閑話 関所橋陥落後
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リュリアール帝国の辺境地エンルーダにて、エンルーダ民と山人達が、関所の再構築を成し、1ヶ月前に落とした物と良く似た木製橋を大地の裂け目に橋渡す。
地底から吹き上げる風が、底の見えぬ大地の裂け目から魔物の様な音量を上げる中、両地の片方ずつを占める衣装違いの漢達が、互いに睨みを効かせていた。
「若、、漸くっすね。」
橋が掛けられる場所に立つ傍らには、遠目でも一際目立つ赤髪の漢が2人。其の1人の横で、飄々とした調子で語るのは、赤髪の漢の側近ザリア。
「、、、」
「てか、股間が涼しくないっすかね?やっぱ、その、、」
「ザリア、黙っとけ。」
伸ばした襟髪を三編みにした赤髪の若い漢が、次期領主のオーラを湛えながら、揶揄るザリアに一瞥をくれれば、反対側に立つ赤髪の漢が、腰の剣を鞘から抜いた。
満を持し領主アースロが上げた真剣の合図と同時に、巨大な木製橋が、、音を立てて渡されていく。
「ま、あの御仁達は早々に引き上げましたしね!」
ザリアは目の前で行われる橋渡しの作業を眺めながらも、相変わらず隣に立つ、『己の主』に口を開く。
「あの皇子、どうしたいんですかねー?もう、自分が処刑した人間の事を、アレコレ詮索したとて、死人が生き返りはしないでしょーに。」
目の前に今掛けられるのは、エンルーダ復興の最後の関所橋。
エンルーダ領と隣国の砂漠との間にある、不毛な山岳地帯との境界に横たわる、大地の裂け目に掛けられる橋。
ニアが渡った橋だ。
「あん時、あの皇子の顔ったら酷いもんでしたからねぇ。若の血みどろの下半身に声も上げれないって感じで!!」
辺境エンルーダとリュリアール帝国側にある大地の裂け目には早々に国内用の関所橋が掛けられた。
魔獣戦が終焉を迎え、エンルーダ領に閉じ込められていた王の使者隊や他領からの客人達は、逸早く復興された国内の関所橋を渡って出領している。
「でも瀕死の若で良かったっすよね、あれ以上詮索されちゃ、きっと若はボロ出したでしょうし。で、お嬢には『薔薇の痣』とかいうのが?」
ザリアが隣に立つ赤髪、、イグザムの顔を覗き込む。
エンルーダの漢達と山の人で同時に渡される橋が出来上がれば、すぐにでも両者の話し合いが始められる。
勿論、山の人からは、纏め役のランダが山岳地帯側から、渡される橋を指示しているわけで。
イグザムはザリアの問には全く反応を示さず、只真っ直ぐに最後に掛けられる橋の先を見据えている。
「ザリア、それ以上イグザムぼっちゃんを誂うな。緊張感が緩む。」
アースロの横から、領主の側近参謀のアミカスが顔を出して、ザリアの頭に小石を命中させた。
「痛て!!てか、アミカス参謀のぼっちゃん呼びも、どうかと思いますけどねー。ね、若!」
「橋が掛かれば、直ぐにランダの野郎を問い質す!ルール違反も甚だしい奴等にゃ、鉄槌だ。」
腕組をしたイグザムが、視線を外す事無く答える。視線の先に見える褐色の大男に、イグザムの意識は焦点を当てているのだ。
「ありゃあ、お嬢で戦争だよー。」
ザリアが肩を聳やかして、お手上げのポーズを取ると、再びアミカスから小石が頭に命中させられた。
間もなく関所橋が完全復活すれば、エンルーダ領主アースロがランダに条約の確認と抗議を行う手筈。場合によれば、エンルーダの漢達と山の人の小競り合い、悪ければ紛争になる。
山岳地帯に住む相手は、国中から集め捨てられた犯罪者。修道院を襲う時の小競り合いに比べ、一度紛争に発展すれば、エンルーダ側も本気にならねばならない山岳ゲリラ戦の強者。
そんな男達に、ニアは拉致されて消えた。
(まあ、良くて強姦三昧、悪けりゃ果てて刻まれ、死体好きの変態の慰めモノになってるよなあ、、)
決っして、隣に仁王立ちする主に言えない思考をして、ザリアはイグザムを伺う。
あの時からの主は、鬼の形相を変えない。もはや幽鬼に成り果てた様。
「1ヶ月だ。」
誰もが思い付く結果を知っていて、イグザムが一言呟くと、其の隣で剣を鞘に納めたアースロが、無表情のままに答えた。
「これでも最速だ。最終形態の猿人魔獣を造り上げ、屠るにな。」
其の間の魔獣戦を思い出した漢達は、一瞬無言になり、橋が完全に掛かった合図を受ける。
「いやー、それ出来たのって、血みどろ若を引き摺って帰ったオレのお陰っすよねぇ。」
「ザリア、お館様には弁えろ。」
漢達がアースロを先頭に、巨大な橋の上に足を踏み込み、大地の裂け目を越えて行く。
「馬鹿の止血をして魔獣戦に合流し帰還したのは、馬鹿の側近の功労なのは間違いない。」
全員が己の得意とする武器を全身に仕込んで。
緊迫する橋上を、地底からの風が煽るように吹き荒ぶ。
イグザムの横で、自分のクピンガをヒラつけさせながら、ザリアは1ヶ月前の此の橋での事を、頭に浮かべ、思わず溜息を付いた。
(マジで、若、死ぬかと思ったって、、、)
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ザザザザザザザザザザザザザザーーーーー
ザザザザザザザザザザザザザザーーーーー
ザザザザザザザザザーーーーー
『タニアーー!!』
儀式を行う時に現れる緑の光と大樹の陣形が開けば、ニアが精霊へと捧げる詠唱が辺りへと流れる。
と、空中に放り出された衝撃で、ニアが服ごしに手にしていたイグザムの男根が、布ごと空へと上がった、、、
あたりの空気が揺らめき、誰もの目前が光り輝く。
『パ―――――――――ン!!』
『若ーーーー!!!』
輝く空間に、響きわたるザリアの突然絶叫。
『、、あ、あ、あ、、なんて、』
次第にイグザムを囲む様に光の粒子が集まり、イグザムの下半身から全体へと流動しながら包みこんだ!
エンルーダ側の岩に杭を埋め直したザリアが、虚空へと投げ出されたイグザムのボウガンに鎖を放って巻き上げる。
裂け目にぶら下がり、イグザムはザリアに介抱されながら、遠ざかるニアを光に包まれながら睨み見た。
木橋とはいえ、巨大な関所橋がエンルーダの領地境に横たわる大地の裂け目へと、無惨に落とされていく。
イグザム達を追い掛けて来た2頭の魔獣は、大地の裂け目に落ちて姿は見えないが、、
『ブォ!ブオオォロオオオ。』
『フーブォーブオオォロオオオ。』!!
何処までも落下の悲鳴が地底から届いてくる。
『愚おらあああああっっっつ!ザリア!!!放せ!連れ戻す!!』
『馬鹿若ーーー!!、意識ーぶん戻せー!ー、!ーー』
男根を自ら切り落とした主の下半身から血飛沫が上がり、ザリアは蒼白になる。
(若が、、)
が、見れば、精霊の力なのか、イグザムの下半身から噴き出した血液が作る染みは、思うよりも広がる気配がない。
それを瞬時に見つけたザリアは一瞬、安堵の息を漏らした。
『バラバラバラバラ、、』
『ガコーーーン』
『ガコーーーンンン、、、』
山の人が退却する音が遠のく。
ザリアが巻き付けた鎖を断ち切ってまで追い掛けようと、虚空で藻掻くイグザムの動きで、ザリアの腕が持って行かれそうになるのを食い縛る。
(とにかく、若の意識を狩ってでも、戻るしかねぇ!)
ザリアだけでなく、自分が羽交い締めして抑える主も充分に理解している。
今、領主アースロの次、若しくは領主を凌ぐ力を持つイグザムが魔獣戦に戻らなければ、エンルーダは文字通り死ぬ。
「後生です!若!」
ザリアはボウガンの鎖を無理矢理でも巻き上げた。
ザザザザザザザザザザザザザザーーーーー
ザザザザザザザザザザザザザザーーーーー
ザザザザザザザザザーーーーー
『タニアーーー!!タニアーーーーー、、』
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