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死人の関所橋

  斯して。


 イグザムが『黒幕』と思しき女の姿を視界に捉え、ウイルザードが会頭アーサーの魔道具で、エンルーダ領土内の姿を確認していた頃。


 ニアは、、暗い野壁の中で這いつくばる様に歩き、どれ程の時間が経ったのか分からなくなっていた。


(此の先は、一体どこに続いているの?)


 暗闇への恐怖に、緊張度は自ずと上がる。


が、ニアは漸く前方に、僅かな光を視界に捉えた。


(外?それとも又、物見の穴?)


  光が差す理由をニアは全く 思いも付かなったが、懸命に歩いた先に見えてきたのは、野壁の最終地点となる出口。


「ここってもしかして、、」


 結局ニアが出た場所は、墓守りの建屋に一番近い関所橋だった。


 通称 『死人の関所』に通ずる森。

 その異名からも、普段から領民が近寄る事の無い場所だ。


(だから獲物が多いって、グリーグが狩り場にしていた森側に出たのね、、)


 辺境にあるエンルーダ領には、リュリアール皇国中から貴族の屍が運ばれる。

 

 皇族は王都シャルドーネに在る大聖堂で精霊界への『御魂送り』を行うが、喩え大公や公爵でさえ聖堂での御魂送りは叶わない。


 其の為、貴族達が命の灯火を散らせば、此のエンルーダにある墓守の建屋へと、どんなに時間がかかろうとも、供と一族を引き連れ『骸』を運び込む。


「まだ!猿人魔獣も、襲撃者も居ない、、」


 他領からの屍が、朝な夕なと関わらず運ばれる状況からも 、エンルーダ領民といえども忌避される森だと推測できる。


 とにかく注意深く辺りを見回してから、ニアは暗い野壁の中から、光が降り注ぐ森へと外に躍り出た。


 「っ!!」


 野壁の出入り口は、茨の木で目隠しされた自然の窪みを上手く使っていた為、棘でニアの顔に傷がいく。


 (それに!この足元の罠って!)


「もしかして、グリーグが仕掛けた罠、、」


 野壁の内側からは、敢えて罠が直ぐに見える様にしているのだろう。


 ニアは覚えのある足罠を見つけて、暫し佇んでしまう。


 「グリーグは、、喋れなかったけれど、、罠も一流ね、、」


 丁寧に設えられた罠ひとつ。


 身重のニアの為、栄養のある獲物を捕るグリーグの姿が深い森の中に見える様だった。


「なのに、あんな死に方する人じゃない。」



 ニアは、対魔獣武器で無数に串刺しされたグリーグの姿を思い出してしまった。



(ダメ。今は考えている場合じゃない。急がないと。)


 野壁の穴倉から外の光へ出たニアは、慎重にグリーグの罠を掻い潜り、森の境目を目指す。

 

 (、、エンルーダは特異な辺境の地。この先は、、)


 ニアが、目指す隣の領土との境いには、 極めて深い大地の裂目が在り、時折ガスが吹き出す場所が在る。

 隣国との境界線の如く、長い形をしたエンルーダ領に入る方法は、深く巨大な大地の裂目に掛けられた橋を渡るのみ。


 此の様な地形だからこそ、隣国との防波堤に成り得る領土なのだ。


 「『死人の関所橋』が、未だ落とされていなければ、、いける!」


 逸る気持ちを抑えながら、張ってきた腹を擦りながらニアは橋の姿を探した。ニアは妊娠してから墓守の建屋に来た為、森の中を歩いたことはない。


 地図などあろうはず無い森の中を、己の感で進む。


 エンルーダの関所橋は全部で3つ。 其の内の1つが墓守の建屋に1番近い『死人の関所橋』となる。


(死人の関所がある森で、此処を抜ければ橋 がある!渡れば隣の領土、、自由になれる。)


 ニアは必死に イグザムに教えられた話を、記憶を 総動員して思い出す。

 


 没落し平民になっていた母と娘。


 そんな実母がアースロの後妻となった時、1番初めの夜。


『花畑そうな頭に叩き込め。』と、イグザムに桃色の髪をグシャグシャと掴まれ、覚えさせられた事。


「領土戦の 合図が鳴って領民が城に避難したら、、

猿人魔獣が導入されて、、それから次の合図が橋を落とす合図のはずで、、その音が、」



ポポポーーーーーーーンンン、、

      ポポポポポーーーーンンンン、、


  

(!!鳴った!!)


 思い出した事を頭に描き浮かべながら、疲れで重くなる足を引き摺りつつ、ニアは後ろの様子に気を付け、急ぐ!!


(あの合図から、山の者が麓に降りてくるまでが、、、ああ、、もしかしたら猿人魔獣が来るかもしれない。!グリーグの罠に嵌ってくれれば時間を稼げるかもしれないけれど。 )


 ふと、焦りながらも歩くニアの頭に疑問が湧いた。


「?、、」


 あんなにも敵が墓守の建屋に来ていたにも関わらず、此の森の中は踏み荒らされた形跡が見られないのだ。


(こっちの関所橋は、あまり知られてなかったということ? )


 考えてみれば黒装束の襲撃者達は、やはり隣国の衣装に似ていたように、ニアは感じる。


(リュリアール国の民なら、この橋の位置も把握しているはずだから、、、)


 入った形跡がないとなれば、やはり隣国からの襲撃だったのかもしれない。それにしても余りに領土制圧が早過ぎる。


「この新しい轍がつけられているのは、 骸を運ぶための荷馬車よね。 きっとガラテアの時に着いたものだわ。 」


 もう目の前に『死人の関所橋』が出て来た!!


(それにしても、 ガラテアってまだ生きていたのね。)


 思えばニアが。たぇ何度も死しては生まれるを繰り返した 1番最後。マリアナの時にガラテアに出会ったのだ。


「あの時はまだ占い師だったのに。」


 幸いというか、勿論というか、関所橋に番人の姿は無い。ニアは急いで堅固な木橋を渡ろうと足を伸ばす。


(まさかガラテアが生きていて、リュリアール 皇国の貴族位の者達と同じ様に、、いいえ、それ以上に皇族に骸を守られながら運ばれるような大魔術師になっていたなんて。 )


 ニアの数気な運命を占ったガラテアが交渉してきたモノ。


「、、あれって! 」

 


 マリアナだったニアが、ガラテアの交渉で手放したものが、ガラテアの今の地位を築く何かになったのだろうか?


 そんな仮説を考えて、ニアは頭を振った。


「 ううん、今はとにかく逃げるだけ。 早くしないと橋が落とされ、『ブオオォロオオオ。』

       『ブオオォロオオオ。』!!」


(何!!)



ザザザザザザザザザザザザザザーーーーー


 幾つもある赤く光る目を異様な動きをさせながら、猛スピードで走る魔獣の声が、ニアの耳に届いて!!


「猿人魔獣?!な、の!それとも、山の者?、」


 渡ろうとした木橋が大きく揺れる!!


と、同時に、


「タニアーーーーーーーー!!!!」


(イグザムっ!)


赤髪を振り乱し、瞳を紅蓮に燃やすイグザムが、ニアの視界に見えた!!




大変な思いをされている方もいる時ですが、、、

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