後編 リバスパ廃人
一介の男子中学生の僕の手元に一夜で10万円が降ってきた。
16時間連続スマホでライブ配信を観ていただけなのに。
欲しいものは沢山あるが早急に必要なものはない。
かと言って堅実に貯金する気にもなれない。
しかし、豪遊して散財するのはもったいない。
リバスパ配信って面白いのかな?
やる側に立って配信者の気持ちを理解すればコメンテーターとしてのスキルも上がるんじゃないか?
週末。
早速僕は興味本位でスマホを使いリバスパ配信を行った。
コメンテーターとは別アカウント名義で「アマコメX」と名乗る事にした。
アマチュアコメンテーターXの略だ。
配信内容は僕が中学生コメンテーターである事を暴露する内容だ。
「というわけで昨日いきなり大金が手に入っちゃって試しに自分もやる側に回ってみたんですよ」
「中学生でその戦績はもうプロになれますよ」
マサツグという専業コメンテーターが俺を褒めちぎる。
他にも色んなコメンテーターが僕の痒いところに手の届くような良いコメントが大量にチャット欄に流れてくる。
気持ちが良い。
こんなに大勢の人間に相手にされて誰一人僕を否定せず褒めちぎられる。
僕は調子に乗って1時間の配信で2万円使ってしまった。
翌日。始業前の教室にて。
僕は激しく後悔していた。
昨日ものの一時間で二万円が消し飛んだのだ。
ゲームのアイテムや漫画がたくさん買える額だ。
リバスパ配信なんてバカのやる事だ。
もう二度とするもんか。
ちくしょう……。
「どうしたんだ。苦虫噛み潰したような顔して」
友人の相原が声をかけてきた。
「相原はさぁ。10万円あったら何する?」
「ゲームに重課金かリバスパ配信かな」
「どっちも下らないからやめといた方がいいぜ」
「何を偉そうに。どっちも経験者か。ブルジョアめ」
「ああ。リバスパ配信の魅力は分かった。でも僕は搾取される側に回りたくない」
「いきなり抽象的な話をするなよ。一体、何があったんだ?」
「言いたくない!」
「傲慢な奴だな」
「うるさい」
「分かったよ。てか来週末遊ばない?」
「来週もリバスパコメンテーターするからパス」
「あんなの長時間つまんない配信観て雀の涙程の収入しか手に入んねぇじゃないか。俺はもう足を洗ったぜ」
「金が手に入るチャンスを逃したくないんだよ」
「平井は将来ギャンブラーになるだろうな」
「将来なんてどうでもいいよ」
キーンコーンカーンコーン。
始業のチャイムが鳴った。
○
週末。
一日中配信に張り付いて500円しか手に入らなかった。
土日は優秀なサラリーマンが副業コメンテーターとして活躍する。
中坊の僕に勝ち目はない。
これなら相原と遊んでた方がまだ有意義だった。
憂さ晴らしにリバスパ配信でもやるか。
5千円分だけ。
「こんばんは」
あっマサツグさんだ。僕の事フォローして配信通知オンにしてたんだ。
でも僕はこんな奴のカモになりたくない。
「今日はマサツグさんにはリバスパしませんよ」
「それは残念だな。コメンテーターとして儲かる秘訣を伝授しにきたのに」
「本当ですか?」
「気持ち分だけでもリバスパくれたらDMで教えるよ」
「情報商材じゃないですか(笑)」
「俺、アマコメ君の事気に入っているんだよ。将来俺みたいな専業コメンテーターになれるよきっと」
こんな感じでマサツグさんのペースに乗せられて結局1万円リバスパしてしまった。
○
数ヶ月後。
夕方のニュースの特集で以下の内容が報じられていた。
「リバスパ廃人!? 有料配信中毒者続出! あなたのお子様は大丈夫?」
母親がそのニュースを食い入るように観ていた。
僕は気まずかった。
あの件以降、リバスパ配信にすっかりハマってしまい、手持ちの10万円とお小遣いとお年玉貯金だけでなく親のクレカショッピング枠50万円にも手を出してしまったからだ。
リバスパ配信で浪費した額、総額60万円。
両親からは大目玉をくらい、そして心配された。
両親はクレカを一旦利用停止という強行策に出た。
アマコメXのアカウントを消されリバスパ配信ができない僕は仕方なくこたつ名義のアカウントで現状の不満を暴露する普通の配信をした。
視聴者は数人しか来なかったが僕は全てを赤裸々に打ち明けた。
「てなわけで俺は専業コメンテーターの口車にまんまとハマってしまったんですよ」
「そのコメンテーターってもしかしてマサツグ?」
僕は虚を突かれた。
コメントの主は俺に10万円をくれた風俗嬢、あいかだった。
「あいかさん。マサツグを知っているですか」
「私に暴行した太客はマサツグよ。自身のアカウントを見せてはよく自慢していたわ」
リバスパ配信者みたいな事をしている。
専業コメンテーターなのに。
「マサツグとあのあと訴訟沙汰になって入ってきた賠償金がちょうど60万。私の手元にあるわ」
「賠償金を稼ぐために俺をカモにしてたわけか」
「こたつ。口座教えて。60万円振り込むから」
「なんでですか!? そんな大金受け取れませんよ」
「平気よ。私は今でも売れっ子なのよ。私に暴行を加えた挙句に子供から奪い取った金なんて手元にあるだけで不愉快だわ。これは元々あなたとあなたのご両親のお金なのよ」
「本当に受け取ってもいいんですか?」
「しつこい男は嫌いよ」
「じゃあ、すみません。頂戴いたします」
後日、僕はあいかさんから60万円を受け取り、両親に謝った。
これを機に俺はライブ配信界隈から離れる事にした。
○
後日。
「平井。今度の日曜日みんなでラウンドゼロ行くけどどう?」
相原が遊びに誘ってくれた。
「行く行く」
ネットの世界も面白いけど、リアルの付き合いも大事にしよう。
僕はまだ中学生なんだから。