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第15話

 あなたは『スターマイン』という曲をご存知だろうか。


 Da-iCEの楽曲で22枚目のシングルとしてavex traxより2022年8月22日に発売された曲だ。


 ピンとこない?


『一発じゃあ足りないのかい』から始まるボーカルが特徴的で、第64回日本レコード大賞において優秀作品賞に選出されている曲といえばわかるだろうか。


 TikTokで楽曲再生数5億回を記録したほどの曲なので、誰しも一度は耳にしたことがあるはずだ。







 防犯カメラ映像の『アキラが通り魔に頭突きと膝蹴りをぶち込んでいる動画』に、この『スターマイン』を組み合わせて、スタイリッシュなショート動画を作り上げた職人がいた。




 歌声とビートに合わせて、アップ目の通り魔の顔とアキラの顔にエフェクトがかけられた。画像がどんどん切り替わっていく。


『Ahhhhhh…、一発じゃあ…』で、アップになった通り魔の顔面に頭突きをかまし、『二発目を…』で、再度顔面に膝蹴りを叩き込んでいる。

『三度目の…』では、通り魔が警察に手錠をされ連行されるシーン。

『四の五の…』で、アキラがハヤトの手を借りて立ちあがろうとしているシーン。

 ラストに『六でもない(ロクデモナイ)!』で、血まみれのアキラがハヤトと肩を組んで笑っているシーンと壊れた自転車の画像で締め括られている。



 赤いモブ男の横のハヤトが、いつも以上に無駄にイケメンに見える。



 なんかすっげえ爽やかでスタイリッシュ…。

 これ、ハヤトだけキラキラエフェクトかかってないか?

 動画のコメント欄は『HAYATO様カッコイイ!』やら『HAYATOしか勝たん!』とか、ハヤトについてのコメントで溢れている。

 …いや、ハヤトが何もしてないとは言わないけど、元はと言えば、あいつが激坂レースしようとか言い始めたのが原因なんスよ。

 ナベちゃんと二人で、普通に回り道して帰ってゲーセン行くところだった…んだけどなあ…。

 


 たぶん、動画作成者の意図としては、BOSSのHAYATO様から指示を受けたモブ男A(アキラ)が通り魔をぶっ飛ばした的な感じなんだろう。

 BOSSの指示通り犯罪者を倒した配下のモブ男にお褒めの言葉を授けるHAYATO様の図か。

 誰がモブだ。やかましいわ。




 あと、普通に顔出てるんですけど…。

 ネットリテラシー、どこいった。




「………………………………」

 アキラはあまりの衝撃に、言葉にならないようだ。




 また、この動画を加工して頭突きのシーンをE.ホンダ、膝蹴りの シーンをガイルに差し替えたスト6バージョンも出来ていた。

 こっちの動画も無駄にクオリティが高い。

 これにはアキラの顔は映っていない。ラストシーンは猫ミームの「はあ?」でおしまい。

 これなら、まだマシ。…なのか?




 どうやら今回の事件に関する一連の動画はネットで瞬く間に拡散され、おもしろ素材として流通してしまったらしい。

 ネットのおもちゃになった。と言う事だ。

 新たなミームの誕生も近いかもしれない。




「………他にもねぇ、マンボNO.5って楽曲に組み合わせて頭突きをたくさんするヤツとかもできてたよ」

「え?マンボ?」

「なんかドッキリの時とかに使われてる曲だって」

「水曜日のダウンタウンで見たかも!」

「たぶん一緒の曲だよ」

「あ、健太くん〜、これとか『頭突きニキ』だって〜」

 放課後の教室で、アキラはハヤトとナベちゃん、須藤の三人から動画を見せられた。

 特に須藤がナベちゃんにスマホの画面を見せて嬉しそうにはしゃいでいる。


「アキラ!先に断っておくけど、俺は何もしてないからな!事務所から呼び出し食らってるくらいだし!」

 ハヤトがアキラの顔を見て、慌てて弁明している。



「…この手の動画、俺も見たことあるし、面白いって思ってたよ。でも、動画にされる側になるなんて、想像したこともなかったよ…」

 アキラが真っ白に燃え尽きている。



「きっとあれだな。怪我人こそ出たものの重傷者や死者が出なかった事、女の子を助けた事、防犯カメラの動画が流出した事。全部が重なったからこそ起こった現象だな」

「あと宮木くんっていうインフルエンサーが真島くんを助けおこした写真が出回ったのも大きいよねえ」

「…あんなもん、どっから出てきたんだよ」

「現場にいた野次馬が撮った写真をインスタにあげたヤツね。反対側に健太くんも映ってる写真もあったのに〜」

 須藤がナベちゃんにジワジワと近づいているが、突っ込む気力も無い。



「俺、もう道を歩ける気がしない…」

 アキラが壊れた。

 ちょっと泣いているようだ。



「大丈夫だって〜。みんなすぐに飽きて忘れるから」

「人の噂も75日って言うもんね」

「2ヶ月半って結構長くない?」

「いや、現代の方がきっとすぐに忘れるぞ。情報の消費スピードが全然違うし」

 三人が励ましてくれた。たぶん、励ましてくれたんだろう。



「それでバスでジロジロ見られたり、昼に学食行った時スマホ向けてくるやつがいたのか…」

「真島くん、大丈夫?」

「あ〜…御愁傷様?」

「オレいっつもそんな感じだから、別に普通じゃない?」





「少なくとも、俺の普通じゃねえよ…」

 梅雨前の青い空に向かって呟かれた言葉は、どこかに消えていった。









 ==========================








 

 ベッドに寝転んだ女の子が、分厚い雑誌を読んでいる。



 しばらく雑誌をめくって眺めたり、机に移動してA3くらいの紙に何か書き込んでいたりしていたが、スマホを手に取るとTikTokの動画を検索しはじめた。


 やがて、目当ての動画に辿りついたようだ。







 スターマインが流れ出した。






「ふふ…。かわいい」


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