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約束してね。恋をするって  作者: 和泉 利依
第二章 それぞれの嫉妬
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- 6 -

「おかえり。なに、お母さんに小言もらった?」

「ただいま。こないだのテスト、成績落っちゃって」

「ふーん。またお姉さまが勉強みてやろうか?」

 にやりとして言った香織の言葉に、陽介の顔がひきつる。


「姉さん、スパルタだからなあ。行き詰ったらお願いするかも」

 陽介の答えにうなずいた香織は、真面目な表情になると階段の手すりにもたれて聞いた。

「でもさ、あんた本当にこれでいいの?」

 陽介は一瞬きょとんとしてから、香織の言いたいことがわかって苦笑する。


「医者になるのは嫌じゃないよ」

「ふうん」

 目をすがめて香織は続けた。

「まあ、あの父さんと母さんを説得するのは大変だろうけどさ。なにせ、医者以外の職業をとことん見下してるもんね。でも、陽介の人生は陽介のものなんだから、後悔しないようにちゃんと自分で進路を選びなさいよ」

 ぽん、と香織は陽介の肩をたたいて降りて行った。陽介はうん、と小さく返事をすると、階段をあがる。


 部屋に入った陽介は、カバンをかけると制服を脱いだ。ふと、部屋の片隅に立てかけてある望遠鏡が目に入る。

「自分の人生か……」

 今の選択が正解かどうなのかは、まだ陽介には判断がつかない。そもそも、正解なんてあるんだろうか。


 夏休みにバイトをしたいと言った時、最初両親には反対された。夏季講習と両立させると約束して許してもらったが、結局休み明けの試験は散々だった。

 ただ。そうやって手に入れた望遠鏡で星を見た時、想像以上に胸が震えた。

 人に与えられたものではなく、自分の力で手に入れたもの。

 今選んでいる進路を進んだ時、同じように胸を震わせることができるのだろうか。


『実際に自分の目で見たものだから』

 陽介の頭の中に、そう言った白いワンピース姿の少女が浮かぶ。


(そういえば、今夜も来るのかな)

 やはり女性が一人で夜中に来る場所ではない。そこに藍が一人で来ているかと思うと、陽介の方がそわそわしてしまう。

(今度、ちゃんと話してみよう)

 着替え終わった陽介は、カバンから空になった弁当箱を出すと部屋を出た。


  ☆


 次の日の放課後、陽介は藍のクラスへと顔を出した。もう一度クラブに誘うためだ。

(あと、夜中に独り歩きするなって言っとかなきゃな)


「あ、平野」

 ドアの向こうに、見知った顔を見つけて陽介は声をかけた。振り向いたのは、平野という女生徒だ。藍と仲が良いらしく、いつも一緒にいるのを見る。


「なに? 宇津木君」

「藍、いる?」

 聞きながらクラスの中をのぞくが、藍の姿は見えない。


「うん、えーと」

 平野は困ったように首をかしげて言った。

「藍、保健室」

「あれ? なんか今日、委員会の仕事あったっけ?」

「ううん。さっき、倒れたの」

「倒れた?!」


「うん。あ、でもいつものだと思うから、大丈夫よ」

 声をあげた陽介に、平野は慌てて付け加えた。だがそう聞いても、陽介は安心などできない。

「いつも? 藍って、そんなに倒れることあるのか?」

「時々。……知らないの? 宇津木君」


 陽介は、せいぜい同じ保健委員会ということくらいしか学校での藍のことは知らない。

(もしかして、藍が昼と夜で違う顔を見せるのもそのせいなのか?)


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