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約束してね。恋をするって  作者: 和泉 利依
第四章 星の降る夜
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- 6 -

 観測会のことは、事前に班のメンバーにも話してある。流星群と聞いて最初はみんな行きたいと口々に言いだした。彼らが想像するのは、一面に流れ星が流れる夜空だ。けれどその実態は、多くても1時間に10個程度。もしかしたら2、3個なこともあると陽介が説明すると、一緒に行きたいという言葉は穏やかに撤回されてしまった。


「そうだけどさ。いつ流れるかと思って空を見上げていて、すうっと星が流れるのを見た時は、すごく感動するぞ。今日じゃなくてもいいけど、いつか一度見てみろよ」

「宇津木君て案外とロマンチストよね」

「え? そうかなあ」

 陽介はソフトを食べ終わると、残った紙をくしゃくしゃと丸めた。


「そうよ、ね、皐月」

「顔に似合わず、そうかもね」

「顔は余計だ」

 わざと膨れて見せた陽介に、みんなが笑った。


「ふふ。でも皐月もそうよね。二人で夜空を見るなんて、ロマンチックじゃない」

 百瀬が含みのある笑顔で言うと、皐月が焦る。

「ちょ、やめてよ、久美」

 百瀬と皐月、もう一人の女子の久保田は同じバスケ部で仲がいい。当然、皐月の気持ちも二人は知っている。


「いいじゃん。宇津木君、今日は皐月をよろしくね」

「ああ。木暮先生もいるし、危険なところにはいかないから」

 よくわかっていない陽介がうなずいた。

「頑張ってね、皐月」

 いろんな意味の感情を込めた声で、久保田が言った。

「う、うん」


 皐月は以前から、自由行動の夜に陽介に告白するつもりだと百瀬たちに告げていた。

 さすがに、修学旅行の前に告白するのはためらわれた。もし陽介にその気がなかった場合、同じ班で行動するのは気まずいことこの上ない。無事に自由行動日を過ごせたら告白しようと、先日までは思っていた。

 けれど、最近の陽介の姿を見ていて、皐月は本当にそれでいいのかわからなくなってしまった。


「まあ、そんなに山奥に行くわけじゃないんだから……」

 笑った陽介が急に立ち上がった。

「陽介?」

 皐月が見上げるより早く、陽介は走り出した。呆気に取られた皐月は陽介の走っていく先を見て、小さく息をのんだ。


「藍!」

 陽介たちと同じく班行動をしていた藍は、振り向いて目を丸くすると逃げるように走りだした。

「待てよ!」

「藍?!」

 一緒にいた平野たちも目を丸くしている。走っていく陽介の後ろ姿を、皐月は唇をかみしめて見送った。


 本当は、気付いていた。今日も一日、班行動の最中にあちらこちらでうちの高校の制服を着た集団とすれ違うたびに、陽介がロングヘアの女子を目で探していたこと。

 今陽介が走っていたのは、その探していた人物をようやく見つけたこと。


「皐月」

 百瀬が気づかうように皐月の肩に手を置いた。皐月は、そんな百瀬に笑顔を向ける。

「さ、ホテル帰ろう。もうすぐ集合時間だよ」

「おう。陽介の奴はどうする? 急にどうしたんだ? あいつ」

 一人、何も知らない小池が陽介の走っていった方を見ながらのんきに言った。


「ほっとこう。子供じゃないんだから勝手に帰ってくるわよ。馬に蹴られちゃかなわないわ」

「え、そうなのか? なんだよ、うまくやったなー、陽介」

「そうね」

 寂しそうに笑う皐月を、諒や百瀬は痛ましそうに見やった。


  ☆



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