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幻影となりて会う

 確かにニアの目の前の虚空に浮かび、木漏れ日色に光る幻影は精霊では無く。


 輝くグリーグの形だった。


「どうして、、、わたし、、送れて、」


 ニアの思考が一瞬固まる。


(グリーグの核石を精霊界へ、ちゃんと送れていなかったの、?、)


 ニアが最後に見たグリーグの姿は、覗き見る穴の向こうで凄惨な戦闘を繰り広げた末に、屈強な身体をクモの巣状に滅多刺しにされ、


「グリー、、グ。」


 留めとばかりに額へ太い魔獣矢が刺さり、弾け飛んだ身体と、開ききった真っ赤な瞳孔。


 馴れ親しんだ面影は無く、ニアが野壁の中で声を殺して見送るだけしか出来なかった、グリーグの命果てた光景だった。


(あ、、、もしかして、まだ浄化が出来ていなかった『ガラテアの核石』のせい?)


 たた、最後にニアが見た姿とは裏腹に、今見えるグリーグは、墓守りの建屋で何時も優しく、穏やかだった表情を湛え、狩りの時と同じく髪を『妻のリボン』で纏めている。

 

「出て、来て、くれた、?」


『お、ありゃあ、エンルーダの前王だ!』

『誰だ、あれぇ?『若いのは知らんかぁ』』

 

 思いがけない再会でニアの心が慄く。が、ニアの前に集まる山の(もの)が一斉に騒ぎ出した!


「お前ら、静かにしろ!!呪われた巫女が何か話している!!」


 山の(もの)が騒然とするのを制したのは、やはり頭領・ランダだ。しかしランダの表情も明らかに、現れたグリーグの形に驚いていた。


 対岸の巨木での様子など、全く目に入らないかのニアは、一心に出現した光を見つめていた。


「なら、、連れて行ってよ、、一緒に、、」


 絶対的に信頼出来る面影。


 再び会えた相手の形を取る光にニアは戸惑いながらも、思わず虚空のグリーグに向かって手を伸ばす。


 身体を精霊界に送った後、いよいよ核石を浄化せんが為にグリーグが記憶を読んだ、ガラテアの核石が呼び寄せた奇跡だとニアは感じた。


(グリーグが、石板を閉める前に、ガラテアの核石を託してきたんだった。)


 其の存在を失念していたニアが、懐に忍ばせていたガラテアの核石を、ゆっくりと抑えた。

 

 すると核石が一弾と光り、虚空に浮かぶグリーグがニアの元へと降りて来くる。


『ニア。魔法使いの目で視た。今まで、よく生きた。妻を、、思い出す。』


 手を出し懇願するニアに向かって、グリーグの幻影が、口読みで伝えてくる。


(!!!)


 本来は精霊界との繋がり役だけを担う墓守りの番人は、精霊と意思の疎通が出来ない。其処までの力が、墓守りの番人には無いと、グリーグからニアは聞いていた。


「わたしの、、。ガラテアの記憶で、、読めたの?それに今、、グリーグと、話せている?」


 ニアの問いかけに、グリーグの幻影は静かに頷くと、ニアの口は苦々しく結ばれた。


 人間の魔法コアになる核石には、其の人物の記憶が蓄積される。身体の精霊界に送り出した後に残される核石は、浄化で記憶や意識を解して、解き放つが、墓守りは相手の記憶が読めるのだ。


『ガラテアの目から。たくさんの姿が重なる。』


 グリーグの視線がニアに降り注ぎ、ガラテアの視界記憶をニアに紡いでいく。


『ニア、の後ろに5人。』


 こうしてグリーグと意思の疎通が可能なのは、話が出来なかったグリーグの口読みを、普段ニアが出来たからなのか。


 そんな風に感じつつ、とにかく、ニアは必死にグリーグの口を読む。


「そう、5人、、?、ごめんなさい。気分が良い記憶じゃ、なかった、、でしょ。」


 ニアは、グリーグから視線を外し、恥ずかしさで俯いた。


 何度も断罪された記憶を、占い師だったガラテアが全て知っていたのかは分からない。

 

 それでもグリーグが、少なくとも1つ前の前世マリアナの姿をガラテアを通じて見たのなら、火炙りの刑場だったはず。


(断罪場面なんて、、グリーグには辛い記憶と重なったよね、、酷い格好をしていたし、、だから、奥さんを思い出たのかも。)


『ニア。』


 ニアの憂いを見越し、包む様な微笑みを浮かべるグリーグの幻影が、ニアの頭を撫でる。


 感触が、あるはずが無いにも関わらず不思議にニアは、頭が暖かくなる様に感じた。

 

『パ―――――――――ン!!』


 と、同時にグリーグの幻影が片足を膝ま付け、振り上げ飛ばした大鎌を小屋の土台となる板へと突き刺した!!


(騎士が、主に忠誠を誓う型?)


 唖然とするニアの耳に、初めて周りの喧騒が届き、山の(もの)達が各々叫ぶ声が響き渡っていく。


『『『!!!!』』』

  『前エンルーダぁの王がぁだ!!』

     『どぉおゆうことだぁ?!』


 グリーグの口元は動かない。只、グリーグが取る姿勢が、ニアの立場を無言で現す事となるが、ニアにはグリーグの真意までが分からない。


『シューーー!!!ガキッ!』


 躊躇うニアが立つ巨木の枝に、一本の皮縄が飛ばされたかと思った瞬間、グリーグの幻影の横に男が皮縄を使って渡って来た!


 ニアが『頭領』と見た、山の(もの)・ランダだ。


「前エンルーダの王よ!呪われた巫女が、王の主か!!」


 グリーグ自身も長身な上に、墓守りには似合わない筋肉を纏っていたが、ニアの前に仁王立ちするランダは、昨日の山の(もの)とは比べられない程に引き締まる筋肉が身体を二倍は大きく見せている。


「我等はエンルーダの王には、皇帝への土地御越しを交渉して貰った借りがある!結果、決裂したが、エンルーダ王とて妻君を屠られたのは、我等が為だ。エンルーダ王が膝を付くならば、其の時の借りを返そう!」


 ランダの言葉を聞いた為か、グリーグの身体から吹き出る泉の様な柱が立ち上る。


「あ、、」


 グリーグの身体が、粒子になって消えていた。







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