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山の人攫い

 朝と共に、其の者達は現れた。


「呪われた巫女よ!出て来い!!」


(存外、訛っていない山の(もの)がいるのね。)


 ニアが予想していた通り、朝日が登ると共に山の(もの)が、ニアが居る小屋が建てられた巨木へとやって来たのだ。


 外から叫ばれた内容を聞いて、ニアは徐ろに小屋の表へ出る。


 結局ニアは、小屋がある巨木から降りる事が出来なかった。

 降りられなかったというよりも、俄に張ってきた下腹部に癒やしの力を掛けると昨夜は、そのまま意識を飛ばしてしまい、気が付けば朝日が登っていた。


 (本当なら、、臨月も近いから。只でさえ早くに破水して、流産をしかけた身体なのだし、、)


 毒杯を受け、隠れて住む墓守りの建屋に、急に押しかけ来た義兄イグザムの姿を見た途端に、ニアは腹に激痛を覚えた事があったのだ。


「クロ、、かもしれない、相手だった、から?」


 今考えても、急激な体調の変化だった。

 

(あの時はストレスかと思ったけれど、もしもイグザムが前世に会ったクロだとしたら、、身体が拒否したとか、、)


 とにかく其の時、ニアは出血したのだ。


(それが、、)


 もともと平民だった時から、珍しい光属性の魔力持ちだったとはいえ、妊娠をしてから何故か大量に増えた魔力と、使える様になった癒やしの術。


 医師を呼びに慌てて出ていったイグザムの姿を見ながら、ニアは己の癒やしの術で危機を止めたのだ。


 そうして騙し騙し安定させてきた妊娠の身体。それもさすがに限界になりつつあるのだろう。


 そもそも墓守りの建屋で襲撃を受けた後、野壁の穴倉を歩き切った上に、『死人の関所橋』からニアは攫われて来たのだ。


 身体の負担は計り知れない。


「何もかもが謎で、、それに、これから、どうなる、かしら、、」


 ニアが小屋の外に出て見ると、集まっていた山の(もの)、其の数はザッと十数人。


 全て、男だ。


 しかも、、


『お、おぇ! ありゃあ 腹ぁがデカくねぇか。』

『イーさぁ、アレをやるつもりでぇかよぉ…』


 投げられる言葉から、ニアが妊娠している事を、橋から攫った男達は分からなかったらしい。

 

 確かに小屋の中は薄暗く、ニアが着ていた墓守りの儀式服は、身体の線が分からない仕様だ。


 目に見えて、小屋から出て来たニアの腹を見た山の(もの)達が狼狽えている。


 (ああ、1つ前、、大公令嬢マリアナの時に、セイドリアン王太子の手で火炙りの刑を受けた時よりは、少ない観衆だわね。)


 其の中でニアは思わず、そんな事を考えてしまった。


 あの時も今と同じく、着ていた服が殆ど無いに等しかったからかもしれない。

 薪の上に吊り上げられた白い脚の付け根さえ、自分の目にも見える有り様だった。

 

 深窓の大公令嬢マリアナ。


 にも関わらず、肢体の殆どを曝け出す様な刑服の上、看守の執拗な暴行で千切れてしまったボロ布は、一体何処を隠していただろうか。


 (かつて婚約をしていた女が、視姦される状態を、王子セイドリアンなんて、とても冷えた目で見ていた。それに比べたら、今なんて何でも無い。)


 稀代の悪魔女を、怒号せん為に集まる民衆の熱っ風に靡く、汚れた長く伸ばしたブロンドヘアーが、辛うじて豊満な胸の膨らみを、慎まやかに覆っていたのが、まだ救いだった。


(救国の聖女ローズィを、嫉妬から病原菌で殺めようとした、、其の菌さえ民衆に疫病と成した張本人、、なんて濡れ衣も、今は丁度いいヒントだわ。)



 巨木の小屋から対岸ともいえる木の枝に、昨日見た様な身なりの男達が居る。


 其の中でも一際、


 派手な羽根飾りを頭に付けた男が、聞いていた『頭領』なのだろう。


 ニアは交渉の相手を見極め、相手が再び口を開くのを待った。


「お前が我が同胞に害を成したとは、本当か!!」


 男は自分達が攻撃を受けたと、ニアを糾弾するつもりだろうが、最初に人攫いをして暴行しようとしたのは、山の(もの)の方だ。

 話が出来る相手かなど、考える余地などニアには無い。だから、、


「『呪われた巫女』なる妊婦に、無体を働くから出た結果!!まだ理解出来ないなら、一族の男根を燃やし尽くす!!」


 こごまで来れば、ニアも破れかぶれで、叫ぶ。


 『呪われた巫女』がどいう事かはニアには分からないが、ここはハッタリでも何か目に見える力を見せる必要がある。


 ニアは考えて、精霊の召喚を始めた。


 残念ながら攻撃魔法は使った事が無い上、今しがた自分が叫んだ様な、男根を一斉に立つなどの芸当が出来るはずが無いのだから。


 ニアは墓守りの建屋で、グリーグが教えてくれた通り、両方の腕を伸ばして指先に力を、込める。


 そして、精霊を召喚する呪文を詠唱し始めた。


(とにかく精霊よ、助けて!)


 俄にニアの指先に召喚陣が出現し、光を放ち始める!!


『『『ウオオオオ?!!!』』』

 『バンダ!やめさぁせろぇ!!』

『イヤダァ、、サンが、わりぃだろ!!』


 途端に山の(もの)達が、自分の股間を抑えながら木々から逃げ惑い、ニアの目の前はパニックになった。


 ーーーーーーーピカッ!!!


 鋭い閃光が柱になり、緑の幻影がニアの前に、

浮遊し現れた!!


 「!!!」


 召喚したニア自身の身体が強張る。


 目の前に出現したのは、精霊では無く、、


「グリーグ!!」



 





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