクズのようになっている。


 ハヤトは早々に離脱した。

『君子危うきに近寄らず』をモットーにするアイツらしいやり口だ。




 ===========




 Mrs. GREEN APPLEの『ケセラセラ』の調べが校舎内に響いている。

 吹奏楽部が夏に大会を控えた各部活動への応援テーマソングとして練習しているのだろう。

 ブラスが奏でるメロディーが力強く響き、聴いている人の気持ちを鼓舞してくれるようだ。



「アキラ、このヘルメット、結構高いヤツだぞ…」

「すごくカッコいいね」

 人影の少ない教室でハヤトとナベちゃんが赤と黒のツートンカラーのヘルメットを眺めている。

 ハヤトは早速スマホでメットの価格を調べたようだ。


「昨日YMBの人からもらったんだ。使わない分は誰かにあげてもいいって言われてさ。二人のどちらかに使ってもらおうと思って持って来たんだが…」

「いや、オレはいいや」

「僕も遠慮しようかなあ」

「なんで?」

 アキラが率直な疑問を投げかけた。


「お前が事故ったろ。お袋にヘルメットをかぶるように言われちまって、こないだ買ったよ」

「それで僕もこの間宮木君と一緒に買いに行ったんだ。あと僕の自転車は青だしちょっとバランス悪いと思うよ」

「でも、そうじゃなくてもなあ」

「まあねえ…」

「え。なんだよ」

 二人はちょっと引き気味。



「お前とお揃いの色違いは無いわ」

「流石に、ね」



「…ああ、そりゃそうか」

 アキラも男友達とおそろいのメットは嫌だ。

 一緒に並んで走ったりした日には何を言われるかわからない。

 当たり前か。


「ところで新しい自転車はどうなの?」

「あ、絶好調だね。ありゃいいわ」

「それなのに遅刻しそうになったのか?」

 アキラの返答にハヤトが呆れた。


「あー、いや、昨日なかなか衝撃的な動画を見ちまってさ。それで二人に相談したかったんだよ。まあ…今見せるのもなんかチゲーし、あとでアドレスを送るよ」

「え゛、僕、グロ耐性ないからね」

「何?変なものは勘弁してくれよ」

「そういうんじゃねーって。大丈夫だよ。昨日YMBの人から教えてもらったんだ。短い動画だし明日にでも感想教えてくれればいいって」

「まあ、それならジム終わったら家で見ておくよ。そろそろ行かないとトレーナーさんを待たせちまう」

 ハヤトがシルバーのハードシェルバッグを担いだ。


「うん?急いでるなら激坂通っていくのか?」

「いや、使わんて。お前みたいに事故って怪我でもしたら洒落にならんし。普通に通常ルートで行くわ。なに?ナベっち、最近は激坂で帰ってるの?」

「ないない。僕も滅多に激坂は使わないよ。傾斜キツくて怖いし」

「…()()()()()。ハヤトも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、俺が誘ってもあのルートを使ってなかったんだよな…」

「あ、やば。じゃあ、オレもう行くわ。また明日ー!」

 白いG-SHOCKを見て時間を確かめたハヤトが急ぎ足で教室を出ていった。


「気をつけてなー!」

「宮木くん頑張ってねー!あ、真島くん、じゃあ約束の…」

「おー、スト6やりに行こうぜー」


 アキラが手にしたヘルメットを見たナベちゃんが尋ねた。

「そういえば、そのヘルメットどうするの?」

「あ、ちょっと嵩張るからロッカーに置いてくるわ」

「一応鍵もかかるしその方が身軽で良いね!」


 アキラとナベちゃんはしばらく前の約束を果たすため、しばらくぶりに二人連れ立って長い回り道ルートを自転車でくだっていった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  普段激坂使わない人と競争したんだぁ…  超常現象だなぁ。
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