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「終わった終わった!」
ホームルームが終わると、諒が思い切り伸びをした。両手を伸ばしたまま、帰る支度を始めた陽介を振り向く。
「陽介、帰り遊びにいかね? うちのクラブ、今日休みなんだ」
「あ、俺クラブ」
「あー、活動日か。残念。そういや、さっきホームルームの前に、職員室に呼び出されてたのなんだったんだ?」
「ああ、あれな」
陽介は、照れくさそうに笑った。
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『どうした、宇津木』
職員室に入ると、担任の高木が心配そうに話し始めた。
『こないだの中間テスト、前回に比べて全体的に点が落ちているだろう。学年順位が一気に20番も落ちたぞ。何かあったのか』
高木に示された成績表を見ながら、心当たりのある陽介は元気に答えた。
『すみません! 夏休みの間、バイトに力を入れすぎて勉強がおろそかになってました!』
陽介の高校は、バイト禁止ではない。内容などを学校に申請することにはなっているが、よほどのことがなければ却下されることはない。
『元気に威張るな。そういや、何か買うとか言ってたな』
父親ほどの歳の高木だが、気軽に、しかし親身になって生徒の相談に乗ってくれる頼もしい担任だ。
『はい。望遠鏡を買いました』
『天文部らしい買い物だな。あれ、高いんだろ?』
ごにょごにょと陽介が値段を教えると、高木は目を丸くして俺の給料の、とぶつぶつ言いだしたがすぐ我に返る。
『ごほん。まあ、お前の場合は進路もはっきりしているし、対策も立てやすいだろう』
一瞬だけ陽介は眉をひそめるが、すぐににぱっと笑顔に戻った。
『とりあえず目標は果たしたので、今後は勉強に力を入れていくつもりです』
『自覚があるなら大丈夫だな。来月の期末はがんばれよ。ああ、勉強のことでなくても、なにかあったら遠慮なく相談しろよ』
『はい。ありがとうございます』
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「職員室呼び出しの陽介くーん」
からかうように呼ばれて陽介と諒が振り向くと、そこには同級生の女性徒が一人いた。
「皐月」
カバンを持って近づいて来る女子は、藤本皐月。セミロングの柔らかい髪といきいきとした明るい目が印象的な美人だ。陽介と諒とは小学校からの幼なじみで、かけもちだが天文部に所属している。
「真面目な陽介が呼び出されたって、みんなざわついていたわよ? 何かあったの?」
「たいしたことじゃないよ」
「中間テストの成績悪かったって高ちゃんに呼び出されたんだよ」
「バイトばっかりしてたからなあ」
机に腰掛けて陽介はのんきに言った。
「望遠鏡だっけ」
「ああ。もう目的は果たしたからバイトもやめたし、期末は大丈夫じゃないかな」
「大丈夫じゃなかったらヤバいだろ、お前。……親御さん、なにも言わなかったのか?」
遠慮がちに言った諒の問いに、陽介は肩をすくめる。
「昨日もらったテスト結果置いて出てきたから、帰ったらなんか言われるかもな。まあ、なんとかなるって」
そんな様子に、あえて諒はそれ以上深くは踏み込まず軽く返した。
「そっか。皐月は、今日は天文部?」
「うん。諒は陸上、まだいいの?」
「臨時休部。なんか整備するとかで校庭使えないんだって。あーあ、仕方ない。一人寂しく帰るか」
諒はおどけて言うと、じゃあな、と言って教室を出ていった。
「また明日ねー。陽介、行こ」
「ああ。……あ」
ふいに陽介の視線が、廊下を横切っていく姿をとらえた。
「ごめん皐月、先行ってて」
「え、あ、ちょっと陽介!」
走り出した陽介の先に誰がいるか理解した皐月は、わずかに眉をひそめた。
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