殺戮と欲の記憶
ドラバルーラの王子・オンテリオは、目の前で繰り広げられる舞に思わず声を失い、漆黒の瞳を凝らしていた。
舞が披露されるは、居並ぶ王族や従者に、女官達が見守る、現王の宮殿の広間。
確かにオンテリオが贔屓にしている、、否、其れ以上の想いを抱いて、留学先であったリュリアール皇国から側近に見張らせてきた『元男爵令嬢の女官』の姿を、舞を理由に視界に囲う。
其の程度の提案だったはずなのだ。
「ナタユ、、此れはどの様な、状況、、か?」
「葬送の舞の、、披露、、かと?思いますよ殿下、、」
「否、違うだろ?」
「、、、」
死を扱う『新人として入った送り巫女』の顔は、ベールが頭から掛けられているが、高貴な雰囲気を纏っており、只の奴隷女官では無いと、佇む雰囲気からオンテリオは感じていた。
「あれを連れてきた、のは、お前じゃないのか?」
「、、そうですね。王子が召された令嬢と一緒に、砂漠の向こうからでしょうか。」
「という事は、お前にも想定外ということだな。」
其の『新人送り巫女』が、自身の父である王の正妃から、気紛れな咎めの刑に処されそうになるのを、単に止めるつもりだったのだ。
真逆、オンテリオが留学をしていたリュリアール皇国の辺境伯令嬢だとは、本人は思いもしないままに。
『ガキキキキキキキンンンンン!!!』
たおやかに交わる刀が、激しく音を上げる!!
偶然にもオンテリオ自身が気が付かない内に、再会を果たし、、
目の前で、件の元辺境伯令嬢と懸想の女官とが繰り広げる光景は、
2人の女による双剣舞のはずが、、
『キキキンンン!!』
「巫女の力なのか?俺には無数の男達の群が煙に巻かれた幻の様に見える気がするが、、」
そうなのだ、
オンテリオの目にはまるで幻想の様に大勢の男達が、刀を閃かせるかの雰囲気が『見える』気がするとしか、言い様が無い。
「もしかすると、巫女の力なのかもしれませぬし、踊りの名手ならば、情景さえも錯覚や幻覚を使うのやもしれません、、、」
己の懐刀とも云える親友であり、諜報側近でもあるナタユの顔をオンテリオが見つめる。
しかし、
オンテリオがドラバルーラ次期カーリフとして持ち得る知識など、遥かに凌駕する情報を頭に入れているナタユに敵う訳が無く、側近として傍らに侍るナタユの表情は読めない。
だからこそ、リュリアール皇国とドラバルーラ砂漠の境目に位置する魔獣の山脈地帯を根城とした囚人団に、ナタユを諜報として潜ませ、メルロッテをドラバルーラへと入国させたのだ。
「お前でも知らぬ出来事が、此のドラバルーラであるのか?」
其うナタユを揶揄するかに、オンテリオは美しい益荒男の口端を吊り上げる。
楽気に気安い表情をする主を、ナタユは忌々しそうに見やれば、
「本心からお言いではないでしょう?私とて、貴方様が留学をされていたが間に、伴侶となる相手を見つけたとは、知る由もない。」
態と主と側近では無く、親友への言葉尻を出す。
「お前を置いての留学の事か?、、、根に持つなよ、ナタユと我との間柄だろう?」
だから、オンテリオは隣で立つ男に、更に砕けた微笑みを向けた。
にしても、、、
特に『新人の送り巫女』が纏う雰囲気が、繰り出された足踏みの響きに呼び起こされたかに、一瞬にして全くの別人へと変えられた様に感じ、先程からオンテリオは肌の粟立ちが止まらない。
『『ダダン、ダダン、ダダン!!!!!』』
贔屓の女官―オンテリオが密かに愛するメルロッテと、『送り巫女』の舞が交わり、互いの足が踏み鳴らされた!!!
オンテリオとナタユの遣り取りなど、広き宮殿の
中心で無心に身体を動かすニアには、勿論聞こえる筈も無い。
(何の因果なのかしらね、クロ?)
最早、其処で鮮やかに刀を型に持つ『巫女』は、『呪われし巫女』でも『タニア・エンルーダ』でも無かった。
(アリエスの子宮の記憶で、、、)
女人であるニアには、己の中心から剃り勃つ男根は持たぬが故、
(エリザベーラの未練で宿した、、)
赤子を芯から支える事も出来ない。
(我が子を胸に抱きなから、)
肩腿にシルビーの重心を降ろすと、肩腕で推し抱き、
(王族に命を請うなんてね。)
反対の腕に持つ刃を、抱く者を掠め奪おうとする相手の首へと真っ直ぐに向けた。
罪人達の群勢に、今はメルロッテが重なり、
『『ガキン!!』』
共に向けた刃を、撃ち放つ音が木霊する!!
同時に、己の子宮が伸縮するに震えたのが
解ると、瞼を閉じてニアが呼吸を整える。
(ドラバルーラの後宮も、きっと女の園の地獄なのでしょう、、)
ニアを纏う空気が、ほぼ裸体に等しかったアリエスの腰を抱き上げるクロの、執拗な雰囲気へと変化したのだった、、、
(2つ前の地獄は、、、)
細胞にまで意識が覚醒すれば、身体は自然と『振り』を動けるのだとニアは感じ、刀を振るメルロッテ相手に、自傷気味に笑う頬を涙が伝う。
「軍事国家の宰相令嬢アリエス。」
1言呟くと、ニアが開いた瞳は、かつての政治犯クロが其の瞳に宿していた、闇色の光を放ち、
『ダダーーーーーーーッ!!』
再び相手に斬りかかる!!
『漸く、極上の女が来たんだ。テメェらにゃあ、、
やらねぇ。』
無数の男達を、血飛沫を上げる素手で半殺にした全身タトゥーの男・クロは、地獄の檻の中で独裁者として、囚人達の前で生娘だったアリエスを犯した。
ニアの身体がシルビーを抱えながら空中に飛び上がる。
(滑稽よね、、観られながら犯されて死にたいのに、舌さえ弄ばれ死ねなくて、、)
薄暗い闇に無数に色に揺らめく、獣の視線が、ニアの眼下に広がり。
白く滑らかな背中に伸びる無数の男の手を、隠し持つ刃でクロが薙ぎ払うと、絶叫が津波となって巨大な牢獄に木霊した。
『お嬢さんよぉ啼くなよな、下衆野郎達にゃあもったいねぇだろうが。』
(どうしようにも死ねなくて、、犯し続ける男に縋らないと、生けない、、)
ニアは手にした刀を構え直した。
投獄された初日こそ、看守の目を欺くかに囚人達は素手や肉弾戦で、互いにアリエスを奪い合おうとした事を蘇らせる。
が、次第に既に互いは隠し持つ刃を使い始め、初日にアリエスの処女を貪った男も、刃にて相手を屠た。
「うっ、う。」
『があっは、堪らんな!!こんな最高なのがあるか?!』
自分を片手に抱き込みながら、四方八方から手を出す囚人の群勢を片っ端から血の海に沈めると、其のまま男は、アリエスの双房をベロリと舌で舐め上げ顔を埋めるや、熱り立つ肉棒を一突き振り込ませる。
(喘がせる自由さえなくて、、)
今でも忘れられない。
『暗殺舞』で汚れて不揃いな刃を揺らしながら、男達がアリエスの髪を掴めば、血飛沫を上げて其の囚人の身体がクロに刻まれる。
『触んなよぉ。そんなに欲しいかあ?』
獣の様に背後から侵し上げて、胸が指で形が変わる程に玩ぶと、
『うおあァァァい!来いやあ!!!!』
爛々と両目を薄暗く光らせ、又殺す。
『ザバッ!』
ニアの鼻先をメルロッテが持つ刀が掠めて、意識が戻る!!
其の刃を手にして犯す男の顔は殺戮の最高時に合わせて、欲の絶頂を満たし、恍惚とアリエスを見下ろしては、巨大牢の惨状に狂気するのだ、、
取り憑かれた様に腰を振っては、双房の頂きを何度と満足気に舌舐め廻し、アリエスの臀部を揉みしだく。
『っやぁ、!』
『はあぁ、見られてヤラレてるのに、搾るなって。あ、あ、ずっと繋げといてやるよぉ お嬢さんなあ。』
(凌辱と屍。無制限の性事に反応してしまう子宮に、悪寒さえ這い上がる。)
『どいつも此奴もイキたおれろ!!』
暗殺の陣を作りながら襲撃をする輩を、手当たり次第に殴り斬り殺して、再び絶頂を迎えた男は、血と汗と性液の中、
『なあ、お嬢さんもなあ。』
片手に刃をダラリとぶら下げ、アリエスを抱き直し、クロは骸の山に座している。
ニアの刃がメルロッテの刀を空中へと弾くと、刀はクルクルと旋回し、、
『ザシュン!!』
正妃が座する床に突き刺さった!!
「暗殺舞ですわ!!陛下!此れは葬送の舞ではございません!」
と同時に、パレス・カーリフ王宮殿広間に別の女の声が差し込まれ、
ニアとメルロッテの舞が中断した。